5話 『人界第1対人界第4④』
「カズ! お願い……!」
「う……ッ! やぁッ! 『
「
苦心の果てに繰り出された魔法はあえなく、属性有利の敵に阻まれる。
人界第1はなかなか点を取れずにいた。
原因は恩恵以外の攻撃の拙さ。そして、恩恵を早々と出す王だ。
「なんで一点も与えられねぇんだよお前らはよォッ!」
だが、後ろで怒号する彼に口答えできるものなど1人もいない。
黙ってこの点差が開く状況をどうにかするしかないのだ。
「行くぞ!」
「「おうッ!」」
4対7。闘いは徐々に明暗を分け始め、それによる焦りや余裕が見え始めていた。
だからこそ、アサヒは声かけを積極的に行い、気が緩むのを防いでいた。
「シンヤ!」
「すッ! ヨヅキさん!」
「りょーかい! 次――」
敵に背を向け、味方に次を繋げようとする。
「なんてないッ! 『
「――なッツ!?」
そんな姿勢を向けながら、背面投げで敵を欺く。
風で補い加速させた一撃はゴウトの腹を叩き、気付かせるよりも先に地面に魔石を転がした。
「――ッそがァアア! 絶対ぶっ飛ばしてやるぅうううッ!」
ゴウトは怒りのあまりに標的を宣言してしまう。
人界第1の闘士たちには悪いがこのまま我を忘れて自滅を狙おうと考えていた。
「……い、行くよ。っ!」
「らぁああああッ! どけぇえッ!」
またしても、味方の投げ渡しに乱入する荒々しい攻撃。
だが、不適な笑みに不信感が芽生え、即座に意図を汲み取る。
最悪な事態が頭に浮かぶと同時に、トモは仲間へと叫ぶ。
「柱から離れろッ!」
仲間たちもゴウトの企みに気づいたか、後ろへと下がろうと動くも、間に合わない。
「『
「――ッツ!?」
「マヒルッ!」
『
柱に身体を寄せていたマヒルの脇腹に深々とめり込み、弾き出されるように吹き飛ばされた。
ゴウトは恩恵を使わず、緑色の魔石で魔法を放ったのだ。
だが、同時にユウは務めていた平静が崩れる。
マヒルに込めたであろう全力の殺意に、規則を利用した悪辣な一撃に怒りを覚えたのだ。
「……大丈夫? マヒル」
「大丈夫だよ。ありがとう、ユウ」
「攻撃側になったら、次は俺にちょうだい。やりたいことがある」
「お、おう……んじゃ、これ頼むぞ」
「うん」
光のなかに消えるように退場する仲間を見届け、トモは次なる攻撃に備える。
「サヤ! お願い」
「う、うん……次、ヒロ」
「はい……! カズ頼」
「俺だァアアアッ!」
騒がしいゴウトの叫びに従い、仲間たちは急いで間を開ける。
魔石へと伸ばす腕には、難色もの脈のような模様が入っていた。
間違いなく、恩恵だ。
「壁へッ!」
「チッ、粘らねぇかッ!」
いくつもの属性の本流が牙を向くも、柱は頑丈。向こう側で身を丸める人界第4を守った。
「おらッ! 適当にやれや」
当たらないと知るや否や、目を背けて味方に丸投げするゴウト。
彼らも困惑しながら、魔石を投げ渡し、託されたカズは標的を狙う。
「『
「なら、属性有利は私だ!」
だが、標的は背後から叫ぶ仲間の声に身を引き、属性不利のヨヅキは走ってきた。
「
あろうことが身を守る半透明な壁で攻撃を押し返し、反撃に転じてきたのだ。
思わぬ番狂せに、カズはガラ空きの腹に命中してしまう。
「おいッ! ちょっと待て! これは反則だろうッ!」
「反則ぅ? はいぃ?
