3話 『人界第1対人界第4②』
視界覆う色鮮やかで恐怖を掻き立てられる攻撃に、仲間の叫びが遅れて聞こえる。
なんとか身体が反応し、中央の柱へと背中を預けられたのは、3人。
王たるユウを省けば2人だ。
その他は全員巻き込まれた。
前衛で守る仲間たちは苦し紛れに
瞬時に破壊されて攻撃が命中、後衛で警戒していた彼らよりも後ろへと吹き飛ばされてしまう。
嵐のような魔法が消え去り、後方に広がるは仲間が蹲る光景。
魔法への痛みでも衝撃による痛みでもない。
敵の力によって竦んでしまっていたのだ。
「……なんだよあれ! あんなのありかよ――」
「ありだよ。彼は複数個の魔石を攻撃時にのみ利用した。禁止されているのは開始のみ。だから彼は規則は破っていない」
人界第4の1人、マヒルが叫ぶもその王であるユウが反論する。
型破りな攻撃だが、反則技を使ったわけじゃないと。
返す言葉もなく、歯を噛み締めるマヒル。
だが、そこに不適な笑みを浮かべるゴウトが現れる。
「ほぉ、少しは話の分かる奴がいるじゃねぇか。助かったぜ? お互いになんの得にもならねぇ言い争いをしなけりゃならないなんて思っちまったからなぁ?」
「気遣ってもらわなくても大丈夫だ。お言葉だけど、そっちはもっと気を遣ったら?」
「恩恵もねぇ奴になぜ気を使う? ここは実力主義の異世界だぜ? もっと力で来いよ! 恩恵持ち同士よぉ!」
言葉は返さずユウはゴウトへ背を向ける。
対するゴウトも拗ねたと受け取ったが肩をすくめて、陣形に戻る。
人界第1の陣形は、最前線にゴウト以外の全員が横一列で並んでいた。
正しく肉壁。それ以外への考えは一切見受けられなかった。
人界第4は輪になり、わずかな時間で使う魔石を決めて輪を崩す。
低い笛と共にユウを除く全員が空へ魔石を放る。
そして――、
「ヨヅキ!」
「はいよぉ!」
緑色の魔石を取ったユウという少年がヨヅキという少女へと投げ渡す。
彼女は一度視線を後ろへ。敵もそれを後方確認と受け取った。
「――かかったね!
「――ッ! あ!」
『
だからこそ、ヨヅキが魔石を軽く投げて放った魔法に対処しきれない。
足元に木の葉が刺さる軽い衝撃に、攻撃が来たと遅れて気がつく。
「そういえば、聞き忘れていたんだけど」
「ん? どうした?」
「なんで攻撃を受けているのに人体への影響がないんだ? それも、闘戯を操る上の仕組みでそうなっているのか?」
「というより、上が支給したあの衣服だな」
「あの服って敵味方を区別するだけじゃなくて、闘士を傷つけないためにもあるのか!」
「あぁ、あんな魔法ボンボン生身で使われてたら、序盤で全員血だらけになっている。それに俺たちはそういうのは見飽きたんだよ」
「……?」
闘いを見つめる男の目がふと悲しそうな表情になり、疑問を抱く友。
「ほら、ああいうのって色んな悲劇や生まれ落ちた身分で奴隷となった人たちが、獣や同じ奴隷と殺し合いをするなんてのはもう懲り懲りだ、悲鳴も血ももう楽しめないよ」
「……お前」
「そ、れ、に! 今はこうして、俺たちに不満を抱かせる異世界人が、ここを賭けて醜く争っているなんて、これ以上いい実物はないぜ! はぁーっ、はっはっはっ!」
「お前! よくなったかと思ったけど、全然よくなってねぇなぁ!? お前ッ!」
何度目かな歓声が沸く声に男とその友は視線を映像へ。
駄弁っているうちに状況に変化が訪れた。
人界第4の2度目の攻撃。
これもまた、ユウとアサヒが魔石に走り飛び、相手を錯乱させて、攻撃に成功する。
決めてはユウでもアサヒでもなく、両者から離れ地に落ちようとする魔石を蹴り飛ばしたマヒルだ。
