第5話 暗躍の指針

「———おいおい、思った以上にやべーじゃんこの世界」


 俺はシエラから聞いた話を自分なりに整理したのち、そう零す。

 情報源たるシエラは自白剤の影響で現在白目を剥いて気絶している。


 そして、俺が聞いた話を簡単に纏めると。


 ———この世界の魔物は魔王の力で強化され、もはや並の人間どころかベテランの戦闘職の力ですら迂闊に手を出せず、既に世界の3分の1以上の生存圏を奪われている。


 ———魔王の力は魔物とは隔絶した差があり……既に別の国にて召喚された最高ランクの魔物を屠る力を持った勇者をも3度撃退、殺している。元は合計で2、30人を越えていた勇者は、今では5人しか残っていない。


 ———人類は既に5回ほど勇者を召喚しているが、今回の勇者召喚の規模は規格外で……本来は多くて5人程度と少ない。また、魔王を倒すことを諦めかけており、今はこぞって勇者を人類同士の戦いに投入。


 ———アドバンド帝国は世界有数の大国であり、魔王を倒すことを未だ諦めていないベインゼルク聖皇国と並ぶ数少ない国で、彼の国には既に3人の選りすぐりの勇者が存在し、全員が帝国の学園にて戦闘技術を学ぶと共に人間や魔物との戦いに駆り出されている。


 ———帝国は自らが育成した勇者で魔王を滅ぼし、その勇者を全面に立てることで世界の覇権を握ろうとしているため、ベインゼルク聖皇国の勇者を引き抜こうとしている。


 ———世界には、勇者と同等かそれ以上の力を持った者が5人存在している。


 ……まぁざっとこんなもんか。

 てか、俺等より先に勇者がいんのかよ。

 しかもその勇者様も魔王に3回も負けてて、今や勇者の総数も6分の1って……終わってない?


「……とんでもねー世界に転移させられたもんだぜ、全くよ」


 俺は大きくため息を零し、思考を回す。


 さて、粗方この世界の逼迫具合が分かったけど……ちょっと流暢にことを構えるなんてしてられないな。


 ———と言うことで、俺のやらなければならないことを整理しよう。


 1つ、柚月達は勿論、俺もそこらの魔物や戦闘職に負けないように強くなる。

 2つ、直近の目標が同じベインゼルク聖皇国とアドバンド帝国をどうにかして同盟でも結ばせる。

 3つ、勇者と同等以上の力を持つ者達を何とかして手中に収める。

 4つ、人類同士の戦いを一時的にでも止める。

 5つ、必要であれば魔王とも交渉をすることも視野に入れておく。

 6つ、個人で動き、才のある者を抜擢する。

 7つ、俺達が魔王を倒す以外で帰る別の方法がないかを調査する。


「……うへぇ、どれもクソほど難易度高けぇな。鬼畜ゲーかっての」


 しかしまぁ……俺がやらないと、柚月達を護れない。

 アイツ等に魔王討伐以外の余計な心配事を持たせるわけにはいかない。


 何て考えていると……ドアが3度ノックされる。

 相手は分かりきっている、柚月だ。



「———天、もう夕御飯の時間だよ。一緒に行こう?」



 ほらな?

 伊達に親友やってないんですわ。


「あいよー、ちょい待ちー!」


 俺はそう柚月に言葉を返すと、俺の足元で意識を失ったフリをしているシエラに声を掛けた。



「———んじゃ、俺達も行こうぜ。あ、下手な真似したら今度は容赦しねーよ?」

「……分かっています」



 それならおっけー。

 

 俺はシエラの縄を解きつつ、こっそり彼女の懐にとあることが書かれた紙を入れたのち、完全に固まってしまったシエラと共に身なりを整えながら扉を開けた。








「———……遅いわよ。全く……一体何をしてたのかしらね?」

「いや別に何もしてねーよ、マジで。だからそんな獣を見るような軽蔑の目は止めてもらおうかっ!」


 俺と柚月が食堂に着くと、既に美琴達が来ており……何故か俺だけに不審げな瞳を向けてくる。

 解せぬ。


「てか、俺よりその心配は恭平に言えよ。アイツ、めっちゃたらしじゃねーか」


 そう俺が目線を向けるのは……一心不乱に飯を食べまくるガタイの良い男。

 名を羽島はじま恭平きょうへいといい、俺の親友の1人だ。


「あ? なんて言ったんだ天! わりぃ、飯食ってて全く聞いてなかった! それにしても相変わらず仲いいなお前ら! ガハハハハハ!!」

「……アレが手を出すとでも?」

「……うん、無いな」


 いやでもアイツもアイツで、普段から女子に囲まれてるし度々誰かと付き合ってるからあるんじゃね、何て思ったんだよ。

 けッ、何で俺だけモテねーんだか。


 何て思いつつ、美琴が取ってくれていたらしいご飯を食べる。

 

 ……お、思ったよりうめぇじゃん。

 いやぁ、メシマズ世界だったら勇者の役目を放棄するとこだったぜ。


「あれ? 茉莉奈の奴はどこ行ったんだ?」

「あの子は他の子と……って、相変わらずあの子には過保護よね、アンタ」

「あったりまえだろ、あの子は柚月ラブな小動物だぞ? あんなきゃわいい子を俺が気にかけ———」


 ———バンッ!!


 突然、俺の言葉を遮るように、食堂の大きな扉が開かれた。

 そこから現れたのは、例の俺を嫌う騎士———レナだった。

 彼女は俺を見た瞬間露骨に顔を顰め……直ぐに『ざまぁ!』と言わんばかりのしたり顔をしてきた。

 

「お、やる気かコラ?」

「こらっ、やめなさいよ……アンタじゃ逆立ちジャンプしても勝てないわ」

「酷くね?」


 そんな軽口を交わす俺と美琴だったが……次の瞬間には同時にあんぐりと口を開けて呆然とすることになる。


 

 

「———明日は訓練と言ったが……変更だ、明日は魔物と戦ってもらう」



 

 ……馬鹿ですか貴女は?


—————————————————————————

 ここまで読んで下さり、ありがとうございます。

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