第17話 訪れるその時

 それから数日して、ノエルがローレンツ伯爵を連れて孤島へ戻ってきた。


「兄さん!」

「エドワード!」

 オスカーと弟さんはキツく抱擁する。そして弟さんは私に気付くと、オスカーを押し退けて私の前で片膝をついた。


「おまっ……!」

 雑に扱われ弟を白い目で見るオスカー。


「初めましてエマ姫。僕はエドワード・ローレンツ。オスカー兄さんの弟です。どうかエドとお呼びください」

 彼はそう言って私の手を取りその甲に軽く口づけをした。


「ひ、姫!? あの、よろしくお願いします……エドさん……」

「エド、です」

「はい、エド……」

 私がそう言うとエドはにっこりと微笑んだ。


「おい、いつまで手を握っているつもりだ」


 オスカーがエドを私から引き離すと、エドは事情を知らないのか兄を茶化す。

「おや、兄さんは女性恐怖症と聞きましたが、エマだけは怖くないのですね」


「別に俺は女性恐怖症じゃない。ただ、彼女に触れられないだけだ」


「一体何を言っているんだか……」

 エドはそう言ってオスカーの手を掴んで私へと触らせようとしてくる。


「や、やめて! 石になっちゃうよ!? きゃっ!」

「石? 何の冗談ですか」


 私は後退あとずさると、岩場にかかとを引っ掛けて後ろへと倒れてしまう。


「エマ!」


 硬い岩場へと頭をぶつける直前に、私の手を引き上げたのは⸺⸺



⸺⸺オスカーだった。



 彼はそのまま私の手を引いて私をキツく抱きしめる。

「え……」

 私は、頭が真っ白になった。


「兄さん……足が……」


「エマ、愛してる」

 オスカーはそう言って強引に私の唇へキスをすると、私をすぐに解放した。


「あぁ……嘘……だめ……」

 私はすぐに離された理由が、彼が石になって私が抜け出せなくなるのを防ぐためだと悟った。


 ピキピキと音を立ててオスカーの身体は下からどんどん石になっていく。


「オスカー……何で……」

「兄さん……!」

「いやだ……やめて……」


「エマ……幸せになってくれ」

 オスカーはその言葉を最後に、全身が石になった。



「いや……いやぁぁぁぁぁっ!」



⸺⸺



 一体どれだけ泣いただろうか。あれから何時間経ったのだろうか。 

 気付けばオスカーの石像はその場からなくなっていて、ノエルとエドがどこかへ運んだのだと推測出来た。


 案の定、別荘へ戻るとロビーにオスカーの石像が安置されていた。


「エマ……大丈夫か?」

 ノエルがそう言って出迎えてくれる。


「大丈夫じゃ……ないけど。みんなはオスカーの呪いのこと、知らなかったの?」


「「呪い……!?」」


 2人揃って目を見開いて、オスカーはこの2人にも言ってなかったんだと悟る。


「エマ、あなたの知っていることを話してください」

 エドにそう言われて私はうなずくと、私の知っている範囲のことを彼らへと話した。


⸺⸺


「ある条件で女性に触ると石になる呪い……」

 エドは信じられないという表情でそう呟いている。


「石ってことは……あの召喚者が関わってんのか?」

 と、ノエル。それに対しエドがすぐに反論する。

「ですが、彼女は処刑されたはずです」

「だよなぁ……」


「オスカーは、彼女は王都から北の森で生きてるって言ってたよ……?」

「「何だって!?」」


 オスカー……このことも誰にも言ってなかったんだ。


「北の森って言うと……ロレリアの森でしょうか」

 と、エド。

「あの聖域のあるっつうな……。あそこならあんま人も寄り付かねぇし、ありえるかもなぁ……」

 ノエルはうーんと悩みながらそう答える。


 そして次のエドの一言で、絶望の淵に立っていた私に微かな希望が生まれることとなる。


「エマ、一緒に彼女に会いに行ってみましょう。もしその呪いが彼女の施したものであるなら、本人であれば解呪できるかもしれません」

「本当に!?」

 私はエドにしがみつく。


「これはあくまでも可能性の1つです。行き損になるかもしれないし、石にされるかもしれません。ですが僕は行きます。僕のせいで……愛する兄は石になってしまったのだから……!」

 エドは涙を堪えるようにそう言った。


「エド……あれは私が岩場につまずいたせいで……」

「いいえ、そもそも僕があなたを触らせようなんて茶化さなければあなたがつまずくことだってなかったんです!」


「まぁまぁ、ここで言い合ってても仕方がねぇさ」

 ノエルがそう言ってヒートアップしていくエドをなだめる。


「ノエル……そうですね。すみません。そう言うことですので、エマも行きませんか? あなたと兄は愛し合っていたように思います。あなたが行くことで、事が動くように思えるのです」


「私……両想いだなんてさっき知ったんだけど……でも、もちろん一緒に行きます。少しでも可能性があるのなら、私はその可能性に賭けたい」


「よし、もちろん俺も行くからな。俺だってオスカーの影の相棒だ。やれることはやりたいし、俺がいねぇと潜水艇動かせねぇからな」


「エマ、ノエルも、ありがとうございます。一緒に兄を救いに行きましょう!」


 こうして私はオスカーを元に戻す方法を探るために、王都から北の森に住むという召喚者を訪ねることとなった。


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