突如として水玉が魔石を纏い迫る光景に、敵も
これで人界第4が取った『
だからこそ、彼らはなんとしても決めたい。
対する人界第1はなんとしてもここを凌ぎたいはずだ。
「アサヒ!」
「おし! ヒグレ!」
宙を舞う魔石のなか、青い魔石を掴むマヒルは真ん前のアサヒへ投げる。
呼び声を聞き、振り返って受け取った彼はすかさず左斜め後ろに立つ仲間へ。
「はいはぁーい! ヨヅキちゃーん!」
「はいさぁー! そんで決めて、ユウ!」
「お前らァッ! 絶対に止めろよッ! 有利なのはお前だろう!? カズ!」
「そ、そうだ! 絶対に止める……!」
近くのヨヅキから低い位置から掬い上げるような投法。
僅かに上を行く軌道で、胸元の位置でユウが取得。
だが、目の前には4つの壁。加えて目の前には属性不利な相手。
他を狙おうにも、彼よりも後ろに立っており、下手に狙えば誰にも当てられない。
嫌らしい陣形だと歯を噛み締めながら――、
「――
「――ッ! 来」
「――ッツ!?」
遅い。異変に気づくよりも先に前方に立ち塞がるカズの
彼も魔石とともに着弾した魔法の衝撃に、背中を地面に叩きつける。
僅かに見下ろし後ろを向いたユウに目を見開いてしまう。
闘士も、王も、観客も。
僅かな静寂が生まれて、それからどっと歓声が湧き上がる。
「あれって……あのゴウトってやつと似たようなことを?」
「いや、違う。ちょっと似てるけど、ゴウトの恩恵は魔石の複数使用。対して、ユウの恩恵は魔法の複数使用だ。しかも、
「まさか、そんなことが出来るのか!?」
「推察だけどな。
目を見張るのは、まさしくそれだ。
カズは確かに
だが、揺らぐ水玉が割れたときに僅かに見えたのは青白く燃える炎。
驚く間も無く熱気が防御を失った腹へと直撃。勢いは掻き消えず、彼を吹き飛ばしたのだ。
「お、まえ……!? 今の、どうやって!?」
「さぁね。だけど、君と同じでズルはしていないよ。断言する」
「……ッ! 敵に塩は与えねぇってのか!?」
虚をつかれ、屈辱を覚えたのか、肩を震わせながら手に持つ青い魔石を握りしめる。
「いいぜぇ……俺とお前、どっちが強いのか! はっきり白黒つけようじゃねぇかッ!」
「違うよ。僕と君だけじゃない。僕たちと君たちでしょ?」
「ッツ! いちいち細けぇこと気にすんじゃねぇよッ! 興が削がれるだろうがァッ!」
会話は次第に他方を激情させるものに変わるも、割り込むようにならされた笛の音。
これには激怒するゴウトも従わざるを得ない。
渋々従いつつ、集まり出す仲間に一言告げる。
「イツカ。俺に魔石を渡せ、速攻であのガキを潰す」
「え、で、でも上手くいく――」
「いいから寄越せって言ってんだよッ! 調子乗んなよッ! 恩恵もねぇ無個性異世界人がッ!」
「わ、わかった……」
仲間の忠告も聞かずに怒鳴りつけて、2度目の攻撃へと移る。
2対2。同点に追い込まれるも、ゴウトは不適な笑みを浮かべて、標的を狙い済ませている。
再び魔石を投げることなく、使わぬ魔石を衣服のポケットへ忍ばせる人界第1。
だが、もう惑わされない。
赤い髪をポニーテールにしている少女、イツカがゴウトへと投げる姿を目にしながら――、
「
「全員隠れろッ!」
「おうッ!」
投げつけようとしたときには壁を背にして、魔法から逃れていた。
攻撃失敗。これによる罰則はなく、攻撃も引き続き人界第1だ。
だが、ユウは確信している。
恩恵。強力な力に伴うものを知っているから。
「これでしばらくは使えないんだろ? 恩恵持ちはそれが難儀なんだよなぁ!?」
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