第22話 愛で開く聖女の力

 やがてユカリが落ち着くと、エドは彼女を抱きしめたまま、彼女へ問う。

「あなたは……殺されてしまったと聞いていましたが、どうやってこの森に住むことになったのですか?」


「ユカリ、やっぱり悪いことしたから殺されるの?」

 彼女はそう言って涙目でエドを見上げる。


「いいえ、殺されませんよ。すみません、余計なこと言いましたね……。どうしてこの森に住むことになったのか、教えてくれませんか?」


「ユカリ、いっぱい石にしたあともずっとバルドおじちゃんにぐるぐる巻にされて痛いこといっぱいされた」


「そんなっ……これ以上何をしようと……!」

 私は思わず自分の口を手で押さえた。


「国王さまとバルドおじちゃん、毎日たくさんけんかしてた。そうしたら、ユカリ、何でか分からないけど、幸せなの見るのが嫌いになった」


「改造の影響か、それとも心の傷か……どっちもか……」

 ノエルは独り言のようにそう呟く。


「バルドおじちゃんがお出かけしている間に、国王さまがユカリをこの森につれてきてくれた。それで、このお家に住みなさいって言われた」


「逃したのはやはり国王陛下でしたか」

 と、エド。


「ひとりでさみしいけど、国王さまと王妃さまがたまに会いにきてくれた。でも、国王さまと王妃さま、しあわせそうで、ユカリ、嫌になってきちゃった。それで、国王さまだけ来て、王妃さまが来てくれなくなっちゃった。それで王妃さまのばかーって思ったら、国王さまのお手手に変な模様ついた。そしたら、ユカリの中で、ユカリじゃない誰かが国王さまに話しかけた」


『お前はもう愛する異性へ触れることはできない。愛の言葉も囁くことはできない。それを破った後、お前はみるみるうちに石になっていくだろう。条件を誰かに話すことも許さない。あたしのせいだと話ことも許さない。お前は誰にも告げることもできずにあたしと同じ、孤独の淵を彷徨うがいい』


「! それってやっぱりオスカーの……!」

 私はその言葉にハッとする。


 今までのオスカーの言動で気になっていたけど分からなかった部分が全てキレイに埋まっていった。


「おすかー?」

 ユカリが首を傾げると、エドが私の代わりに彼女へ尋ねる。

「ユカリ、国王様と王妃様の他にもここに誰か来ませんでしたか?」


「国王さまはそれから来なくなっちゃって、バルドおじちゃんの命令であたしのこところしにきた兵隊さんがきた。その人にいっぱいひどいこと言われて、あたし、その人のこともいやだーって思ったら、国王さまの時とおんなじことがおこった」


「それ……オスカーだ……」

 そう分かった瞬間、私は涙が溢れ出て来る。


「それいじょう近付いたら石にするぞ! って怒ったら、その人どっかいっちゃった……その人がオスカー?」


「はい、おそらく……」

 エドがそう答える。私はぐっと涙を堪えて、彼に続いて口を開いた。


「オスカーはね、ユカリにひどいこと言っちゃったの、ごめんねって思ってるよ」

「そうなの? じゃぁその人は何で来てくれなかったの?」


「石に……なっちゃったから……」

「あっ……ユカリの……変な力……」

 ユカリはそう言ってうつむいた。


「ユカリ、その人のこと、治してあげられませんか? その人はきっと、ユカリに直接ごめんねって言いたいと思います」

 と、エド。


「分からない……。うっ……!」

 ユカリは突然苦しみだす。


「どうしましたか? ユカリ!」

「その人のこと治したいって思ったら、ユカリの中の怖い人がダメだって……」


 エドは冷静に彼女へと囁く。

「ユカリの中の人に聞きます。どうしたら治してもらえますか?」

 

 すると、彼女の瞳が生気を失ったようににごり、まるで別人のごとく彼女は口を開いた。

『呪いが発動したって事はそいつは愛する人がいたということ。あたしにはそんな人がいないのに、そいつだけズルい……』


「では、あなたにも愛する人ができたら、治してもらえますか?」

『そんな人、できる訳ない。あたしはもう、誰も愛せない』


「そうでしょうか。あなたは愛に飢えている。現に、あなたは僕の腕を振り払わない」

『うるさい……黙れ……離せ、どっかいけ……』


「いいえ、僕はたとえこの場で石にされてもあなたを離しません。それは、単に兄を元に戻してほしいだけじゃない。僕はあなたに情が湧いてしまった。あなたのこのか細い腕が僕のローブを握り続ける限り、僕はあなたを離さない」

『……何で、あたし、ずっと、握って……』


「さっきも言ったでしょう。あなたは愛に飢えている。あなたは、誰かから愛されたいんだ。僕が、あなたを愛します」

『うぅ……』


「僕を、愛してください。僕は、あなたを決して裏切りません。約束します。なんなら、そういう呪いをかけたっていい。あなたを裏切ったら石になる、と……」

『……ううん、そんな呪い……もうかけない……ありがとう……嬉しい。あたし、ここにずっと住んでて聖女の力、手に入れたから……それでみんな元に戻していくから。この子のこと、ちゃんと愛してあげて……約束よ』


 彼女がそう言った瞬間、彼女の身体から強い光が溢れ出し、彼女はそのまま気を失いエドに抱きとめられた。


「はい、約束です」

 エドはそう言って、彼女を一層強く抱きしめた。


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