第19話 ロレリアの森の悲しき姫

 私たちはロレリアの森の北部にある川下から森へと上陸をすることができた。


「ここがロレリアの森……なんだか空気が澄んで、神聖な感じがする」

 私はこの感覚をパワースポットのように感じていた。


「ここには、魔物を一切寄せ付けない“聖域”と呼ばれる場所があります。エマはもしかしたらその気配を感じ取っているのかもしれませんね」

 と、エド。


「聖域……聖獣様のご加護みたいだなぁ」

「そうですね、それと近いと思います」


「お二人さん仲良くおしゃべりも良いけどよ、その聖域以外はこの森も魔物が出んだよ。俺が先頭行くから、エドはエマのこと守れよ」

 ノエルはそう言って前方に現れた魔物へ飛びかかっていった。


「大丈夫ですよ。エマ、僕から離れないで下さいね」

 エドはそう言って腰に装備していた杖を握った。

「うん……」


 エドはそれでどうやって戦うんだろう……。

 私は少しドキドキしながらその時を待った。


 すると、後方から近付いてきた魔物にエドが反応する。

 私も振り向いて見守ると、彼の杖の先から青色の光で魔法陣が描かれる。

 そして……。


⸺⸺中級氷魔法⸺⸺


「フロスト!」


 彼がそう唱えると、魔法陣から大きな氷の刃が飛んでいき、魔物を貫き撃破した。


「わぁ、もしかして魔法!?」

「はい、そうですよ。僕は氷の魔道士です」

「すごい……」

「そうですか? それならもっとやっちゃいましょう」


 エドはそう言って辺りの魔物へどんどん氷の魔法を放ち、森のあちこちが凍りつく。


「おーい……氷の森になんぞ……」

 呆れるノエル。

「すみません、ついうっかり」

 エドはてへっと笑って誤魔化していた。

 彼は結構おちゃめさんだ。



 そうしてどんどん森の奥へと進んでいくと、ついに聖域と呼ばれる場所へと到達した。


 そこには小さな小屋があり、その脇にある湖を、1人の女性が眺めていた。


「あ、あなたもしかして……」

 私がそう声をかけると、彼女はゆっくりこちらへ向いた。


「……だれ……?」

 そう無気力に返事をした彼女は地面までつくほどの長い紫色の髪に、ボロボロのドレスを着ていて酷くやせ細っていた。


「私、最近この世界に召喚された、日本の異世界人のエマっていうの」


「しょうかん……あなたも?」

 彼女はそう言って少しだけ目を見開いた。


「ってことはあなたは20年前、フォーリア王国に召喚された子でいいのね? 良かったら名前教えて? あなたの本当の名前」


「なにしにきたの……? あたしのこと、ころしにきた?」

 彼女は私の質問には答えずに、たどたどしくそう言った。

 まるで幼稚園児のような口調だ。


「ううん、殺しになんか来てない。少し、お話したいと思ってきたの」

 私も自然と子供をなだめるような口調になる。

 20年前の当時5歳なら、今はもう私よりも年上のはずだけど……。


「あたしは、おはなし、したくない」


「そっか……少しだけ、だめ?」


 私はそう言うと、彼女は強めの口調でこう言った。


「だめ! いやだ! しあわせそうなのきらい!」


 彼女はドレスと髪をずるずる引きずりながら、小屋の中へと入っていってしまった。


 取り残され沈黙する3人。


 やがて、ノエルが口を開いた。

「なんか……俺もっと悪女かと思ってた……。俺の両親のかたきでさ……勝手にそういうイメージつけてた」


 それに対しエドも続く。

「僕もですよ……彼女はまるで捨てられた幼女だ。とても……我が国を滅ぼした人だとは思えない……」


「やっぱり、ちゃんとお話しなくちゃ……私、行ってくる」

 私は腕まくりをして歩き出す。ノエルとエドも、それに続くようにみんなで小屋へと向かった。


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