「亞羅刃罵」には意味がある
「本当はね。この星の
ムラシンはいきなりそんなことを言い出した。その告白だけでも、通常なら大きな衝撃を与えることになるだろう。
しかし、この時の七津角家には衝撃を受けるような個性の持ち主はいなかった。
「そんなもん、取っていってどうするんだよ」
昭に至っては端から馬鹿にしたように応じる。そう
「エネルギーとか、他に色々使い道があるんだってさ。それでガーに調査させてたんだよ」
「ガー?」
「あ、あたしと一緒になってない状態のロボット。ガーって名前なんだよ」
実に安易なネーミングである。さんざんにツッコまれるムラシン。
責任を本星に丸投げしつつ、戦いで海底火山経由で溶岩を使おうとしてたのは、そういった調査の一環であることまで告白した。
「溶岩に突っ込む前にさ。あんた、あたしの身体斬っちまったろ? あれで『これは使える』ってなったんだよ。どうも溶岩に接触しづらくて」
「お前……真面目に戦ってなかったのか?」
流石に昭が憮然とすると、ムラシンは「すまんすまん」と頭を掻いた。
「この星に来たからには優先順位ってものが大事なってくるからさ。いや溶岩であんたを倒せれば、それはそれで良いとは考えてはいたんだよ」
「それなら……まぁ、良いことにしておくか」
常識では計り知れないところで、妥協点を見つけ出した二人。それで戦いを思い出した昭がぼそりと呟く。
「しかし、あの足刃物がそんなに鋭かったとはな」
「ん? 気付いてないのかい? あれは別に鋭くは無かったよ」
「それは……」
ガタン。
サヒフォンが食器を片付け始めた。その姿を見てムラシンが婀娜っぽい笑みを見せる。
「……とにかく、こっちの見込み通りにちゃんと溶岩に接触出来たってわけさ。そのあとは全部計算違いだったけどね」
「それはそうだろうな。俺もセントーAが何言ってるのかよくわかってなかったし――ん? 溶岩持って行かれたら
「今頃かい!? そうだよ。だから溶岩手に入れるのはウチの星にとっては最上の結果で、現実的には水の取引出来れば十分だろうって目算だったのさ」
プラカスの推測は、ある程度までは当たっていたわけである。ただ予想とは違っていたのは「取引」という単語が出てきた事だろう。
篁がそこに反応してしまった。目当てのミュージシャンの出番が終わっただけかもしれない。
「取引? それで良いのなら――」
「ああ! いいねぇ! その上半身を捻じった姿勢と、それに併せて歪む胸!」
「この変態」
篁が仕方なしに身体ごとムラシンへと向き直る。
「――侵略とか決闘とかしないで普通に呼びかければ良いじゃない。手間もかかるし」
篁が真面目な面持ちで再度問いかけると、ムラシンも茶化すのはやめて、しんみりと応じた。
「そう思われていた時期も確かにあるんだけどね……結局ウチの星でも『汎宇宙公明正大共存法』を受け入れたって事は、その方が面倒が少なくなるってことに気付いたんだろうね。だから、まずは決闘、それが一番なんだよ」
宇宙の常識、のように語られると、宇宙人と初めて接するこちらの地球人として言い返しようがない。
その代わり、では無いだろうがサヒフォンが嫌味を投げてきた。
「その割には調査に熱心だったようですが。最初から取引に向けて動いていたでしょう」
「仕方ないさね。ウチの星じゃどうやってもその辺りが限界だったみたいでね」
「あ~~! それでわかったぞ。お前のとこのロボットに勝つ気が無かったのが」
今度は昭が割り込んできた。
「後から考えてみると、どうやってもそっちの戦いに勝ちの目が無かったんじゃねぇかって? 思っちまってな。そっちも気付いてたのか」
「まぁそうだね。そっちの……セントーAだね。セントーAには多分勝てないだろうって話は出てたんだよ。でも、この星は貴重だからスルーするのももったいないって話になってね。そういう話が出ていた割には頑張った、とあたしは思ってる」
敗者からそう言われてしまうと、昭もそれ以上は何とも言えなくなってしまっていた。男気の問題になると考えたのだろう。
だからこそ、と言うべきか、昭はこのムラシンの説明が始まったきっかけを思い出した。
「じゃあ、その『調査』に関係してるのか? 『
ムラシンもそれで話の発端を思い出したのだろう。そして昭に説明する準備が整っている事にも気付いたらしい。
自分の説明を反芻するかのように、唇をもにゅもにゅと動かした後に、恐る恐るといった風情で口を開いた。
「いや……そういう意味での『調査』ではないね。『調査』は『調査』でも、勝つための『調査』の方が大きい。取引のためじゃない」
それを聞いた昭が首を傾げる。
「それだと『亞羅刃罵』を調べれば、勝てるようになるって事になる、って事になっちまうんだが」
ムラシンの説明を理解すると、どうしてもそう解釈するしかなくなる。
しかし「亞羅刃罵」はどこに出しても恥ずかしくない弱小チームだ。いや巨大チームであっても、そこから侵略の参考になるとは考えにくい。
ところがムラシンは、昭の確認に頷いてみせた。
「ああ、それでいいよ。そういう手掛かりがあるかもって、あたしは考えたのさ」
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