8話 『人界第4対人界第8①』
空を舞う魔石は白の面を表にして、地に落ちた。
人界第8の攻撃から始まることになる。
「――!」
笛と共に、投げられた魔石にユウは驚く。
人界第4とは異なり下投げで、それが彼らに牙を向く理由を遅れて気づいた。
単に投げただけじゃない。一点に集中するように投げたのだ。
思わぬ接触を誘発する恐れがあるが、人界第14はそれも織り込み済みのようだ。
冷静に少年がその内の1つを取り、すぐさま仲間へ投げ渡す。
「アン!」
「どうも、マコ!」
「おうよぉ……」
赤の魔石を横投げで素早く渡し、人界第4の陣形に乱れが生まれる。
そこに、彼らの王、マコが走り詰め寄ってきた。
「『
「――くそッ!」
境である柱の間スレスレまで踏み込み、越えようとする魔石を指先で触り、魔法を発動。
落ちゆくだけの魔石が魔法に押され、付近にいたマヒルも躱しきれない。
『
「ごめん……! やられた」
「大丈夫大丈夫!
謝るマヒルの手前勇ましく答えたが、ユウもまた隙をつかれた驚きと焦りを覚えていた。
魔法を最大限利用した戦法に、未知なるものを見た感覚に陥っていたのだ。
「カエデ!」
「おう、スミレくん次!」
「はい!」
早い投げに目で追うのがやっとだが、ユウも仲間たちもなんとか今持つ者と魔石の色を把握していた。
「アンさん!」
だからこそ、勢いを殺した優しい投げ方に、すぐさま攻撃の予感する。
走り寄り肩を回す姿から、攻撃するという警戒は正しかった。
「
「――
「変えたッ……!?」
タイミングを崩された。
腕を上げて投げるフリをしたのち、すかさず下に回して魔石を投げたのだ。
素早い動きで、
『
「ドンマイドンマイ! 警戒していこう!」
「えぇ……!」
2度目の『
だからこそ、アサヒの言葉で我に帰り、深呼吸を重ねた。
「すぅ……ふぅ……!」
だが、視界は変わらず、投げられる魔石とそれを見つめる闘士たちを見続けた。
受け取ったのはアンで黒い魔石。
有利属性はアサヒが持っていると、彼の後ろへ下がり、1人の闘士へ警戒し続けた。
あと1人で人界第8は『攻撃撃破』によって得点を得られる。
だからこそ、ここで仕掛けてくるはずだ。
王であるマコが恩恵を使ってくるはずだ。
「マコッ!」
「おうよ……っ!」
警戒通り、一番後ろでマコが人差し指を立てて、構えていた。
指先へいくつもの色の脈じみた模様が浮かび、間違いなく恩恵だと残された人界第4が警戒した。
全員が柱の付近で攻撃の瞬間を睨み据えて、恩恵か、魔法かと悩ませる布陣を取る。
「――『
「……はッ!?」
言葉とともに触れた指先によって魔石が爆ぜる。
驚く間も無く立て続けに起きた異変に、アサヒは硬直。
足元にどこからか現れた大小重なった五つの輪が黒く光り――、
「『
空高く上がる黒い奔流に巻き込まれた。
『攻撃撃破、3回成功。得点となります』
度重なる攻撃を許し、先制点を取られてしまう人界第4。
左右の柱で躱そうするも、マコの恩恵にはまるで通用しなかった。
即座に足元に刻まれ、砕かれた魔石が引き寄せられると同時に着弾する恐るべき恩恵。
仲間たちからは、沈痛な面持ちを伺えて――、
「大丈夫。まだ1点だ。あの恩恵だって、躱わすことはできる! 切り替えていこう!」
ユウは思いつく限りの希望がある言葉を口にして励ました。
「……ユウ」
「あぁ、そうだな。闘いはまだ始まったばっかりだ! 行くぞ、人界第4!」
「「おぉ!」」
仲間たちも彼の言葉に応じて、奮い立つ。
「……みんな、警戒して」
「「おうよぉ!」」
「真似やめて……」
軽口を叩きつつ、人界第8もまた気持ちを切り替え、布陣を整える。
前衛に3人、後列に2人、最後尾に王が立つ陣形が扇形であり、またしても人界第4の目を引いた。
だが、今度は動じない。短い言葉を重ね、作戦を迅速に決めて、笛の音と共に攻撃を始める。
空中の青い魔石へ手を伸ばしたのはヨヅキ。
「アサヒー!」
「おう! 次頼――」
――パンッ!
