10話 『人界第4対人界第8②』


 両集団ともに仲間たちを励まし合い、白熱していた闘いはさらに激化する。


「アオイ!」


「うん! 『海嘯玉シーウェブ・ボール』ッ!」


防御ブロック上げだーっ! アサヒィー!」


「はいよ! 『闇落糸ダークスレッド』ッ!」


ブロッ……くッ! それありぃ!?」


 相手の攻撃に飛び込みヨヅキの防御を利用した反撃に、アオイは声を張り上げる。


「ありですぅ。前回の闘いで、無効化されてませぇーん」


「ぐぬぬ……言い方ムカつく!」


 無効の放送もなく必然的に得点になるも、ヨヅキの振る舞いに肝を冷やされるユウ。


「ヒグレ!」


「うん、頼むわぁ、マヒルくん!」


「おらぁッ! 『光撃シャインパクト』ッ!」


「反撃じゃあ! スミレ!」


「あぁ、『黒突鉤ダークロー』」


「有利なの私ぃー! ブロ


「なんてね」


「はッ!?」


 入り乱れる攻防。

 自身の攻撃を利用され、攻撃するかに見せた腕で攻撃を弾き、防御のタイミングをずらされる。


「いやそれありぃっ!?」


「ありでぇーす。前の闘いで使ってオッケーでしたぁー!」


「やめて……恥ずかしい」


 ヨヅキはガラ空きの顔面に魔石を叩きつけられて怒りの抗議。

 既視感のあるやり取りに今度はあちらの王、マコが顔を覆いながら止めていた。


 側から見たら、くだらなさからガキの喧嘩でも見せられているのかと憤慨されそうだ。


 だが、そう言った声がなかったのは勝負は見応えあるものだったといえるだろう。


「アン!」


「んっ! 『炎星レッドスター』」


「――今、防御ブロックッ!」


「ナイス、マヒル! 次攻撃だ! 仕掛けて行くぞ!」


「「おおッ!」」


 惑わす攻撃に引っかからず防御ブロックし、攻守交代ができた。


「マヒル!」


「おう、ヒグレ!」


「わかったわぁ! ――『水塊アクア・クラスター』ッ!」


「いいや、ちゃんと見ているよ! アオイ、下がる!」


「――ッ!」


「ありがとう! そして、防御ブロックッ!」


 かと思えば、自身の視線と身体の動きを遅らせた闘士に攻撃を誘発され防御ブロック


「スミレ!」


「おう! マコさん、頼みます!」


「……『魔陣サークル』」


「全員警戒ッ!」


「『炎想極ブレイズ・エクストリーム』ッ!」


「ヨヅキ!」


「ほいさぁー!」


 呼びかけるよりも速く気づいたヨヅキが魔法陣から離れて『恩恵』を不発させたり――、


「ヨヅキさん!」


「承った! そんであと頼むよ! ユウ!」


「『2属性曲撃ジディ・カーブ』ッ!」


「ほっ!」


「――げッ!?」


攻撃撃破アタックアウト』をと狙ったアオイに立ったまま上体を地面に当たるギリギリまで反らして躱された。

 さながらリンボーダンスのように。


 ――5対4。

 

「カエデ!」


「はい! アンちゃん!」


「了解! 『煌玉砕塵シャイン・バースト』ッ!」


「間に、合わなかった……! 悪い……!」


「気にするな! 取り返していこうっ!」


 裏があると防御が遅れて被弾し、得点を許してしまうユウ。


 ――6対6。


「マヒル!」


「おぅ! 頼むぜ、シンヤ!」


「……えぇ! 『白蓮ホワイト・ロータス』ッ!」


「……ッツ!」


 穏やかな投げ渡しから繰り出されたヒグレの攻撃がマコの右脇腹に命中させて、得点に繋げる。

 

「スミレ!」


「おし! アオイ!」


「頼む、アン!」


「うい、カエデ!」


「よし、『青岩氷アクア・アイス』ッ!」


防御ブロックッ!」


 一度も勢いは衰えず、加速するまま放たれた一撃を、一か八かでユウは防御ブロックを成功させる。


 息つく間がないと辛さを痛感しながらも、この怒涛の勢いを抑えたくはないと動き出す。


 勢いを止めたところで人界第8を撃つ策なんてない。


 むしろ、上がり調子な今を崩してしまう恐れの方が強かったのだ。


「ヨヅキさん!」


「はいはぁーい! マヒル!」


「アサヒ!」


「だぁッ! 『風来暴エアロ・バースト』ッ!」


攻撃撃破アタックアウト


 ――7対9。

 

 喜びも相手の切り替えも、最初に比べれば最小限のものになっていた。

 

 皆が次の攻撃に意識を向けていた。

 次も取ると。次で抑えると。


「繋げて、マヒル!」


「おう! アサヒ!」

 

