暗躍勇者は壊れている〜クラス転移されたので、大切な人達のために命を賭けて暗躍する〜

あおぞら@書籍9月3日発売

第1章 クラス転移と異世界勇者

第1話 クラス転移

「———異世界から女神によってつかまつった勇者達よ。余は、女神エミリシア様の代行者であり……このベインゼルク聖皇国を女神に代わって治める——— アーノルド・エリアス・フォン・ベインゼルクである。勇者達よ、どうか我が国……牽いては、女神エミリシア様が御創造なされた、この世界を救ってくれはしないだろうか」


 豪華絢爛。権威の象徴。

 そんな言葉が似合う壮麗でありながら荘厳さも併せ持った、ラノベなので良く見る玉座の間の様な場所。

 煌びやかな装飾が施された衣装で身を着飾った、70代後半ほどの歴戦の猛者の気迫を纏った壮年の男——自らを神の代行者と名乗るアーノルド・エリアス・フォン・ベインゼルクが座る豪奢な玉座は、俺達がいる場所より数段上に造られていた。

 床には赤いカーペットが敷かれ、彼の後ろの金やプラチナで装飾された壁には、20代前半程の銀髪の美しい女性の肖像画が掛けられている。


 まるで中世の王城のような場所に、俺達———2年5組の生徒達はいた。

 誰もが数秒前まで何気ない日常を過ごし、教室で談笑していたのだ。


 それがどうだ。


 突然教室が眩く光ったと思えば、こんな場所に転移させられていた。

 フルプレートアーマーを装備し、帯剣までしている騎士達がぐるっと俺達を囲んでいる。

 しかも、まだまだ子供である俺達に、世界を救ってくれと王様っぽい大の大人が頭を下げてくるのである。

 クラスメイトの誰もが言葉を失っていた。



 ———そんな様子を俺、朝夢あさゆめそらは冷めた目で眺めていた。



 あー、これはアレね。

 ラノベでありがちなクラス転移ってヤツか。

 しかも世界を救え、か……どうせ逆らっても今の俺達じゃあ騎士さん達には敵わないんだろうし、静かにしておくか。

 どうせこう言う時は———。



「———すみませんアーノルド様、幾つか質問をしても宜しいでしょうか?」



 俺の親友が率先して動いてくれる。


 黒髪黒目のTHE日本人といった容姿の超絶イケメン。

 177センチの高身長で、俺と同じ帰宅部のくせにそこそこ筋肉が付いている。

 文武両道、性格も良くて、自分の容姿や能力をしっかりと理解している系男子。

 自らの能力を理解しているが故に、周りを見て動くことができ、男女共に信頼を置かれている———俺の自慢の幼馴染兼親友だ。


 我が親友の言葉に、威圧感が凄い老人は頷いた。


「うむ、勿論だ。して、そなたの名は?」

「僕の名前は桐ヶ原きりがはら柚月ゆずきと申します。一先ず僕達に敵対する意志はありませんので、騎士の方々を下げていただけないでしょうか? 皆んな彼らに怯えています」


 柚月は瞳に僅かな戸惑いを宿しながらも、毅然とした様子で述べる。

 しかし、白銀の甲冑と甲冑マントを身に纏い、白銀の剣を腰に帯びた、如何にも気の強そうな銀髪碧眼の美女がムッとした表情で口を開いた。


「貴様聖皇様に図々しくも———」


 おっと、早速俺の出番である。

 

「———図々しいのはどっちっすかね?」

「……何?」


 俺が立ち上がって柚月の隣に佇むと、おどけた口調で意見を述べる。

 すると女の視線が俺に移ると共に、全身が震える感覚に襲われた。


 うっ……何だよ、この威圧感。

 ウチの暴力女こと最強の姉貴が居なかったら泣いてるぞ。

 姉貴の睨みは細胞レベルで俺の身体を拘束するからね。


 俺は強烈な命の危機を肌で感じて冷や汗を流しつつ、負けじと気丈に振る舞う。


「いやだってそうじゃないですか。いきなりこんな全く知らない場所に来たと思ったら、やれ世界を救えだの、やれ勇者だの言われるんですよ? おまけに周りには怖い怖い騎士様達までいると来た。恐怖のハッピーセットかっ!」


 全然ハッピーでも何でもないけど。


 俺の完全に場違いな態度と物言いに、ずっと顔を強張らせていた柚月が驚いた様子で此方を眺めた後、小さく笑みを零した。

 同時にクラスメイト達の緊張も多少和らいだのか、僅かに空気が弛緩する。


「き、貴様……っ」

「おっと、やるってんのか? こんな素手の子供相手に剣と鎧を着たアンタが? 大人気なさ過ぎー!」

「言い過ぎだよ、天。申し訳ありません、コイツは皆んなの緊張を解こうとしただけでして……」


 痛い、小突かれた。

 

 ただ、俺達のやり取りに毒気を抜かれたらしい騎士の美女が小さくため息を吐いて瞑目する。


「……申し訳ない、此方も少々大人気なかった」

「めっちゃ気にしてんじゃん」

「……天? あまり相手を煽っちゃダメだろう?」

「うぃーす」


 さてさて、俺の役目はこれくらいかね。

 

 美女に睨まれるという大変素晴らしい経験をした俺は、大人しく口を閉じてその場に座った。

 まだ若干恐怖に身体が震えているが……まぁその内止まるだろう。

 そして、俺と入れ替わるように何処からともなく笑い声がだだっ広い空間に響き渡った。


「ガハハハハハハ! 何とも面白い青年だ! 余やレナを前にして、アレほどの軽口を吐けるその胆力は素晴らしいの一言である。余が止める間も無かった。よし、近衛兵達よ、この部屋から出るのだ。余の護衛はレナ1人で十分である」

「「「「「「はっ!!」」」」」」


 爺さんの言葉に、騎士達はゾロゾロと巨大な扉から外に出ていき……この部屋には俺達2年5組の生徒30人と、爺さんとレナと呼ばれた女騎士だけが残る。

 厳つい騎士達が居なくなったことで、更にクラスメイト達の緊張や恐怖がほぐれたらしく、安堵のため息を吐く者も多かった。

 そんな中、皆んなと同じく胸に手を当てて安堵のため息を吐いた柚月が表情を戻して切り出した。


「それでは、僕達がこの場にいる詳しい事情をお話いただけますか?」

「うむ、勿論だ。それではまず———」


 遂に爺さんからの説明タイムである。

 ただこの間も、俺にはレナとか呼ばれた騎士の鋭い視線が突き刺さっていた。


 いやごめんて。

 

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 ここまで読んで下さり、ありがとうございます。

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