第4話 最初の一歩

「———……ど、どういうことでしょうか……?」

「俺がカマ掛けてるとか思ってる? 残念でした、俺には全部お見通しなんだよなこれが」


 あくまで惚けるつもりなのか、不思議そうに首を傾げるシエラ。

 しかし、その割に微妙に顔が引き攣っているし、心無しか声も震え、体温も上昇しているように見える。


 伊達に周りの表情と仕草を見て行動してきた俺を舐めるんじゃないよ。

 ほら、柚月とか美琴って美男美女で恨み買いやすいからね。

 そして何より———。


—————————

シエラ


◯ステータス

【魔力】B【身体能力】C(B)

【知力】A(A)


◯詳細

19歳女、アドバンド帝国諜報員No.13。約1年前から潜入して使用人や王族から着実に信頼を得る。帝国からは勇者を調査し、可能であれば寝返らせ、不可能ならば殺処分するように命じられている。瞳の魔眼は『支配ヘルシャフト』と呼ばれ、瞳を見た者の思考及び感情を支配する。今まで出会ったことのないタイプの桐ヶ原柚月に僅かながら好意を抱いている。朝夢天に恐怖を抱いている。

—————————


 俺のスキルの1つ———鑑定が決定的証拠を俺の目に映し出していた。

 何なら看破のスキルすら発動したので、確実だろう。

 あ、最後の文章はスルーで。


 随分とスキルって便利だな……何て思いつつ、此方の動揺や恐怖がバレないように意識して普段通りの自分に寄せて口を開いた。


「それで、アンタはどうするん? もう俺に正体がバレてるけど」

「しょ、正体とは」

「———アドバンド帝国諜報員No.13。これ、アンタの識別番号か何かでしょ?」

「っ!?」


 今度こそ、シエラが露骨に反応を示した。

 そう確信した瞬間———俺の眼前にシエラの顔が迫る。

 瞬き1つにも満たぬ時間の中で、俺との数メートルの距離を移動したのだ。

 同時に、彼女の閉じた瞳が開かれた。



 ———真っ赤な瞳だった。

 


 彼女の瞳は何処か蠱惑的で惹き付けられる不思議なモノだった。

 同時に、自らの思考が鈍化していることに気付き———魔眼の術中に嵌っているのだと理解する。

 

「ぐっ……」

「ペラペラと話す貴方がいけないのです。私の正体に気付いているのなら……折を見て殺処分———っ!?!?」

「ヘヘッ、油断禁物……だぜ?」


 余程魔眼を信頼しているのだろう。

 シエラが余裕こいて俺から目を離した隙に、【万能道具庫】から取り出した『麻酔矢』を彼女の首筋にぶっ刺した。

 勿論彼女は俺を蹴り飛ばし、咄嗟に距離を取って麻酔矢を抜くが……もう遅い。


「こ、これ、は……ど、どうして私の魔眼が……」

「悪いな、シエラ。俺はこう見えて結構用心深いんだ」


 身体に違和感を覚えたらしいシエラだったが……流石にスキルで生み出された麻酔には抗えないらしく、数秒後には地面に倒れた。

 そんな彼女を見下ろしながら……俺は小さく息を吐き、【状態異常耐性】によって魔眼の効果が消えるのを待つのだった。









「———やぁやぁド素人に一本取られた気分はどうだい?」

「……」

「おっと、もう一度魔眼を発動した所でもう俺には効かんよ?」


 俺がニヤニヤと笑みを浮かべて【万能道具庫】より取り出した金属製のロープでグルグル巻きにされたシエラを揶揄えば、彼女は再び目を開く。

 しかし今回は全く効果を成さなかった。


 因みに魔眼の効果は、約10分で切れた。

 そして麻酔は約30分で切れたが……彼女が大分特殊なので普通の人間ならもう少し長く効くだろう。


 それにしても……予めこっそり試しておいて正解だったぜ。

 ミスれば危うく殺される所だったわけだ。

 まぁ正直効くかは運だったけど……次からはもっと慎重に動こう、うん。


「さて、と。随分と変態が喜びそうな格好になったよな」

「……何が目的ですか? 何故私を殺さないのですか?」

「おいおい俺を殺人鬼だとでも思ってんのか? 悪いけどこちとら平和な世界で生きてきたんだ、そう易易と殺人は出来ねーっつーの」


 ま、本当にヤバい時は別だけど。

 そんな言葉は飲み込んでおどけたように肩を竦めれば、シエラが呆気に取られた様な表情を浮かべたのち、瞳に嘲笑の色を宿した。


「……甘いですね、貴方は。そんなことではいつか足元を掬われますよ?」

「おー、実際甘さを捨てきれずに足元掬われたアンタに言われると説得力が違いますなー」

「…………」


 いや悪かったって。

 ちょっとした仕返しのつもりで言っただけだからそんな睨むなよ。


「いやな? アンタには訊きたいことがあるんだよ。帝国のこととか、この世界の情勢についてとか、魔王軍についてとか色々とさ」

「……私がそう簡単に口を割るとでも?」


 絶対に言ってやるものか、と言わんばかりにキッと俺を見上げる姿勢で睨んでくるシエラ。

 その間にも、頻りに抜け出そうと藻掻いている。


 ま、絶対に解けない縛り方したから無駄だけど。

 それに———別にこっちだって、簡単に口を割ってくれるとか甘ったれた考えはしていない。


「じゃじゃーん、これなんでしょーかっ!」


 俺は、彼女の目の前に、とあるモノが入った容器をポケットから取り出して見せる。

 彼女は暫し訝しげに眼前に突き付けられた容器を見つめていたが……何となく中身に気付いたらしく、露骨に暴れ始めた。


「や、やめてください! それは……それだけは……っ!!」

「お、分かったみたいだな。正解は……自白剤でした! まぁでも安心しな? 命だけは助けてやっから。ま、人格とかそう言った部分の保証は出来ねーけど」


 正直こんな胸糞悪いことやりたくない。

 やりたくないけど……1度暗躍すると決めた以上、今後も必ずこういった機会も訪れるからな。

 必要なら人だって殺さないといけないし……慣れないとアカンわけですわ。




「悪いな? でも———アンタはいつかアイツ等の障害になる。ここらで手綱を握っておきてーんだわ」




 必死に抵抗するシエラにそう言うと———彼女の口をこじ開け、錠剤を近付けた。


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 ごめん、テスト期間で投稿できなかった。

 引き続き頑張ります。


 ここまで読んで下さり、ありがとうございます。

 モチベで執筆スピード変わるので、続きが読みたいと思って下さったら、是非☆☆☆とフォロー宜しくお願いします! 

 


 

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