第8話 美少女を誘おう!

「———おー、よしよし、良い具合に撮れてるな。全く……馬鹿な奴らだな、自らが社会的に抹殺されるとも知らずに」


 梓川と屋上で食べる様になって1週間が経った頃。

 ほんの少しだが、梓川の態度が軟化していると感じ始めた一方で、どうやらほとぼりが冷めたと思っているらしいお馬鹿共が、再び梓川へのいじめを再開させたらしい。


 と言うのも、一応毎日空き教室にセットしていたビデオカメラの中身を作業の様に確認していたら、丁度昨日、梓川と例の3人組がこの教室にやって来たのだ。

 流石に手は出していなかったが、財布から金を取り、弁当をぶちまけ、それを梓川に片付けさせると言うゴミみたいなことをしていたのが、バッチリと録画されていた。


 やはり人間、喉元過ぎれば元に戻ってしまうらしい。

 まぁそれなら、一生喉元を過ぎなくさせればいいだけのことだ。

 何だか大人気ない気もするが……人間として終わってる奴らに容赦してやる必要はないでしょ。 


 俺はパタンとビデオカメラの液晶部分を閉じると。



「さて、次の作戦は———徹底的に梓川のイジメを邪魔して、俺がイジメられよう大作戦だ」



 お馬鹿さん達を追い詰めるべく、次なる布石を打つことにした。









「———おい、ブス———」

「梓川、一緒に帰ろうぜ!」

 

 その日の放課後。

 俺は、誰も居なくなった教室で帰る準備をしている梓川の下にお馬鹿さん達が現れたと同時に、割って入って梓川を誘う。

 どちらも、突然の俺の乱入に、驚きを隠せないといったご様子だった。

 俺は、そんな3人組の方を向くと。


「あ、なんかいきなり割り込んだみたいですいませ———あれ? 確かこの前体育館裏にいた……えっと……すいません、どちら様でしょうか?」


 コイツら邪魔だなぁ……という空気をわざと出して、これみよがしに首を傾げる。

 因みに体育館裏のことを出したのは、俺の問いを無下に出来ない様に少し相手を萎縮させるためだ。

 実際その効果は覿面てきめんで。


「ゆ、夢原理央よ……こっちの2人は山根羽咲と藤本優奈ね」

「あ、そうですか。ところでお三方は梓川に何用で?」


 出来る限り素っ気なく。

 心底面倒だと言う空気を醸し出して問い掛ける。

 これにはお嬢様な夢原はピクッと頬を引くつかせた。


 お、キレそうじゃん。

 そりゃ良いトコのお嬢様はこんな対応なんかされたことなさそうだしな。

 ま、今日はこのくらいで勘弁してやるか。

 感謝してよねっ!


「お三方に用がないなら、どうぞお帰りくださいな。梓川は俺と一緒に帰るんで」

「は、は……? あ、アンタ……私が誰だか知らないわけ?」


 夢原が俺の勢いに押されて狼狽えた様子だが、何もしないのは癪なのか、眉を吊り上げて口答えをしてくる。

 

 ふむ……口調こそ梓川と似てるが、ソレを発している奴が違うだけでこれほど聞こえ方が違うのか。

 ツンデレキャラとDQNキャラ……似て非なる者だな。

 可愛けが微塵も感じられん。

 ただ、悪いが……そんな脅しに屈するほど俺も柔じゃないんでね。


 俺は肩を竦め、小馬鹿にしたような色を瞳に宿して告げる。


「さぁ、ちょっと知らないですね。別に夢原さんは噂になるほど美人でもないし……学年の首席とかでもないし、芸能活動とかもしてないんですよね? なら、別に俺が同じクラスじゃない人を知らないのは当たり前じゃないですかね?」


 多分今の俺は、地雷原でタップダンスどころか、地雷原にダイブしてゴロゴロ転がっている気がする。

 だって夢原の奴、めっちゃプルプルしてるもん。

 流石にやり過ぎたかな……とっとと退散させてもらおう。


「んじゃ、特に用事も無さそうですし、梓川は俺が貰っていきますねー。ほら、行こうぜ、梓川」

「え、あ、うん……」

「ちょっ、待ちなさいよ!」


 俺が、何が何だか分からないといった様子で戸惑っている梓川の手を掴み、教室を出ようとすると……夢原が待ったをかける。


「……まだ何かあるんですか?」

「……アンタ、あまり調子に乗らないことね」

「ご忠告どうも。あ、俺からも1つ。———人間、どれだけ金があろうと地位があろうと……結局は同じ人間でしかないんですよね」

「…………」

「んじゃ、俺達はこれで」


 まるで親の仇でも見ているかのように睨んでくる夢原から視線を外し、梓川と共に教室を出て足早にその場から離れる。

 バクバクと心臓が強く鼓動を刻む。

 頭の中で『これで本当に良かったのか?』という考えがぐるぐると巡る。

 そんな俺に。



「……どうして、あんなこと……」



 ずっと口を閉ざしていた梓川がポツリと零した。 

 

「ん? どうかしたか? あ、俺と手を繋いでたのが嫌だったのか。いやぁ悪い悪い。何かその場のノリで」

「それはそうなのだけど……違うわよ」

「否定しないんだ!? いや分かってたけどさ、分かってたけど!」


 グスッ……やっぱり手を繋いでも許されるのはイケメンだけなのか。

 イケメン死すべし。


 手を離した俺が、ズーンと落ち込んで涙目になっていると。


「……何で、助けてくれたの?」


 梓川が俺を見て言った。

 透き通った綺麗な瞳に射抜かれた俺は、一瞬その瞳に見惚れるも……直ぐに目を逸らしておどけてみせる。


「別に助けたわけじゃないって。実際、梓川には用事があったしな」

「用事? 私に?」


 頭に疑問符を浮かべて首を傾げる梓川。

 なまじ顔が超絶整っているので、何気ない仕草であっても致命的な破壊力が備わっていた。


 おっと、危うく俺の中の全俺があまりの可愛さに吹き飛ぶとこだったぜ。

 流石梓川……何もしてないのに男子を殺す恐ろしい子!


「ねぇ、何か言ったらどうなの?」

「あ、ああ、すまん。それで、用事と言うのは……」


 俺は訝しげな梓川の様子に謝りながら、溜めに溜めて……遂に告げた。




「———ゲーセンに行こう!!」

「……………は?」



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 ここまで読んで下さり、ありがとうございます。

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