さぁ、美少女を救うラブコメを始めよう

あおぞら

第1話 回帰しました、ニ年前に。

『———貴方と、もっと早く出会えていたならね』


 そう、今にも壊れてしまいそうな微笑みを浮かべた美少女———梓川あずさがわ麗羽れいはは、屋上から飛び降りた。

 俺の目の前で、最後まで涙を流す事なく。


 後から聞いた話だが……何でも学校で虐められ、家でも顔以外の部分に虐待を受け、果てには彼女が勇気を出して相談をした警察も碌に取り合わずに警察へ行く元凶である親に連絡をして家に帰したらしい。

 主な理由はそれだが、他にも色々と良くない噂が流れていた。


 その結果———彼女は死んだ。

 何年も1人で耐え続けた彼女も、遂に決壊して自らの命をその手に掛けた。

 きっかけは何だったのか……彼女が死んでから既に1年経った今、その答え合わせをしてくれる者はいない。

 

「……梓川」


 梓川麗羽は、有名人だった。


 腰まで伸びた黒曜石の様な漆黒に、絹糸の様に滑らかで艶やかな髪。

 完璧と呼べる端正な顔立ちをしており、スッとした鼻筋に、僅かに吊り上がった目が彼女の気の強さを表していた。

 身長は160後半と高く、同性が羨みそうなモデル体型をしている。

 胸があまりないことを本人は気にしていた様だが……正直そんな欠点すらも霞むほどに美貌が全力カバーしていた。


 フィクションの存在、神に愛された最高の美貌を持つ存在などなど……彼女の美貌を例える言葉は腐るほどある。

 俺はちょっと厨二臭いとは思うけどね。

 まぁそれ故に告白は後を立たず……女性陣からの評判は悪い。

 また、気の強い性格も相まってバッサリとフラれた男達に憎まれることも多々あった。


 前半は人間として仕方ないとしても後半はアウトだろうに。

 まぁそもそも俺は告白する勇気もないんだけど。


 そして、俺———金ケ崎かねがさき緋色ひいろが彼女と関わるようになったのは、彼女が死ぬ2ヶ月前だ。

 理由は……そうだ、俺がアニメの影響でどうしても屋上に行ってみたくて行ったからだった。


 というのもウチの学校———火野学園は、私立高校のくせに屋上への立ち入りは禁止なのである。

 やはり屋上はフィクションか、くそう。

 フェンスあるし別にええやんケチ臭い。


「まぁ、結局のところ……屋上は開かない方が良かったのかもな」


 そうすれば、彼女が死ぬことも、俺がこうして彼女の死に1年間も悩む必要はなかったのかもしれない。

 たらればを考えても仕方ないが、これとそれとは話が別……でもないのか。


「1年経っても変わんねぇな。いや人死んだんだからせめてもっとフェンス高くしろよな。怠慢してるじゃん教師達が。俺達がサボったらキレるくせにさ」


 こうして俺が立ち入り禁止の屋上に再びやって来れているのが何よりの証拠だ。 

 仕事する気ないのかな。


「まぁでも……ほんとに懐かしいなぁ」


 1年前、此処で不機嫌な彼女の機嫌を直そうと必死に頑張ってたっけ。

 …………あの2か月、確かに楽しかったなぁ。


「さて……そろそろ時間かな」


 俺はスマホを取り出し、時間を確かめる。



 ———2024年2月22日、午前11時59分。



 この日の1年前が彼女の誕生日であり、彼女の死んだ日。

 あと1分で彼女が飛び降りた時間。


 俺は、大して高くもないフェンスを登り、屋上の縁へと立つ。

 真下には、1年前まで昼休憩になると沢山の人が居た中庭が広がっている。


 おー、高い高い。

 怖くて余裕でおしっこちびりそうだね。

 

「はぁ……人って、大切な人が目の前で居なくなると、壊れるんだな」

 


 ———12時。


 

 俺は、彼女と同じ様に———宙へと身を投げ出した。










「———はぁーッッッ!?」


 飛び起きる。

 激しく鼓動を打つ心臓部分を押さえて荒れた息を必死に整える。

 たが、同時に目に飛び込んできた———我が家にある見覚えしかない自室の光景に、思考が停止して困惑が極まる。


 あ、あれぇ??

 マジで人生で1番勇気出して屋上から飛び降りたはずなんだけど……。


 しかし、まるで飛び降りたのが幻想だったと言われても信じてしまうほどにいつも通りの自室が広がっていた。


「え……ガチで夢?」


 俺はスマホを探し……電源を付ける。

 そしてカレンダーを開き———言葉を失った。




 ———2022年2月22日12時1分。




 確かに、そう映し出されていた。


「…………」


 いやいや待て待て待て。

 落ち着けー俺、取り乱すなよー俺。

 クールに行こうぜ、クールにさ。

 ほら、大きく深呼吸。


「すぅぅ……はぁ……———いや無理だろこんなの。落ち着けるかっ!」


 俺は確かに2024年2月22日12時に屋上から飛び降りたはずだよな?

 彼女が死んだのも、それまでの1年も覚えているんだぞ!?


 ただ、幾ら何でも機械のスマホが嘘を吐くなんてことはあり得ない。

 そう、あり得ないのだ。


 …………。


「……へいS◯ri、今の西暦は?」

『2022年2月22日日曜日です』


 ほらね、あり得ない。

 だって機械だから。

 S◯riの暴走を疑ったわけじゃない。

 しかしこうなると……。 


「……もしかして俺、死のうとしたら回帰しちゃったパターンですかね?」


 神様が憐れな憐れな俺に1度だけのチャンスをくれた……そんな馬鹿な。

 フィクションは本だけにしとけよな。

 てか、この俺だけで何が出来ると?


「そうだ、俺は所詮ただの陰キャに———」



『———貴方と、もっと早く出会えていたならね』



 …………あぁ、くそッ。


 俺は瞑目してガシガシ頭をかき、大きな溜め息を吐いた。


「はぁ……いやぁ、俺も随分と重いモノを背負わされたもんだぜ。人1人の命が俺の手の中にあるなんてよ」


 屋上から飛び降りる勇気がある俺じゃなきゃ見ないフリしてるよ、絶対。

 ん? それは勇気じゃなくて蛮勇だって?

 やっかましい。

 俺が勇気だって言ったら勇気なんだよ。

 ただ、救おうと言っても……どうすればいいかな。


 俺はベッドから起き上がり、勉強机にノートを出して未来のことを思い付く限り書き出していく。


 自殺する原因となりそうなモノは一先ず片っ端から対処するとして……梓川、案外メンタル弱いから、心の支えになるモノを作らないといけないのか?


「心の支え、ねぇ……やっぱり大切な人とかかな?」


 俺はシャーペンをくるくる回しながら思案する。

 しかし、所詮、高校生で凡人の俺が思いつくことなど1つしかない。


 めっちゃ安直でフィクションのような思い付きだけど……まぁやるしかないよな。


 俺は椅子から立ち上がり……頬を叩いた。





「———今度こそ、俺がアイツを……梓川を救ってみせる。名付けて……『美少女を救うラブコメ大作戦』の始まりだ」



 

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 ここまで読んで下さり、本当にありがとうございます!

 今作はコメディーもシリアスもある新作ラブコメです。

 どうぞ宜しくお願いします!


 モチベで執筆スピード変わるので、続きが読みたいと思って下さったら、是非☆☆☆とフォロー宜しくお願いします! 

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