第6話 これは面談か何かですか?

 ———恐ろしいくらいにしーんと静まり返る我が家のリビング。

 ダイニングテーブルの上には俺の配布物が置かれており、横並びの椅子に静香先生と梓川が座っていた。


 そんなとんでもなく気まずい空気の中、俺は2人の前にお茶の入った湯呑みを置く。


「粗茶ですが」

「緋色お前、本当にそうか分からず言ってるだろう?」

「よく分かりましたね、静香先生。俺にお茶の価値なんか分かりません」


 というか、俺が知ってる高級なお茶って玉露くらいのもんだ。

 イマドキ男子がお茶に興味を持つなど稀だろう。


「奇遇だな、私もだ。質より量を好む私にとって高級かなどどうでも良い」


 何て、湯呑みを口に運びながら笑みを浮かべる静香先生に。


「やっぱり俺と静香先生の相性はバッチリですね。俺があと5年早く生まれてれば猛アプローチしてました」

「んなっ!? い、一体何を言ってるんだゃおみゃえはっ!?」


 カミカミですよ、先生。

 普段のキリッとした大人な雰囲気は捨てたんですか。


 別に超絶イケメンでもない俺の言葉に頬を僅かに朱色に染めて恥ずかしがる静香先生。

 ここまでくるとちょっと不安になる。

 本当に誰か彼女を貰ってやってくれ。

 

「ん、んんっ!! 済まないな、少し取り乱した」

「別に良いですよ。ところで……梓川はまだ分かるんですけど、静香先生はどうして俺の家に?」


 正直心当たりがあり過ぎてどれで来たのかさっぱり分からない。

 

 何て首を傾げる俺に、静香先生が言った。


「……これ、お前のか?」

 

 そう言って取り出したのは、俺が体育館倉庫に取り付けていたビデオカメラだった。

 丁寧にモバイルバッテリーまで一緒に回収されている。


 ……これはマズい。

 何がマズいって色々と、だ。

 しかも今ここには梓川がいる。

 彼女にだけは何としてもバレない様にしなければいけないんだ。

 ここは、俺自慢の素知らぬ顔を発揮して乗り切るしかない!


「何ですか、それ? 見た感じビデオカメラですけど……もしかして静香先生が俺の家を撮るために!?」

「馬鹿なこと言ってないで質問に答えろ」

「いや答えているじゃないですか。知りませんよ、そんな物」


 俺は渾身の素知らぬ顔で言えば、静香先生がジッと俺を睨む。

 しかし、諦めた様に小さくため息を吐いた。

 よし、勝った。



「仕方ない、コレは私が処分———」

「———ごめんなさい俺のです、どうか返していただけませんでしょうか」



 恥を捨てて土下座した。









「———はぁ……何故こんなことをした?」


 無事ビデオカメラを返して貰った後、静香先生が呆れた様な目を向けて言った。

 そこで俺は動きを止めると。


「……見てないんですか、中身?」

「見ているわけないだろう? どうせお前のことだ、変な目的で設置したわけでは無いんだろうからな」


 やだっ、ウチの親より俺のこと分かってるんですけど。

 もう静香先生が俺の第2のお母さん……やっぱりやめておこうかな。

 多分俺の頭が持たない。


「……まぁ変な目的で設置したわけじゃないんですけど……ちょっとここでは言えないですね」


 俺はチラッと緊張した面持ちで湯呑みを持つ梓川に視線を向けて、口を噤む。

 まさか俺が答えないとは思っていなかったらしい静香先生が僅かに瞠目した。


「……そうか、まぁそれは今はいい。聞いたところによると、お前は昨日ポロシャツ一枚で帰ったらしいな。そして制服は梓川が持っていた。……お前らもしかして……」

「おっと、待ってください。幾ら自分が10年以上彼氏が出来ないからって、俺の恋路を邪魔しないでもらおうかっ!」

「っ!?」


 何やら梓川がギョッとした目を俺に向けているが、今はそれどころじゃない。

 静香先生は信頼しているが、梓川は自分がイジメられていることを教師にバレるのは避けているので、俺も言うわけにはいかないのである。


「ほう……私が私情を持ち込んでいると?」

「いや普段から持ち込んでるだろ」

「だろ?」

「持ち込んでいますよね!?」


 この人、どれだけ俺に敬語を使わせたがるんだ。

 さては、俺が敬語でないと生徒じゃないと錯覚して惚れてしまうからか!

 我ながら名推理かもしれん。


「どこが名推理だ、迷推理の間違いだろう」

「モノはいい様なんですよ、先生。あとしれっと俺の思考を読まないでください。あまりに自然過ぎてスルーしそうだったじゃないですか!」

「お前の思考が読みやすいだけだ」

「そんな馬鹿な。何を考えているのかさっぱり分からない、と評判の俺ですよ?」

「ですよ、と言われても、分かりやすいモノは分かりやすいんだ」


 呆れを過分に含む視線が突き刺さる。

 それと梓川さん、コイツヤバいみたいな目を向けるのはやめてもらおうか。


「梓川、俺は全然ヤバい奴じゃないからな」

「今までの言動を見て違うと言える時点でヤバいわよ」

「ごはっ!? く、クリティカルが入った……誰か回復薬を……!!」

「そう言うところも」

「…………」


 俺、撃沈。

 死因は精神攻撃による自我崩壊。


 俺が燃え尽きたプロボクサーの様になっていると。


「さて、私達はそろそろ帰るとしよう」

「あれ、もう帰っちゃうんですか?」

「まだいて欲しいか?」


 おっと、その顔は俺の普段の醜態を親に言おうとしている顔ですね。


「やっぱり大丈夫です。どうぞ、お帰りください。静香先生のまたのご来店はお待ちしておりません」

「お前が病人じゃなかったらその頭を握り潰していたところだ。救われたな」


 ひえっ……やっぱり怖い。

 早急にお帰りいただかなければ。

 それに、ビデオカメラの録画を見ないといけないし。


 次は何処に隠そうか。

 何て考えながら俺は2人を見送った。


「はぁ……マジで緊張したぜ……」


—————————————————————————

 ここまで読んで下さり、ありがとうございます。

 モチベで執筆スピード変わるので、続きが読みたいと思って下さったら、是非☆☆☆とフォロー宜しくお願いします! 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る