どちらも引かずに試合が中断されるかと思われたが――、
『――審議結果。防御での反撃は、攻撃規則の一つ。最低一回は味方に投げ渡さなければならない規則に違反しています。よって、さっき攻撃は無効として、人界第4の攻撃側から再開してください』
「ちぇっ……! すみません、みなさん。上手い新技だと思ったんですが……」
「い、いいよいいよ。というか、ヨヅキって凄いな。あんな怒号に怯まず、堂々と言い返せるんだ」
「いやぁ、いちゃもんつけられたと反射的に言い返しちゃったんです。頭空っぽじゃなかったら、きっとビビって言い返せてなかったです!」
「そ、そっか……!」
お茶目な一面を見せて悔しがるヨヅキだが、彼女のおかげで、攻撃の出番が回ってきた。
これだけでも、大きな光跡だ。
そして――、
「頼むよ! ユウ!」
「――うん」
空を舞う魔石たちのなかから金色の魔石を取り上げ、投げ渡すアサヒ。
直前の作戦通り、放物線を描く魔石へユウは飛び上がり――、
「『
「「――ッツ!?」」
拳を握り突き上げるように殴った。
全員が空高く舞う魔石へ視線を向け、予想外の攻撃に目を見張っていた。
だが、瞬きする間に魔石は天井にぶつかり、軌道を変えて下へ落ちてゆく。
「なッ!? 防――」
「間に合うかよ」
「かッッツ!?」
言葉をしようとした口は、呻き声に変わる。
頭頂部を穿たんとする業火と激流、暴風と流星の一撃によって。
ゴウトは前に倒れ、痛みのない衝撃からか、すぐさま立ち上がる。
だが、ふらつく様子に与えられた衝撃が尋常ではないことを闘いを見る者たちに思い知らせた。
「――」
言葉にしない、ユウの怒りも感じ取らせた。
――5対9。
この後も両者ともに譲らない攻防が続くも、人界第4が一点先取の状態は崩れない。
「
「な……あ、危な――」
「『
「ッツ!?」
失敗を糧にした変則的な反撃が功を奏し、魔石から急成長する木々で敵を殴り得点を得た。
他にも応用を効かせたり、相手を隙を突いた攻撃で破竹の勢いで得点を取っていく人界第4。
そんな彼らの勢いはやはり欠ける決め手を補うユウの恩恵だ。
様々な属性を織り交ぜる戦法はわかっていても、完封はできない。
それほど、ユウの恩恵を使い方やタイミングが絶妙なのだ。
対する人界第1も闘い方を変えるも上手くいかない。
仲間同士での衝突が起こり、結局、恩恵や王であるゴウト頼りになってしまう。
そして――、
「な、なぁ……みんなどうしたんだ? 一体あれはなんの手拍子なんだ?」
「人界第4があと1点で第1に勝てるんだよ。言い忘れていたな、この『繋石闘戯』は15点先取した方が勝つんだ」
「しかも、次は第4側の攻撃だ!」
「そう、またとない好機なんだよ。第4にとって今この状況は!」
観客の熱が最高潮になるなか、人界第4は最後に使用する魔石を相談していた。
「んじゃ、炎で行こう」
「――待って」
即決で決まるもここで待ったをかけるトモ。
不思議そうに見る仲間たちを一人一人見てから、口にする。
「最後決めるよ。みんな」
「「――おうッ!」」
最後まで、一丸にして勝とうと呼びかけるトモに、皆が声を張り上げて応じる。
今度は彼らが1つだけ魔石を宙に投げ、他のものはポケットへ。
作戦通り炎属性の赤い魔石をユウが胸元まで近づけ取った。
「アサヒ! 頼むよ!」
「オッケー! そんで、シンヤ!」
すかさず、周囲に広がった仲間の1人、前方で待つアサヒへ投げる。
受け取るや否や、右斜め後ろで待つシンヤへ放り上げる。
「……ぉっけ!」
落とさないように目を凝らして魔石を取るユウ。
「次、頼みます! マヒルさん!」
すぐさま目に映ったマヒルに魔石を投げ渡す。
「おう! そんで、ヨヅキ!」
「あいあいさぁー! 最後頼みます!」
次々と繋げられるが、人界第1も彼ら闘士が仕掛けるとは思わなかった。
きっと最後は彼が仕掛けてくると、覚悟していたからだ。
恩恵を持つ、人界第4の王。ユウが――。
「ユーウッ!」
読み通り、ユウへと繋げられた魔石。
だが、今までとは異なり、手から溢れ落とすような渡し方だった。
投げ渡すというよりは落とし渡すという方が近いほど。
だが、その戦法を取った理由がすぐさま思い知らされる。
脇目も振らず走るトモの勢いが乗り、恩恵の力を振るわれる。
鬼気迫る彼に、恐怖を感じるも彼らは一歩も引かない。
ユウには、壁を倒す術はあってもその先にいる王をまとめて倒す術はないと。
だからこそ、彼らはその場から離れない。
だから――、
「――もういい加減、俺たちの王は学習を終えたようだぜ?」
「ま、まさ――」
「――『
「なッ――!?」
次の瞬間、広がった光景に人界第1は目を疑った。
同時に身体を吹き飛ばす衝撃に理解が追いつかなかった。
何もわからないまま、地面に背中を打ち付ける彼ら。
対して、全力の一撃で巻き上がる白煙で、攻撃の成否がわからない人界第4。
しばしの沈黙が訪れて、かくして沈黙は破られる。――無機質な、放送によって。
『試合終了。勝者、人界第4』
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