第10話 感謝

「———くっ……このっ……!!」

「ほら言ったじゃん! コイツは2人で倒そうって言ったじゃん! ああああああお前が1人で他のゾンビを倒すから俺が死んだじゃん!」

「う、五月蝿いわよ! ごちゃごちゃ言ってないで、早くコンティニューして帰ってきなさい」

「今責任から逃げたな!? 俺はしっかり覚えておくからな! てか、めちゃくちゃナチュラルに金使えって言ってない? 俺も一応金欠高校生……はい! 急いで復活します!」


 結果的に言えば———梓川は未来の時よりドハマリしている。

 既に2000円分くらいは裕にコンティニューしており、ステージも7つある内の3つ目まで来ていた。

 中々一気に3ステージやる奴いねぇよ。


 勿論始めこそ梓川も、瞳を輝かせる傍らで『何でこんなのにお金を使わないといけないのよ』的なことを言って必死に高揚感を取り繕っていたのだ。

 しかし1ステージ目をクリアした辺りからはその様子すら見られなくなり、今となっては俺に『早くコンティニューして戦え』と言ってくる始末である。


「はい、復活しまし———って死んでる!?」

「……アンタが居なかったからよ」

「目を逸らしながら言ってるってことは、自覚がおアリのようですねええええええええええ死ぬううううううう!!」


 現在の状況を説明すると、中ボスらしき2人で協力して倒す大きなゾンビと共に無数の雑魚ゾンビが1人の俺に押し寄せている。

 あの中ボス、2発か3発で死んでしまうので端的に言えば……大ピンチだった。


 しかしそんな時。

 梓川が突然何かを思い付いたかの様に100円を入れる手を止めた。


「……梓川さん? 急いでくれないと死ぬんですけど」

「良いことを思い付いたわ」


 何だろう、とても嫌な予感がする。

 それも、主に俺にとって悪いことであるとの予感がひしひしと。


 ゾンビを撃ち殺しながら顔を引き攣らせる俺に、楽しそうに僅かに口角を上げた梓川が告げた。



「アンタには悪いけど……私が入れる前に死になさい。そして2人同時にコンティニューするの」

「どうせそんなことだろうと思ってたよッ! 完全にこの100円無駄じゃんかちくしょう!!」











「———まぁ、そこそこ面白かったわ」

「あれでと言える梓川さんパネェっす」


 既に時刻も7時手前。

 結局、俺達は第3ステージをクリアした所で終わった。

 勿論のことだが、俺達の意志で終わったわけじゃない。

 というのも、後ろに小学生高学年くらいの子達が並んでおり、自分達より遥かに小さい子達を待たせるのがいたたまれなくなったからである。


「はぁ……疲れたぁぁぁ……あ、これ」


 休憩がてら、ゲーセン内にある自販機で2人分のお茶を買って、近くのベンチに座る梓川に差し出す。

 梓川は目の前に差し出されたお茶を見て、僅かに驚いた様子を見せた。


「……これは?」

「これは、って……勿論梓川の分に決まってるだろ。流石にこれがお前のじゃないなんて言うゴミみたいなことしないわ」

「……ありがと」


 そう言って、見た目こそあまり変わらないが、何処か嬉しそうにペットボトルを受け取る梓川の姿に、俺は一瞬見惚れるも、直ぐに目を逸らした。


 ……不意打ちでそういうのはダメだと思うんだ、俺は。

 高校生男子なんて、ふとした瞬間の仕草とかちょっと話しただけでコロッと落ちちゃうチョロさを持っているんだぞ。

 それでいざ告白したら『え、普通に無理』とか言われるこっちの気持ちにもなって欲しい。

 普通に死にたくなるんだからな。


 俺がそんなことを思いながらジト目で梓川を見ていると……視線がかち合う。

 梓川は俺がジト目を向ける意図が分からなかったらしく、小さく首を傾げる。

 まさか梓川がこっちを向くとは思っていなかった俺は、少し狼狽えながら言った。


「ま、全く……こんなに疲れたのは、梓川がムキになるからだぞ」

「……アンタも人のことを言えないんじゃないの?」


 自覚はあるのか、羞恥心にほんのり頬を朱色に染めた梓川がジト目を返してくる。

 しかし、この程度で俺は動じない。

 あ、ちょっと可愛い……何て断じて思ってない。


「おっと、お前と一緒にするなよ。俺はただ単に800円も1ステージに使ったから、クリアしないと勿体ないと思ったまでのことだ」

「それをムキになっている、と言うのよ」

「そんな正論聞きたくありませんーっ! あーあーあー」


 俺は耳を塞いで梓川の言葉を遮断する。

 梓川は駄々をこねる子供の様な俺を呆れた様子で見ていたが……何かを決意した様子で小さく頷く。

 

「ね、ねぇ……」

「ん? どうしたんだ? そんなトイレを我慢するみたいな様子で」

「…………」

「ごめんなさい、失言でした。それで何でしょうか、梓川様」


 冷え切った瞳を向けてくる梓川に俺は速攻で謝る。

 そんな俺に梓川は気を取り直したかの様に何度が深呼吸をした後、目を若干泳がせて艷やかな髪を弄びながら口を開いた。



「きょ、今日は私をここに連れて来てくれて、か、感謝するわ。———ありがとう」

 


 そう言って、彼女はこの世界で初めての笑みを見せた。

 まだまだ控えめだが、それでも、一瞬で目を奪われるほどに可憐な笑みを。


 俺は、改めて彼女を救うことを誓った。

 

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 ここまで読んで下さり、ありがとうございます。

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