2話 『人界第1対人界第4①』


『それでは、両メンバー準備できましたので、第15回、人界トーナメント準々決勝を行います』


「なぁ、あれは?」


 目のくれずに男は語る。

 一押しの選手が2人走り、中央に置かれた台座へと集まる姿を。


「攻守……というより、攻撃側か、逃走側を決めているんだよ。模様の入った魔石が飛んで落ちたときの向きでね」


 言われた通り、白黒2色の魔石は台座から1人でに回りながら飛ぶ。

 

 台座は飛ぶ最中に消え、落下した魔石が表を向いたのは黒い方だった。


 小柄な男が背を向けて味方へ人差し指を立てている。


 どうやら、彼らが攻撃側のようだ。

 

『人界第1対人界第4の試合を開始します』


 放送ともに、低い笛の音がなる。

 試合の幕開け。歓声が響き渡る光景に周囲を見渡す友に男は指を指す。


「始まるぞ。最初は『投げ上げ』。言葉通り、上へ魔石を投げる。別の名前でスローアップとも言う。使う魔石を1つに決める。複数個使って始めることは禁止されているんだ」


「なにを使ってくるのかわからなくなって、勝負闘いどころの話じゃなくなってくるのか!」


 感嘆する友も頷く男も、視線はすでに映像に釘付け。

 宙を舞う魔石は合計で5個。あの徽章と同じく赤、青、緑、金色、黒色の5色だ。


 くるくると回る魔石は次第に彼らの胸元まで降りて、そのまま5個は地へ落ちて砕け散る。


 砕けた音は一瞬にして歓声と闘士たちの呼び声、忙しなく地面を蹴る音でかき消えた。


 赤い魔石を仲間の1人が手に取った瞬間に、広がりばらける白い服の人界第4。


「アサヒー!」


「はいよ!」 

 


 すかさず、右斜め後ろの仲間へ投げ、攻撃準備を整えていた。


「炎だ! さっさと来いヒロ! 他にもう2人! 急げ!」


 人界第1もまた、投げられる魔石の色から整えていた陣形を崩し、防御の体制へと移っている。

 

 ガタイのでかい男が味方に指示を送り、というより命令をして前方に配置させていた。


「ちっ……! 誰でもいいから来いって言ってんだよ! サヤ! カズ! お前らだ! 来い!」


「「……!」」


「マヒル! 次はユウへ!」


「オッケー!」


 飛び交う声から感じ取れる両者の空気感。


 穏やかな雰囲気と張り詰めた雰囲気が対極を成し、今ついにぶつかり合いを始める。


「ユウ! 行けッ!」


「おうッ!」


 一番後方で気を衒っていた機を狙っていた人界第四の王。

 

 ユウと呼ばれた小さな少年は、仲間の高く勢いを抑えた投擲に合わせて飛躍する。


 同時に掴んだ魔石を握るユウの手は赤に血脈のような模様が刻まれ、それは腕へと侵食していき――、


ブロ――」


炎火ファイエルッ!」


 視線の先に立つ壁と成す真ん中の少年――ではなく、右端で構える少年へと投擲される。


 視線の動きで異変に気づくも、魔法への対処までは至らない。

 業火を纏う魔石は右頬を叩き、少年は勢いに尻餅をつく。


攻撃撃破アタックアウト


「しッ!」


 攻撃の成功を機械的に伝える放送に、額の前で拳を握るユウ。

 湧き上がる歓声が胸の鼓動を急速にあげ、視線はいつのまにか男の方へ。


「あれか……闘士に攻撃すれば、退場させられるやつ!?」


「お、おう。攻撃撃破アタックアウトっていって、3回成功させても、得点になる。つーか、もう虜になってるな」


「だって、もう面白いもの……!」


 輝く友の瞳には、人界第4が攻撃撃破アタックアウトに仲間と掲げた手を叩き合う姿が映っていた。


 対して、人界第1の空気は地獄。


「ちッ! カズめ……ちゃんと防御ブロックしろってんだよッ! お前らも防御せずに倒れたら、承知しねぇからなッ!」


「「あ、あぁ……!」」


 仲間の失態に巻き込まれて放たれる怒号に、全員が肩を震わせている。


「そういやぁ、さっきも言ってたが『防御ブロック』ってのはなんだ?」


「あぁ、魔法と魔石を弾ける仕組みだよ。狙われたときに使えるたった安全策だ。だが、箇所は複数個ある。頭、右腕、左腕、右脚、左脚、胴の6つ。つまりその6択を外したら、防御できずに喰らっちまうってわけだ」