「頼むぞ、ユウ!」


「っす! 頼みます、ヨヅキさん!」


「おーし、『闇曲淵ダークネス・エディ』ッ!」


「なッ! 防御が……ッ!」


「……次、気をつけよう」


「おうよぉ……ッ!」


「――落ち込んでると思ったんだけど、元気だね?」


 2回目の『攻撃撃破アタックアウト』。

 

 防御が間に合わなかった頭を下げるカエデに慰めるマコ。

 返ってきた言葉で仏頂面になるも、仲間を立ち直らせ、次の攻撃に備えさせた。

 

「ヒグレ!」


「はい! アサヒくん!」


「決めろ! ユウ!」


「『4属性墜撃テトラ・フォール』ッ!」


「……よ!」


「ッ! 後ろへダイブして避けたか……ッ! ごめん!」


「ドンマイ! 次だ!」


 ここぞという場面で決められなかったユウに、アサヒは手を叩いて意識の切り替えを促す。

 自責の念など闘いの後。ここで引っ張られてては、またミスを引き起こしてしまう。


「マヒル!」


「オッケー! ヒグレ!」


「えぇ、お願いねユウくん!」


「『青林轟ブルーウッズ・レイド』ッ!」

 

ブロッッ!」


「――ッ!」


 しかし今度は完全に攻撃を見切られ、防御されてしまう。

 しかも、魔石から伸びゆく木々に合わせるようにアンが手を伸ばしてきた。


 彼女は有利属性で、得点のチャンスを逃しただけではなく、攻撃側を明け渡してしまった。


「――ッ!」


「ユウ!」


 思わず項垂れたユウを危ぶみ叫ぶも、その横顔を見て、アサヒは逆に奮い立たされる。


「集中……集中……ッ!」


 小さく呟き、自身に心折れる暇を与えないようにしていた。


 ならば、言葉も気遣いも不要。


「ここ、絶対に抑えるぞ! みんなぁッ!」


「「おおッ!」」

 

 アサヒはユウを信じて声を張り上げた。


 両者ともに譲らない戦況に、観客は熱気は最高潮。

 闘士たち心身ともに限界を感じながらも、これ以上もないほど楽しんでいた。


 このまま続けばいいのにと、誰もが思った。


 だから――、戦場の外から聞こえる手拍子に嫌でも終わりを実感させられてしまう。


 ――13対14。


 あと1点。人界第8が決めれば人界第4の敗北が決まる。


 仲間たちと離れ離れになり、この暖かい異世界から去らねばならなくなる。


「はぁ……はぁ……ッ! 絶対に、止めるぞッ!」


「「おぉッ!」」


 仲間の声で勇むも、身体の限界は誤魔化しきれない。


 飛んで走って、踏ん張ってきた脚全体が震えていて、断続的に痛みが走っている。

 気を抜けば今にも倒れてしまいそうで、力をこらさないと目も十分に開けられずにいた。


 だが、それはユウだけでも、人界第4だけでもない。

 勝利目前の人界第8も限界が来ており、肩で息をする彼らの表情からも感じ取れた。


「アオイ……はぁッ!」


「う、うん……っ! カエデくん、はぁっ!」


「はぁ、はぁ……おうよ! 最後……頼む! マコちゃん……ッ!」


 けれど、戦場や広く使い、縦横無尽に投げ回す彼らの勢いは健在。


 最後に回ってきたマコへの脅威も健在で、人界第4の闘士たちも戦場に広がって警戒した。


「……っ、『魔陣サークル』!」


 足元に魔法陣が展開されたのはユウ。

 魔石を指先をつけ、爆ぜさせたのを見計らい、前に走って魔法陣から抜け出す。

 

「……ん。だからこうするよ」


 立てた指先を曲げ、拳を作るマコ。

 すると、砕け散った魔石が映像を巻き戻すように形を取り戻したのだ。

 

 目を見開くユウ。

 しかし、今足を止めても、後ろに下がり躱わす体制を整えるまで待ってはくれない。


「『業火鎚プロメテウス』ッ!」


 後ずさるユウの腹めがけて、赤い烈火が迫り――、


防御ブロックッ! 上げぇッ!」


 それを防御ブロックを纏う右腕で打ち上げた。


「「ッ!?」」


 驚愕する人界第8の闘士たち。

 

 彼らでさえ、恩恵ではなく魔法を使うマコの戦法に気付けなかった。 

 完全に誰もが騙されたと確信したのに、ユウがあっさりと受け取ったのだ。


 だが、衝撃のあまり彼らは立ち尽くしてしまった。


「ヨヅキッ! 頼むぅッ!」


「あいあいさぁーッ!」


 その隙に人界第4は反撃へと転じていて――、


「『火烈咲ファイアー・フラワー』ッ!」


 強烈な一撃がマコの腹を叩いた。

 尻餅を吐く彼女の瞳はユウが移っており、表情からは、驚きや恐れに似た気持ちが窺える。


「――これで、同点。相手から先に2点を取った方が勝ちだ。まだ、終わらねぇぞ」


 加えて少年の言葉に、口角を上げた。

 喜びに似た気持ちも現れてきた。

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