大きく広がる仲間たちを互いに利用して、相手を動かそうとするも守りは硬い。
加えて、闘士たちで回し隙を打つ術は、弾ける音と共に白紙に戻される。
狙っていた素早いものではなく、勢いを殺して少しでも滞空するように。
ユウが無理なく走り、勢いを上乗せできるように。
「っ! 恩恵、来るっ!」
仲間への投げ渡しに割り込み、突撃してきたユウ上腕の模様を見たか、マコが叫ぶ。
慌てて、散らばろうとするが、すでにユウは魔石を叩いており――、
「『
いつのまにか手にしていた複数の魔石の雨を繰り出す。
燃える火と激しく流れる激流、烈風に乗り迫る木の葉と瞬く光に爆ぜる闇を。
『
対応など間に合う間もなく、砂埃に視界を遮られながら、吹き飛ばされる人界第14の闘士たち。
開けた視界に映つユウが恐ろしく見えたことだろう。だが、仲間たちも驚きのことだった。
「ユウ、前の闘ったやつの恩恵も真似できるのか!?」
「うん、みんなに他のも取ってって言ったのはそのためだよ」
「すげぇ! 驚かされたぜ!」
ユウを囲い、感嘆とする人界第4の闘士たちを見て、マコは理解する。
「だから、散らばるのが遅くて、取った魔石が――、いや、取らなかった魔石の落下が速かったのか……」
他にも些細な不審点があった。
攻撃前に鳴ったあの音。
渡そうとした闘士がわずかに表情が強張っていたのも、今ではしっかりくる。
音は合図であり、それを送ったのは――、
「王は後ろで手を叩いていたか……」
「本当に!? 私には見えなかったけど」
「きっと後ろに手を回してたんだよ。それで他の闘士と重なる場所にいて叩いたんだ。他に説明のつけようがない」
「……速攻バレましたな」
なかなか鋭い考えを口にするマコに、手の内がどんどんと明かされ、ヨヅキに茶化される。
「ま、まぁ、わかってたけどね? 同じ手で勝てるわけないってことは……」
「めっちゃ動揺しとりますが?」
「いいのっ! 闘いのなかで打開策を見つけ勝つものでしょっ!」
「やー、怒った怒った!」
思わず声を荒らげてしまったが、正直茶化されてよかった。
真剣に悩まれたら、へこたれてしまいそうだったから。
「次、気を引き締めていくぞ!」
「「おおっ!」」
アサヒの呼びかけに声を張り、上げられる魔石へ意識を集中させる。
ここで危ぶんでいた事態が起きた。
魔石たちの衝突。綺麗な軌道が崩れて、あらぬ方向で落ちてゆく。
「ほい! アオイちゃん!」
「やっぱ取れるか……ッ!」
焦ることもなく掴むと同時に投げるカエデに、マヒルは思わず言葉が溢れる。
最初から感じた通り人界第8には、変則的な攻撃と扱うだけの順応力がある。
彼らの前にミスはないものと言っても過言ではない。
的確に回し、攻撃に転じる様からより一層その印象が強まる。
アオイからアンに渡された魔石はすでに前線へと向かうスミレへ投げられた。
右手で取りつつ、視線は力強く前に現れたアサヒを見つめていた。
「ふんっ!」
「
「――しっ!」
腕を下から振るう姿にアサヒが防御を展開。
だが、直後に口からこぼれた喜びの声に、アサヒは目を見張る。
投げた先は彼ではなく、左手。
直前で持ち替えて、攻撃のタイミングをずらしたのだ。
「『
弾ける音とともに青白く一線が、アサヒの顔面を目掛けて迸り――、
「ふーんッ!」
「――ッ!」
すかさず飛び上がった彼により、攻撃が
「残念だったね。ずらしてくるとは思ってたからね!」
「……ッ! 立て続けには騙されないか……ッ!」
アサヒの軽い挑発に、スミレは歯を食いしばる。
どちらも譲らない攻防が、早くもこの闘いを白熱化させていた。
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