4話 『人界第1対人界第4③』
恩恵による弱点を知るユウの作戦で、あえなく攻撃が不発に終わった人界第1。
「――ッツ!」
渾身の一撃ゆえに、ゴウトは込み上げる怒りのあまり、歯軋りをしてしまう。
だが、ユウの言葉は的を得ており、額からは冷や汗が流れる。
強力な攻撃手段を失った焦りから、独裁的な攻撃の連携が崩れたのだ。
「お前らッ! 誰でもいい! 1人でもいいから
「「あ、あぁ……」」
応じる声もか細く、自信のなさが窺える。
力任せな戦法を封じられたからか、今度は魔石を上へ投げ、人界第4の視線を集中させる。
ゴウトは最初から後ろで腕を組み、攻撃へ参加しない姿勢を取っていた。
「カ、カズ……お願い!」
「……っ、ごめん! サヤ!」
「わ、わたし……!? うぅ……イツカ!」
「えぇッ!?」
右へ左へ、前へ後ろへと投げられる魔石は、心なしか責任の押し付け合いにも感じられた。
だが、もう投げる回数は1回しかない。
「……最後お願い! サヤ!」
「……わ、わかった!
最後に託された、いや、押し付けられたのは、サヤと言う少女。
青い顔で覚悟を決めたサヤが魔石を上投げすると同時に、金色の魔石は光を帯びて敵へと迫る。
勢いはさながらレーザービーム。
瞬きする余裕も与えず、敵を撃ちつく音が響く。
「防御ッ!」
――しかし、敵のマヒルには標的も狙いもわかっていた。
隣立つアサヒの頭。だからマヒルは済んでのところで手を伸ばし、魔石の命中を防いだ。
「お、おお! ありがとうマヒル! 助かったよ!」
「オウよ! だけど大丈夫か!? 間石の衝撃で守った手が当たってない!?」
「大丈夫大丈夫! 当たってないよ!」
機転の効いたマヒルの活躍により、誰1人攻撃撃破されることなく相手の攻撃を終わらせられた。
湧き上がる彼らと対極的に空気に重みが増す人界第1。
「お前らいい加減にしろよ……ッ! 俺に迷惑をかけんじゃねぇよッ! 俺が気持ちよく勝てるようにちゃんと動けよッ! ただでさえ使えねぇんだからよッ!」
「――ッ! あいつッツ……!」
目に余る暴走にマヒルは思わず走り出そうとした。ここで止めなければ殴りかかっていただろうか。
だけど、それも間違いだとユウは手で止める。
険しい表情を浮かべるマヒルをまっすぐに見つめて――、
「僕たちがすべきなのは乱闘じゃない。それに拳じゃなにも伝わらないよ。あいつよりも酷いことをしたことになる。僕はそんな君を見るのは嫌だ」
「……っ、わかったよ。カッとなってごめん……」
「大丈夫。よかった、いつものマヒルに戻ってくれて」
「さぁ! こっちの攻撃だ! 切り替えていくよ!」
「「おぉッ!」」
ユウの言葉で我に帰ったマヒルは八つ当たりをしてしまったことを謝る。
ユウも笑って答え、アサヒの呼びかけで一丸となる人界第4。
闘いはここからさらに加速する。
「アサヒ!」
「『
「――ッツ!?」
柱を利用し見えないところから、魔石を受け取り現れたアサヒがゴウトの右足に投げつける。
着弾と同時に弾ける業火に足を救われるゴウト。
「ナイスアサヒ!」
「クソァッツ!」
怒りで顔を真っ赤になっていたが、この怒りを晴らす術はこの『繋石闘戯』しかない。
「……寄越せぇえあッ!」
「壁へッ!」
「がッツ! クソッ! ちまちまちまちま逃げやがってッ!」
恩恵を駆使した攻撃は完封し、完全に流れは人界第4にあった。
「さ、サヤ……!」
「う、うん……! 次――」
「オッラァアアアッ!」
「「――ッツ!?」」
しかし、番狂せな攻撃に全員が驚かされる。
別の者へ投げられた魔石を、間に入るよう飛んでもぎ取ったゴウトが魔法を放つ。
燃え盛る魔石は後ろへ飛ぼうとしたトモの右腕へ被弾。再び同点へと戻されてしまう。
「ごめん……! ちゃんと見てなかった!」
「俺たちだって、あいつが恩恵なしで飛び込んでくるだなんてわからなかったんだ。仕方ない仕方ない! 点とって切り離そう!」
「「おぉッ!」」
人界第4は仲間たちで呼びかけあい、乱された調子を整える。
「ヨヅキ!」
「はいっす! ユウ!」
「……隙ないな、アサヒ!」
魔石を投げ回して隙を窺うが、これ以上の失敗は許されない人界第1は常に魔石の動きに集中していた。
「……すまん、頼む! ユウ」
「了解!
