9話 『人界第4対人界第8②』


 ――1対1。


 人界第4が攻撃側だが、1つハンデを背負った状態である。


「『恩恵』はいけそうか? ユウ」


「……まだっぽいね。もうすぐなんだけど、今はできないや」


 立て続けに攻防が変わり、まだ恩恵が使えないまま攻撃側が回ってきてしまった。


「安心しろ! 俺たちがカバーするぜ!」


「うん、ありがとう! 魔石と誰が最初に受け取る?」


「緑で、ヒグレちゃんが取るのはどうっすか?」


「おし、それでいこう!」


「えぇ、わかったわぁ!」


 ハンデもなんのその、理由などもなく魔石と最初に掴むものを決める人界第4。


 速やかに円陣を解き、ちょうどよく鳴った笛と共に魔石を投げる。


「――! ヨヅキちゃん!」


 視線を忙しなく動かし、味方と敵の位置を把握したヒグレは取るや否やヨヅキへと投げる。


「はいはぁーい! ――ぉ?」

 

 投げられたヨヅキは取る直前に、目を見張る光景が目に入る。

 片手をあげて、投げるよう言葉なく願うユウの姿を見た。


「ふふッ! 任せますよ! ユウ!」


 少々大胆だと思う反面、なにをするのか面白いと感じたヨヅキはユウに回す。


 ユウは魔石の軌道を確認したのち、仲間へ視線を向ける。


 目が合ったのはマヒル。

 彼はユウが目配せを送ったのだと知るや否や、走り出す。


 しかし、人界第8の闘士たちもすぐに勘づき、有利属性であるアオイが前線に立つ。


 次に来る攻撃を確実に防御ブロックし、攻守交代を狙っていた。


 だからこそ、乗った魔石をユウは手から落とし、口にする。


「――『雫撃ちドロップショット』」


「ぶ、ぐッ!?」


 魔石から現れた水が、落下するだけの魔石に力を与えて、叫びかけたアオイの肩を弾く。


 誰1人として予想できなかった攻撃に目を見開くなか、ユウは微笑み仲間へと人差し指を立てる。


「逆転したぞ!」


「――ぉ、おおおぉぉッ! ナイス、ユウッ!」


「いだぁッ!」

 

 遅れて湧き上がる喜びから、マヒルはユウを脇の下を掴んで持ち上げた。

 さながらペットを抱っこする要領なのだろうが、相手は人。


「いだだだだだだッ! 痛い痛いッ! やめ、マヒル! めっちゃ痛いからぁッ!」


「なに言うか! これは『特殊防具』! 痛むわけねぇだろ?」


「それは魔法にだけ反応するのであって、人の手の痛みは反応しないのッ! ぎゃあ、ああああッ!」


 喜びからする行動が悪意のない拷問としてユウを襲いかかる。


「はいはい、やめなさい。闘っている最中なんだから」


「はぁーい」


「ひゅ……ひゅ……ありがとう、アサヒ……」


 幸い、見かねたヒグレがやめさせて、ユウは事なきを得る。

 安堵のため息とともに、ふとよぎる最悪の事態に身体が震えた。


 もし、止めてくれなかったらと。


「なんだぁ? あいつら闘ってるっていうのに」


「……似たもの同士だよ」


「へ? どこが」


「もういい……緑の魔石で、スミレが取って」


「オケー!」


 不満をこぼすカエデへマコが反論するも、耳でも遠くなったか、彼は言葉を聞きもらす。

 面倒だと思ったマコは聞き返す彼を無視して、簡潔に指示を出す。


 時折ふざけ合う彼らだが、言葉1つ途絶えることで、すぐさま真剣な面持ちへと代わる。


 攻撃を促す笛は、さながら意識を切り替えるスイッチ。


 独自の投げかたで錯乱を狙いつつ、スミレが取った魔石は後ろ、右、左前とまわり――、


「マコ!」


「おうよぉ……!」


 最後に託されるは、やはりユウやその仲間が予想していた『恩恵』持ちのマコ。


 同じ構えに同じ動きからも確実で、彼ら以前の失敗から柱から離れ、大きく散開した。


 まだ明確に把握していない以上、被害の縮小に努めたのだ。


「まとめては無理、か……『魔陣サークル』」

 

