隷属する女王

奴隷を虐げて癒しを得る女王は奴隷よりもはるかに弱いものです。奴隷なしには心の均衡を保てないのですから。いっぽう、自分の意思で奴隷になったものは虐げられることに喜びを感じなくなれば、いつだって、広い世界へと戻ることができます。

主人公、奈央ちゃんの思う依里くんとの「歪な依存関係」、依里くんが奈央ちゃんに向ける欲望を含んだ媚びた視線、奈央ちゃんのためならなんでするという言葉。女王である奈央ちゃんは奴隷である依里くんが自分に「依存」していると考えようとしていますが、実はふたりの関係をつかさどるのは依里くんです。依里くんの執着をいなそうとする奈央ちゃん、でもその執着なしには自分の安定もないことをどこかで感じ取っているようです。発育も頭も良いクラスのリーダー格である依里くんだけが、奈央ちゃんの密やかな閉じた世界と乱雑な開けた世界とのあいだに橋を架け、自由に往来できます。かたや奈央ちゃんはどこに行くこともできません。奈央ちゃん自身も心のどこかで、自分のほうこそ依里くんに上手に誘導されているかもと感じています。

依里くんを挑発しつつも、依里くんの影に抱きしめられて心の中で涙を流す奈央ちゃん。そこにふたりの真の依存関係がかいま見られます。心の中とはいえ、泣いて上手に感情の開放ができたのは依里くんの存在に負うところが大きいのではないでしょうか。

奈央ちゃんの誘拐事件は彼女の心に傷を残しましたが、自分のまなざしに性的な興味が含まれていることを依里くんに実感させたことにも大きな意味がありそうです。それまでの子供らしい女王様と奴隷の関係がはっきりと性的な色合いを帯び、ふたりの影踏み遊びは淫靡に沈んでいきます。

掠れた声が安定し、14歳というこの過渡期を潜り抜けてしまえば、依里くんは一人の男となります。奈央ちゃんにとっては受け入れがたい男という存在です。もしかすると依里くんのほうもこの歪んだ関係から自然と離れていくのかもしれません。いずれにせよ、あくまで主体は依里くんにあり、それが毅然とした女王たる奈央ちゃんへのもの悲しさとなって迫ってきます。