ミステリーよりも愛おしく、恋愛ものより感動的。
- ★★★ Excellent!!!
この作品の魅力は確かにその入り組んだミステリーと言える。計算され尽くした、縦横無尽に張り巡らされた仕掛けと、その展開の妙味である。
いや、それもそうだが、やはり何といってもこの作品の魅力は、登場人物たちが織りなす、人間模様の美しさだろう。
言葉を話せない宜綺と、九暁家の巫女を産む代理母紫緒の静かでしかし燃えるような恋心の美しさ。
変わり者だが優秀なキャリア警官三賀と、彼にじっと思いを寄せ続ける藤島の愛の美しさ。
宜綺の兄にあたる彭爺と宜綺の、普通の兄弟にはない思いやりの美しさ。
それらが心に染み入る美しい文体で表現されている。
あなたは怒涛のようなミステリーに酔いしれながら,思わずその美しさに涙している自分自身に気づくだろう。
つまりこれは、ミステリーの形を使って人間を描いた、底知れず深い美の物語なのである。