 マコは闘士たちのなかから1人に狙いを絞り――、



「『群蓮花スカーレット・ストーム』ッ!」


 魔法陣から咲き誇る赤い蓮の花が爆風によって散ってゆく。

 趣深い花びらが勢いを乗せられ、鋭利な凶器へと代わる一撃。


 狙われたヨヅキは思わぬ衝撃に吹き飛ばされた。

 そして、風と花が舞っていた場所には、透明な防御ブロックに包まれた腕があった。


「……よかった。俺が誰よりも早く手を伸ばしてて、これで再び攻守交代だな!」


 他の仲間と同じく防御ブロックを駆使し、誰よりも早く攻撃を防ぐと飛び込んだマヒルの腕だった。


「ナイスセーブ! マヒル!」


「いいってことよ。ユウ、次は『恩恵』使えるんだろ? 頼んだぜ!」


「あぁ、任せろ!」


 立ち上がるマヒルが突き出した拳とともに頼まれた活躍。


 ユウは即座に浮かんだ朝のアサヒのように笑って答えた。


 誰の頼み事も応じる、アサヒの姿に叶わないとユウは思う。

 だが同時にそんなアサヒの姿を見て、せめて仲間の頼みには答えたいと思った。


 自分を王と、勇者と呼んでくれるみんなの居場所は、守りたいと。

 

「アサヒ!」


「おし、ヒグレ!」


「はい! マヒルくん!」


 続くパスに、回る魔石。

 だが、この戦場に立つ闘士たち全員はその魔石を最後に持つ者が誰かはわかっている。


 2度、軽く飛んで走り出すユウ。

 その仕草に人界第8の闘士たちは柱を盾にする陣形を取る。


 だが、恩恵を後回しにして魔法で攻撃すれば済む話ではない。

 彼は柱を背にして戦場から目を背けていない。


 きっと、生半可な魔法であれば飛び込んででも防御ブロックを使い、攻守交代を狙ってくる。 


 だから、ここは魔法に逃げず、『恩恵』で攻撃を当てるとユウは魔石を殴る。


「『5属性墜撃ペンタ・フォール』ッ!」


 型破りな攻撃方法に驚く人界第14の闘士たちは、天井を叩く音に遅れて気づく。


「「――マコッ!?」」


防御ブロックッ!」


 見上げたときにはすでに彼女の目と鼻の先まで迫り、咄嗟に頭を守るよう防御ブロックを展開した。


「えッ? だぁッ!?」


 だが、魔法を一度だけ守る防御ブロックでは五つの属性が層になった魔法を止められず、頭頂部に命中。


 跳ねるように頭が上を向くマコは、一体なにが起きたのかわからなかった。


 だが、尻餅をつきつつ、ユウの顔を見つめて再び気づいたようだ。


「……みんな、彼が恩恵を使ったら、目を離さないで絶対に逃げて」


「え、に、逃げるのか? 防御が通用しないのはわかるけど、柱があるじゃ――」


「柱も対策される。きっと攻撃方法は直線的なものだけじゃない。彼の恩恵は魔法の複数使用じゃない……」


 断言するマコは見たのだ。

 あの5つの属性の色が交わらず、入り乱れるなか、覚えのある魔法があると。


 自身が使った『飛炎スワロウ・ブレイズ』や『群蓮花スカーレット・ストーム』が。

 仲間が使っていた『雷光ライトニング』があったのだ。


 だが、今となっては仲間の魔法よりも前に、訝しむ点があったとマコは気づく。


 ユウは系統の違う『恩恵』使ってきた。

『恩恵』とは本来1人に1つであり、複数持つ者など存在しない。


 つまり、彼の『恩恵』は――、


「……彼の身と『恩恵』は、人の学習能力に近い。見知った魔法や恩恵を自分なりに解釈し、使用してくる。だから、あらゆる曲がる投げかたや、私の『魔陣サークル』も使ってくるかもしれない。言ってめちゃくちゃだよ……」


 想像を絶するもので、人界第8の闘士たちは言葉を失う。


「だけど、なすすべがないわけじゃない」


「けど、結構速かったぜ? あの『恩恵』。本当に避けられるのか?」


「……わかんない」


「わかんないのかよっ!」


「だけど、避けられないからって、まだ諦めるわけにはいかないでしょ?」


 確たる証拠がないことをいうマコにスミレがツッコミを入れるも、もっともらしい反撃が返ってくる。


「私たちは負けられない。帰りたい人だけ帰ればいい。異世界人も原住民も関係ない。私たちの望む居場所はここ。それは勝つことでしか証明できない。だから……勝とう」


「あぁ! 1点リード、相手の『恩恵』がめちゃくちゃがなんだ! こっちだって引けを取らねぇほど強いってところを見せてやろうぜ!」


「おうよぉ!」


「やめてよぉ……」


 マコの意思を聞き、一致団結する人界第8。

 その姿を見て、ユウは羨ましいと思う反面、さらなる不安を抱えていた。


 奮起した彼らが次に仕掛ける戦法がまるで掴めないのだ。


 だけど、その不安は拭われるまではいかずとも、和らげられる。


「俺たちも負けらんねぇな! 1点先制! この事実はデカい! このまま得点とって行くぞ! 人界第4!」


「「おおッ!」」


 なんども背中を押し、奮い立たせてくれる仲間によって。

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