嘘と沈黙

「『亞羅刃罵アラハバ』に? そんなことあるかぁ?」


 ムラシンの言葉を容易には受け止められない昭。尻上がりの声音で、それを訴える。ムラシンも、その辺りに確信があったわけでは無いようだ。


「あたしも本星から言われただけだしね。セントーAというか、あんたと繋がりがあるんじゃないかってさ」

「俺? ……知らない内に殴ってたかな?」


 その可能性を無視できない昭。しかし昭と「亞羅刃罵」に因縁があったとしても、どうして「本星」とやらがそんなことを言い出したのか。


「何か古い記録を引っ張り出した、みたいなことは言ってたな。その辺りは追求しなかったけど」

「グロサタにちょっかい出したのは?」

「グロサタ……ああ『GLORY SATAN』の事だね。あれは『亞羅刃罵』がハズレらしいとわかってきてね。それじゃ近くに何かないかって見渡してみると、奴らがいたって事さ」

「近く、って……それにこだわる必要ある?」


 篁がそう尋ねると、ムラシンは相好を崩し、嬉しそうに答える。


「ああ、いいね。そう言われちゃ私も答えないわけにはいかないよ。近くって言うのは、七津角昭の近く、ってことさね」

「昭の?」

「そうだよ。この男がいるから『亞羅刃罵』は目をつけられたんだ」


 という事は昭がいなければ「亞羅刃罵」は歯牙にもかけなかった、という事になる。それは「GLORY SATAN」についても同じことになり――


「確かに俺はグロサタの奴らを殴ったこともあるけどよ」

「ああ、それ関係ないよ。あたしが聞いた話じゃ名前が関係あるって話なんだよ」

「名前? グロサタが?」

「いやそっちじゃなくて『亞羅刃罵』の方さね。グロサタの方はあたしの憂さ晴らし半分みたいなもんで」

「ちょっと待て」


 昭がそれを押し止めた。無理もないだろう。ムラシンの説明は全く整理されていないどころか、そもそも雲をつかむような話だからだ。

 ムラシンもイライラしながら先を続ける。


「待たないよ。それに、もう少しで終わる話さね。サタンってのは、昔にいた跳ねっかえりの名前らしいじゃないか。それで関係あるんじゃないかって」

「だからさっぱりわかんねぇ」


 昭は投げ出してしまった。篁も同じ判断に至ったのだろう。再びテレビへと向き直る。ムラシンもこれで終わりだとばかりに、大きく息をついた。


 そんなムラシンの視線の先に――サヒフォンがいる。


「何だい? 何か言いたいことでもありそうな雰囲気じゃないか」

「……いえ……」

「知らない話ばっかりで驚いたのかい? それは仕方ないよ。あんたの星、まだまだ新しい口だからね。知らないこともあるよ、そりゃ」


 ムラシンは挑発するような笑みを見せる。


「これは古い話なんだよ。古い古い話さ。……多分の話だけどね」


 サヒフォンは何も答えない。

 昭と篁も改めて尋ねようとはしなかった。


               ~・~


 「路傍文化」において、このような重要な会合が行われている時、富士演習場の指揮所においては、プラカスとしげるによる話し合いが行われていた。

 いやずっと行われていたので、既に二人の話し合いは日常茶飯事と言っても良いだろう。


「……やはり、公園跡地にセントーAを待機させるのは無理か。トライダーみたいに行けるかと思ったんだが」

「待機させるのも『トライダーG7』のような形に格納するのも無理ではありません。ただ、あまりに街中過ぎるので、そこから身動きが取れなくなるのです」


 「トライダーG7」という名称がスラスラと出てくるあたり、プラカスの苦心が窺えるというものだ。

 「無敵ロボ トライダーG7」は普段は頭部を半分だけ露出する形で公園に格納されている作品だ。しげるがその再現を目指すのは、当然とも言えるだろう。


 ただトライダーはそのまま飛行可能という設定だからこそ、そういった格納が出来るわけで、飛べないセントーAには最初から不可能である。


 となると――


「では、やはり北の山地を何とかするしかないか。あくまで引っ越すことが前提ならば」


 昭の地元の北部にはさほど高くは無い山が寝そべっている。この一帯なら民家も少なくセントーAの収納と基地建設にも問題は少ない。

 戦う場所についてはまだまだ検討が必要だが、街中にセントーAを収納するよりは見通しは明るくなる。


 だが、しげるの言う通り、最初から「引っ越さない」という選択肢もまだ残ってはいるのである。

 その選択肢を未だ消すことが出来ないあたり、現場の混乱ぶりが窺えた。


「ですが……セントーAはもうこの場所には用はないようですから。であれば我々にとって利便性の高い場所に移動してもらうのが最適でしょう。――結局、ミスター七津角が見た『桜』とは、セントーAの『手』だったようですし。セントーAが『手』を求めた心が、ミスター七津角に夢を見せていた……」

「それで間違いないだろう。――どうかしたのか? その話は何度も……」

「問題はこの付近に神社が多くあることです。それも桜――『手』を神聖視する神社が」


 プラカスはそういった推測を初めて口にした。


「これに何かしら意味があると考えてしまうのは当然のことです。ミスター七津角。あなたは何かを知っているのでは? いや明確なところは知らずとも、何かしらの推測は出来ているのでは?」


 しげるは長年に渡り、セントーA運営の中核にいた男である。しかも、昭が出現するまでは最もセントーAの声が聞こえる人間でもあった。

 その間に何も「感じる」事は無かった――などと考えることは不可能に近い。


 そしてしげるは、そんなプラカスの疑問を肯定するかのように、こんなことを口にした。


「それについても『今は放り出してしまえ!』という結論が出ていたはずだ。状況はあの時とは変わってない。いや手があるからこそ、可能性はさらに複雑化している。剣にとどまらず、いかなる武装を用意すれば良いのか――」


 始末の悪い事に、しげるの主張は圧倒的に正しかった。『手』と浅間神社の関係を推測するよりも、セントーAの武装開発を進める事の方が急務であることは間違いない。


 すぐに三戦目が始まるわけでは無いが、年単位の余裕があるわけでは無いのだから。

 しかしプラカスは気を取り直すという事もなく、そのままの雰囲気でしげるに問いかけた。


「そう。あの『手』についても、もっと考えるべきことがあります。武装開発は大いに結構。すでに指示は出しています」

「何だと!?」

「が」


 仲間外れにされたしげるが声を上げるが、プラカスはそれを抑え込んだ。


「最後に見せたミスター昭の攻撃は一体何だったのか? 『手』が持っている力なのか? それなら武装を開発する場合、絶対に無視することは出来ません」


 それもまた理屈である。

 「手」に何を持たせるような武装を開発したとして、それが単純なものである場合、武装自体が攻撃を受ける可能性があるからだ。


 それもムラシンガーにとどめを刺すような強力な、そして正体不明の力。どうやっても無視は出来ない。


「それは……な」


 あまりもな正論に、しげるの口も淀む。

 そしてプラカスの指摘はまだ止まらなかった。


「ミスター七津角。改めて確認したいのですが……――ミスター昭は本当に改造されているのですか?」


(第二勝 侵攻! 新たなる異星人! 完成エイリアンセントーA!! 終了)

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先手必勝エイリアンセントーA 司弐紘 @gnoinori

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