第92話 早合の効能効果、いかがっすか!

ども、坊丸です。

信長伯父さんに火縄銃の試射役は、加藤さんだよって紹介したんですが、なんか、柴田の親父殿のところの家人だと思われていたようです。


元々は武士だったし、鍛冶は出来るし、絵も描けるし、凄いんだよ、加藤さんは!

でも、清忠って諱を知らなかったのは、勘弁な!


「では、加藤とやら、坊丸に預けた火縄銃にて試射をしてみせい」


信長伯父さんのご下命が出たので、加藤さんが、橋本一巴殿の遺品の火縄銃をもって、先ほど信長伯父さんが射撃を行った位置あたりまで移動します。


「しからば、これよりこの銃にて数発の試射をさせていただきます。

先ほど坊丸様が説明していただいたとおり、まずは、通常の手順にて装填を行い二発の試射を行わせていただきます。

その後、坊丸様が工夫した早合を用いて装填を行い二発の試射を行います。

通常手順の装填の場合と早合を用いた装填の場合で装填に用した時間を見比べていただきたく存じます」


信長伯父さんやその小姓衆を前にしても物怖じすることなく、一礼の後に、昨日文荷斎さんと三人で相談して決めた文章を言上する加藤さん。


昨日はうまく言えなかったらどうしようなどと不安げでしたが、加藤さんの様子はなかなかどうして堂に入ったものです。


柴田の親父殿は不安そうですが、文荷斎さんは、幼なじみが自分の主君の前でも立派にできているのが誇らしいらしくうんうんと頷いています。

火薬や弾丸、準備してきた早合などを入れた鞄を地面に置き、まずは通常の装填方法で準備する加藤さん。


やっぱり、通常の装填方法だといくら短い形の火縄銃でも火薬を入れるのには、細い鉄砲の銃口に火薬を注ぎ込むようになるので時間がかかります。


弾は落とし込むだけですが、それでも途中で引っかかることもあるので、カルカで押し込むのは必須。

その後、火皿にも火薬を入れて、火縄を準備してですが、ここら辺は早合でも変わらない手順ですな。


しっかりと、しかしながら手早く準備して、巻き藁人形の的を狙う加藤さん。

今回は、早合の時間短縮効果の検証なので、的に当てなくても良いと言ってはあるのですが、信長伯父さんよりは時間をかけて狙う加藤さん。


といっても、狙いはじめてから、一呼吸したくらいで手早く発砲しましたが。

当たる当たらないはそれほど関係ないので、発砲後は、砂を砲身にかけて少し冷やし、柴田の親父殿から借りた鷹狩用の革の手袋を着けて、すぐに次弾の装填にかかります。


先程と同じ手順で装填を行い、発砲する加藤さん。

ここで、信長伯父さんの方に向き直り、一声かけます。


「今のが、この火縄銃で普通の装填で連射した場合です。この後、竹の筒を用いた早合での連射をご覧に入れまする」


火縄銃の銃身を今一度冷やした後、鞄から一昨日、昨日で作った竹筒の早合を取り出した加藤さんは、竹の葉を引くことで、早合を一気に開栓し、銃口に竹筒を当てると、一気にひっくり返し、火薬と弾丸を一度で装填します。

手早くカルカで弾と火薬を押し込むと、先程の通常手順と同じように火皿の火薬と火縄を準備、やはり、あまりゆっくり狙わずに発砲しました。


「おぉ~」


柴田の親父殿や小姓衆がざわつきます。

あ、三連発で的の巻き藁の胴の部分、腹当に当たっている様子。

命中させなくても良いって言ったのにキチンと命中させていたんですね、加藤さん!


通常装填と早合使用での装填のことばかり気にしていたから、気がつかなかったよ、テヘ。

しかし、周りが連射で連続して当てていることに驚いているのにも関わらず、早合を使っての装填を淡々と行う、加藤さん。


四発目も、早合を使っての装填後に淡々と発砲する加藤さん。

そして、当然のように腹当に命中。

通常装填に比べると二発づつの発砲で体感、2、3分短い感じです。

でも、四発連続で命中させたことに周りは驚いている様子。


いや、加藤さんの鉄砲の腕に御披露目じゃないから!早合の装填時間短縮効果の確認の為の試射だから!


「加藤とやら、そなたの鉄砲の腕前、誠にあっぱれ。

なれども、こたびは、早合の確認じゃからな。ものども、そこを履き違えるでない」


少し冷たい感じの声で周囲にそう告げる信長伯父さん。

その声で、小姓衆が一気に静かになります。

いやぁ、さすが、信長伯父さん、当初の目的を忘れない点、素晴らしいと思います。

自分よりも上手い鉄砲の撃ち手が急に出て来てイラッとしてなければ、ですがね。


「はっ、伯父上のおっしゃる通り、こたびは早合の効能効果を見ていただくために参加させていただいております。通常の装填と早合を用いての装填を見ていただきました。ご覧の通り、早合を用いた方が少しですが、早く装填ができていたかと、存じます」


「で、あるな」


「この差は、今、平時であればわずかですが、戦場では、その差は大きいかと。それに、戦場で敵が迫るなか、銃口から入れる火薬の量を適切な量かどうか気にする必要なく、直ぐにカルカで弾を押し込む作業に移れることは、兵の心の焦りをなくすことや安定した射撃成果につながるかと、存じます」


「うむ、坊丸が言うこと、一理ある。早合で装填する際に、何かを引っ張っていたようだが、あれは何か?」


「はっ、しからば、伯父上にも実物を見ていただきたく、存じます。加藤殿、実物を一つ!伯父上に」


「わかりましてござります。では、殿様、こちらをどうぞ」


信長伯父さんに少し近づき、鞄から未使用の早合を取り出し、捧げるように両手に乗せる、加藤さん。

小姓の佐脇殿や長谷川殿が取りに動くより先に、信長伯父さんが加藤さんに無造作に近づき、引ったくるように早合をその手に取ります。

信長伯父さんは自分の床几に戻ると、竹筒の早合をいじり回し、竹革の二次蓋を興味深そうに引いて木栓を開け、中の火薬と弾丸を手に出しました。


「坊丸、何故、木の栓と竹筒の間に竹革を挟んだ?」


「はっ、色々試した結果、木栓だけですと、直ぐに口が切れないことがございました。湿り気を中に入れず、簡単に木栓を取れる工夫でございます」


「で、あるか。橋本一巴の言っていた早合は、こういうものなのか?」


「恐れながら、答えさせていただきますが、正直なところ、わかりません。橋本殿の残された書面には、火薬と弾を紙や木、竹等に入れてまとめたもの、と言った程度しか情報がございませんでした」


「何故、竹にした?」


「篠竹、矢竹ならば、どこでも取れまする。木の筒を作るには、人手が要りますし、火薬と弾に紙を巻いて捻るだけなのが、最も簡便ではありますが、紙を大量に使うことになりまする。紙の名産は、美濃に越前。将来、あい争う美濃の斎藤や越前の朝倉に情報も金もくれてやるのは、惜しいかと」


「あいわかった。坊丸、良い。良いぞ。で、あれば、その方の意見、許す。」


その答えを聞いて、信長伯父さんは悪い顔でニヤリとしながら答えました。

これぞ、織田信長!そこに痺れる、憧れるぅぅ!


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