第4話 いじめ

 ———放課後。

 高校生になり、7時間授業というわけの分からない頭のおかしな時間割になって以降、時期によっては薄暗くなる時間帯。

 また、特に部活に入らずに帰宅部であることを誇りに思っている俺にとって、1日で1番嬉しいと言っても過言ではない時間帯。

 今までならば、学校内で1番早く帰ろうと謎の執念を燃やしていたこの時間帯に、俺は教室に誰も居なくなるまで残っていた。


「さて、と……そろそろ始めますか」


 太陽が傾き、茜色を通り越して若干暗くなった辺りで、俺は椅子から立ち上がる。

 これからすることは、勿論梓川に関わることだ。


 というのも、彼女がイジメられるのが大体この時間帯なのだ。

 梓川は家に帰っても地獄なので、学校に極力のこっているのだが……それを好機と見たイジメっ子達が梓川を呼び出して嫌がらせをするらしい。


 全く……胸糞悪いったらありゃしない。

 まぁだから、俺がどれだけやろうと責められる言われはないってこった。


「えっと……体育館裏は、っと」


 スマホの充電がMAXなのを確認しつつ、足早に目的地に向かう。

 一応体育館倉庫、唯一鍵が空いている空き教室にはビデオカメラを設置しているが、体育館裏は外なので流石に無理だった。


 てか、これ以上録画出来る機械がないってのも大きな要因なんだけどな。

 流石にバイトしてない高校生の手持ちじゃあビデオカメラ1個でお腹いっぱいですわ。


「———ッ、……ッ」

「ん? どうやらビンゴかな?」


 何やら部活のモノとは別の声が聞こえた気がする。

 俺はスマホの録画ボタンをタップしてゆっくりと近付いていく。

 すると徐々に声は大きくなり……校舎の壁に隠れる頃には完全に聞こえる様になっていた。


「ねぇ、土下座しろよ。雄二君フッてごめんなさいって。まぁおーけーしてもやることは変わらないけどっ!」

「キャハハハハハ! 理央ひどぉーい!」

「ねね、2人とも! 見てよコイツの顔。めっちゃ調子乗ってない?」


 スマホの画面には、水筒のお茶らしきモノを梓川にかける3人組の女子生徒の姿が映っている。

 しかし、梓川は瞳に反抗の意志を宿して睨んでいた。


 …………落ち着け、金ケ崎緋色。

 うっかり助走付きドロップキックを顔面にぶっ放したくなるけど我慢だぞ、金ケ崎緋色。

 お前は我慢が出来るクールな男だ。

 感情に流されるな、金ケ崎緋色。


 俺は壁の角からちゃんと梓川といじめっ子のやりとりが撮れていることを確認しながらグッと拳を握る。

 何度も深呼吸を繰り返して沸々と湧き上がる怒りを抑えた。


 どうやら3人の女子は、梓川が雄二という男をフッたのが気に入らないらしい。 

 そう言えば、この時期に同学年でも特にイケメンと言われていた男子が梓川に告白したとか聞いたことがある。

 それも教室で。


 全く……余計なことをしやがって。

 これだからイケメンは嫌い……おっと、私情が漏れてたぜ。


 俺が何とか内心戯けることで冷静さを取り戻していると。



「———何で土下座しないといけないの? 嫌いな奴をフッて何が悪いわけ?」



 芯のある凛とした声が耳朶に触れる。

 梓川だ。

 アイツ、堂々と言い返しやがった。


 梓川お前……それは考えられる返答の中で限り無く最悪に近い返答だぞ……。

 勿論真実だし、俺も激しく同意するが。


 しかしそれは、あくまで自分達より優れている梓川をイジメるための1つの建前なだけなのだ。

 だから、言い返せば水を得た魚の様に過激になっていく。


「調子になるな、ブスが!」

「がぼっ!? ゴホッ、ゴホッ……み、醜いのは、アンタ達よ……!」

「こ、このブス———」


 梓川の言葉に、莉央と呼ばれたリーダー的存在の女子が手を振り上げる。

 それを見た瞬間———気付けば身体が動いていた。



「———ふぅ……あれ? こんな所で何———梓川!? おまっ、どうしてそんなビシャビシャなんだ!?」



 壁から飛び出した俺は、まるで今来ました感を醸し出して梓川に駆け寄る。

 そして、梓川を囲んでいた3人を困惑を宿した瞳で見つめた。


「3人はどうして此処に? もしかして……梓川が心配になって見に来たのか?」


 我ながら白々しい嘘だ、と内心嘲笑するが……案の定狼狽えていた女子達は丁度良い俺の渡船に乗っかって来た。


「そ、そうなの! たまたま近くを通ったら見つけてね! ね、2人とも!?」

「う、うん! 実はそうなんだよねー!」

「後は君に任せてもいい!?」


 うん、醜い。

 吐き気がするほど気持ち悪い。


 俺は、そそくさと足早にこの場を後にした女子達を冷ややかな視線で見送る。

 そんな彼女達の姿が見えなくなると……俯く梓川に極力目を向けること無く、そっとカイロが入っている制服をかけ、その場に座り込んだ。

 多少寒いが……まぁ気合で何とかしよう。


「「…………」」


 俺達の間に沈黙が支配する。

 何方が話すわけでもなく、ただ無言の時間が流れた。

 聞こえるのは、サッカー部や陸上部の掛け声だけ。


「…………聞かないの?」

「梓川が話したいなら、聞く」


 後ろから息を呑む音が掛け声に紛れてかすかに聞こえた。


 彼女は、極度に関わられることを嫌う。

 屋上の時は、一先ず顔を覚えてもらうために地雷源でタップダンスを披露したが、あれは特別だ。

 彼女と関わる上で大事なのは、焦ってはいけない、ということ。


「さて、俺はもう帰るぞ。その制服は貸しといてやるから、お前は適当に銭湯にでも入ってゆっくりしな。風邪引くぞ」


 俺は地面から立ち上がっておしりに付いた砂を払う……うわっ、冬だからサラサラでクソ付いてるんですけど!?

 これ、洗濯でもワンチャン落ちないんじゃ……てか、制服のズボンってそもそも家で洗濯って出来るんか?


「……ありがとう、色々」

「お礼を言われる筋合いはないな。俺はたまたまここを通りかかっただけだし。あ、でも制服とカイロのお礼は貰っておくよ」


 俺は、背中越しに手を振り……角を曲がった瞬間に地面に投げ捨ててしまっていたスマホを拾った。

 同時に超高速で壊れていないか確認し———ホッと安堵のため息を吐く。


「あ、あっぶねぇ……何とも無くて良かったぁぁぁ……」


 一先ず親に金を借りる、ということにならずに済んだことを喜ぶとしよう。


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 ここまで読んで下さり、ありがとうございます。

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