恋人の弟（Living with a wolf）

　仕事の都合で五年ぶりに地元に舞い戻った昴（すばる）は、引越し先の家の前で男同士の喧嘩を目撃する。片方の大男が青年を嬲っている様子は見るに耐えず、昴は殴られたほうの男のけがの具合が気になり、気がつくと彼に声をかけていた。
　青年は、じつは自殺した恋人の忘れがたみの弟だった。姉の面影をたたえてはいたものの、彼の瞳は彼女が死んだ日と変わらずひどく冷たく見えた。いうならば、まるで群れからはぐれた狼のように思えてならない。彼のことが気がかりでしかたない昴は、すこしの好奇心と後ろめたさから、家で夕食を食べないかと彼に提案をする。
　不定期で食卓を囲むようになり、二人の距離は縮まっていく。青年に今は亡き恋人の面影を重ねて満足していた昴は、いつのまにか彼自身に好意を抱くようになっていった。