「だから、あのデカブツは怒っているわけね。防御ブロック使えって……」


「あぁ、有利属性じゃないとはいえ、易々と得点へ繋げさせてしまったからな」


 ――再び、人界第4の攻撃。


 空中で回り、地に落ちずに握られたのは、金色の魔石。


「イツカ! 中央! 両端2人!」


「は、はい!」


「俺が行く……!」


「わ、わたしも……!」


 ぴりつく空気が連携をより素早いものへと変わり、人界第1は心なしかやりづらさが感じ取れる。


「アサヒ!」


「ナイス、ユウ! ヒグレ次!」


「はぁーい!」


 次々と縦横無尽に投げられる魔石。

 だが、友はさっきよりも多く仲間へ繋げられた魔石に口から疑問が溢れた。


「……魔石は何回繋げられるの?」


「1回から5回だ。最初に手に取った人間は攻撃できず、5回以上は投げ渡しちゃいけない。つまり、あれで最後だ」


 最後に投げられたのは、やはり王であるユウ。


「――だぁッ! 閃光フラッシュッ!」

 

 再び助走をつけて、あらかじめ投げられたところへと飛来し、掴むが早いか投げつける魔石。


防御ブロック!」


 煌々と光り輝く魔石で目を細める闘士たちだったが、目を離すことない。

 

 だからこそ、イツカと呼ばれる少女が両手を広げ左端の狙われた少年の胸を守る。


 魔石は命中する直前で、波紋を広げる白い壁に阻まれる。


「――よしッ!」


「ッツ! ごめーんッ!」

 

 地に転がり消えゆくと同時に、反応が二分化する光景。


攻撃防御アタックブロック。攻守交代』


 興奮冷めやらぬ歓声にも流されず、淡々と状況を簡易的に支持する放送。


 攻撃を受けた人界第1の1人も退場されたときのように光に包まれて戻ってくる。


 人界第4はその光景を目に焼き付けつつ、陣形を整える。


 最前に4人。その後ろに2人。

 最後尾に王のトモに添えて、相手の攻撃を待ち構える。


「す、すまねぇ……ゴウトく――ッ!」


「バカヤロウがッ! 簡単にやられてんじゃねぇ。せめて、防御を成功させてからくたばれって何度も言ってるだろうッ!」


 怯える少年が頭を下げるも、ゴウトと呼ばれた大男は頭が下がりきるよりも先に右頬を殴り上げた。


 観客はどよめき、人界第4の表情も険しいものになる。


 まさに暴君。だが、観客はすぐに笑いに変えてしまい、彼らもまたどうすることもできない。


 できることは敵として味方と勝つ以外にない。

 たとえ、それがあの暴君を激情させることとなっても――。


「いいか? ちゃんと作戦通りやれよ? これさえしくじったら、承知しねぇからなッ!? わかったかぁッ!?」


「「あ、あぁ――」」


「わかったかって聞いてんだよッ! 返事しろやァッ!」


「「あ、あぁッ!」」


 居た堪れなくなるような空気だった。

 だが、なにか作戦を立てているようで、人界第4は気を引き締めて、魔石へと集中する。


 上へ投げられた魔石へ。

 だからこそ、彼らは目を見張る。


「投げられたの1つだけだよ!? ど、どど、どういうこと!?」


「わかんねぇ! だけど、反則じゃない……!」


「えッ!? でも、使用するのは1つだけって……!」


「全部上に投げなければならないなんて規則はない! わかりやすいように上への投げることを推奨されているだけだ!」


 思わぬ手段に、人界第4も反応が遅れる。


「は、はい……! ゴウトくん!」


「声に出すな! こっち来るって分かってんだよ!」


「――ッ! まずい! ヨヅキ!」


「はいよー。光属性なら、まっかせてぇー」


 けれど、我に帰る少年が少女へ呼びかけて、位置替え。

 万全の形で攻撃に防ごうとした矢先に少女が叫ぶ。


「――ッ!? 違う! 全員壁へ身を隠してッ! 『恩恵』だッ! 私じゃ防ぎきれないッ!」


「「ッ!?」」


「――へぇ、気づいたか? だが、おっせぇんだよッ!」


 わずかに早く、ヨヅキと呼ばれた少女が感じ取った異変。


 けれど、叫びが皆を突き動かすよりも早く、恐れた事態は訪れた。


全暴力フル・ヴァイオレンス


 硬く握られた手のひらが開かれた先で、解き放たれた赤く青く、緑に金に、黒く光る奔流。

 暴風かの如く、遅れたものたちを捕らえて吹き飛ばしてゆく。


 それは1点の得点としてだけでなく、人界第4に大きな恐怖を刻み込んだ。

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