第5話 私に待っていた未来

 王家の隠し通路を抜けると、岩の海岸へと出る。

 そこには既に潜水艇のようなものがスタンバっていた。


「あれでこの島から脱出します。詳しい話はその中で」

 と、オスカー。

「はい、分かりました!」


 私はオスカーとノエルについて潜水艇へ乗り込むと無事に島を脱出することができた。



 小型のようだったが、潜水艇の中は意外に広く、これならオスカーも私に怯えることはなさそうだ。


「とりあえず『王家の別荘』に行きゃいいんだな?」

 そのノエルの問いに対しオスカーは「あぁ」と相槌を打つ。


「よし、自動操縦完了。じゃ、俺が得た情報を共有しますか」

「お願いします」

 私は頭を下げる。


「エマの話からな。まず、夕方バルド宰相に呼び出されたろ」

 バルド宰相とは、王子が私を召喚したときに隣にいたおじさんのことだ。


「はい……身体測定をするって、変な装置の上に乗りました」


「それは、その人の持ってる特別な力を測定する装置で、異世界人に対しては固有スキルを見るために使われるんだ。エマの固有スキルは“クラフト”だった」


「クラフト? 何ができるんでしょう?」


「さぁ、そこまでは俺にも……ってか、王子や宰相らにも分からなかったらしく、スキルは没になったんだ」


「没って!?」


「つまり、王妃候補として不合格ってことだよ」


「え、既に不合格!? でも……私、夜、呼び出されて……」


「そう、王子はお前に深く惚れ込んでたみたいでな、どうしても抱きたいっつって、宰相に1回だけ許可をもらったらしいんだ。その後もしかしたら王妃候補に復活するかもしれないってな」


「でも、私……」


 私がそう言ってうつむくと、ノエルもオスカーも思いっきり吹き出した。


「あれは傑作だったな……! いや、俺も思わず股間押さえたけどな?」

 と、ノエル。

「え、ノエル、見てたんですか?」


「そ。お前を誘拐するために王子の寝室に忍び込んでたんだよ。この騎士団長様の指示でさ」

 彼はそう言ってオスカーを見る。


「ええ!?」


 私の驚いた表情を見てオスカーが口を開く。

「すみません、エマ様が騒ぎを起こさなくても、今夜俺らが騒ぎを起こしてあなたを誘拐するつもりだったのです。ですがノエルが慌てて報告に帰ってきて……」

 彼はそこまで言うと、思い出したように笑っていた。


「わ、笑わないでくださいよ必死だったんですから……!」

 私はぷくーっと頬を膨らませた。


「すみません……でも、俺も見たかったなぁ……」

 オスカーはまだニヤニヤしていた。



「でも、何で誘拐を……?」

 私は気を取り直して彼らへ問いかける。


「それは、お前がちゃんと抱かれようが抱かれまいが、その後お前は身体を改造されることが決まってたからだ」

 そうノエルが答えてくれた。


「あっ、さっき言ってたやつ……」


「そう、この国は異世界人の召喚だけじゃなくてその改造の研究も秘密裏にしてるらしく、お前はそのサンプルにされるところだったんだ」


「ひぃぃ……」


「上手くいけば、王子に絶対の忠誠を誓う操り人形、失敗すればただの廃人となり海に捨てられる」


「どっちも地獄だ……」

 私はサーッと血の気が引くのを感じた。


「ですので、多少強引でも今夜必ず誘拐するつもりでいました。どうかご無礼をお許しください」

 オスカーが最後にそう付け加えた。


「そ、そんな無礼だなんて……助けてくれようとしたことに変わりはありません。本当に、ありがとうございます。あと、国を出た以上私はもう王妃候補でもなんでもないんですから、私もエマって呼んでください」


「お互い敬語もなしにしろよめんどくせぇ」

 と、ノエル。


「そうですね……じゃなくて、そうだね!」


 そう言う私を見て、オスカーも「分かったよ、エマ」と言ってくれた。


 なんだか急にオスカーとの距離が縮まった気がして私はキュンとしてしまい、照れてはにかむ。

 すると、オスカーは急に私から目を背け、そっぽを向いてしまった。



「あ、あの……王家の隠し通路で巻き込んだって言ってたけど、それは一体……巻き込んだのは私の方じゃない?」

 私はオスカーの背中へと話しかける。


「それは……目的地についてから話そう」

 彼は私に背を向けたままそう答えた。


 そんな彼の様子を、やはりノエルは難しい顔をして見ていた。

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