託されたユウは恩恵を使い、
「避けろォオオッ!」
「「――ッツ!?」」
しかし、遠くからでも耳が痛い命令に狙われたイツカは地にダイブして魔法を躱す。
「奇しくも逆のパターンになったなぁッ!?」
「――ッ! ごめん」
「いいよ、今度は俺たちが闘う番だ」
ここぞとばかりに煽るゴウトに、背中を手を置き、優しい言葉をかけるマヒル。
「ユウ頼む!」
「……っす!」
緑色の魔石を上へ投げられたユウは、視線を忙しなく動かして、必要な情報を把握。
「――ッ!
「そこ――!」
振り向きざまに下投げの姿勢や釘付けの視線から狙いを顔と絞るサヤに、ユウは左足で投げつける。
『
読み合いに勝ったユウにより、人界第1の攻撃が継続される。
「アサヒ!」
「おう! 頼む!」
「――ッ!」
左端から中央と魔石が繋ぎ、投げられた右端には、2人の闘士が走り込んでいた。
しかも、右にある柱が視界の邪魔をして、人界第1の複数人はどっちが取ったのかを見落としてしまう。
属性は光だが、イツカから魔石を預けられたヒロもまた、受け取ったものを見落としてしまう。
視界では2人の闘士が今にも投げようとしていて――、
「――ッ!
選ぶに選べず、早すぎる
「ほいさー!」
当然読まれ、持っていたヨヅキに右腕に魔法を当てられた。
2人目の『攻撃撃破』。
次、『攻撃撃破』となれば、相手に得点が入り、再び後手に回ってしまう。
だからこそ、視線は自ずと集中する。
「トモ! 頼む!」
「任、せてッ!」
空高くに投げられた魔石をお得意とばかりに飛び上がるトモが今、受け取って――、
「……ないッ!?」
手から滑り落ちるように落下する魔石。
トモの意図が読めない人界第1の闘士たちは、そのまま地に落ちる魔石を見つめ続け――、
「うぉおおおッ! パンチアターック!」
「――ッツ!?」
後方から飛び出してきたヨヅキの攻撃に、目を見張るまま被弾した。
『攻撃撃破、3回成功。得点が加算されます』
「おおしッ! ナイスヨヅキ!」
「えへへへっ! 技名はダサいけど、いい戦法だったでしょう!? でしょう!?」
「あぁ、これで再び引き離した! 1点ずつ取っていこう!」
「「おぉッ!」」
得点が入り変わる攻守。
後ろへと下がり仲間の輪から外れる振る舞いから、ゴウトは恩恵を使うと人界第4は警戒する。
だが、様子が変だ。
他の闘士たちが目を泳がせて、指示を欲しそうにしていた。
笛の音が鳴り、彼らはやむを得ず始める。
宙に投げ、赤い魔石を手に取ったヒロは目が合った闘士へと投げ渡す。
「イツカ、お願――」
「邪魔だどけぇええッ!」
だが、ここでゴウトが割り込む。
払いのけた仲間が倒させても気にも止めず、恩恵を繰り出す暴挙。
「残念だったね。ちゃんとわかってるよ」
「――ッツ!」
しかし、虚をつくことができず、彼の攻撃は空振りとなる。
肩で息をするゴウトと涼しい顔で彼に語るトモ。
「……恩恵持ちの王の攻撃が当たらなくなったね」
両者の様子を眺めながら、熱に浮かされる観客の1人である男にその友は語りかける。
「この闘いはいかにして敵の隙を突くかの闘いだ。力任せな恩恵じゃ勝てない。それが面白いのさ」
彼の言葉に、友は合点がいく。
先の読めない、どう攻撃を繰り出すのか読めない一進一退の闘い。
それを楽しんでいたのは、誰でもない彼なのだから。
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