瑠璃アゲハ ディシェーネン・デアナハト──魔法実技落ちこぼれの王女ですが、大学でゼミの課題をこなしていたら世界最強の魔法使いになってしまったようですの──

魔女っ子★ゆきちゃん

1 プロローグ

 世界制覇を目論む13人の魔女達は、世界最深の地下迷宮といわれる『の迷宮』へと辿り着いた。

 行く手を阻む魔物の群れを薙ぎ払いつつ、最深部を目指す。

 しかし、その途上で厄介な魔物と遭遇してしまった。

 インフェルノアメーバ。この世界チャトーラーンガでも最強にして最凶とされるスライスである。

 全ての物質を溶かし消化して巨大化していくモンスターで、生物の肉を好むほか、ミスリルやオリハルコンといった魔法金属も好んで食する。

 その名が示す通り、アメーバ状の身体は打撃や斬撃といった物理攻撃を受け付けず、また、魔法に対する耐性も驚くほどに高い。

 冷気系の呪文が僅かに効くくらいなのであるが……。

 人が見上げる程の巨体に成長したインフェルノアメーバ。完全な成体である。

 インフェルノアメーバの魔法耐性は、その質量に比例する。ここまで巨大な個体は、もはや弱点は存在しないかもしれない。

「あたいに任せな。フルパワーの凍結爆撃呪文で動きを止める。そしたらグフィン、あんたがとどめを刺しな」

 発言主は、バイオレット・イオナ。13人の魔女の中でも最強の呼び声高い古代魔法の使い手の実力者である。

 グフィンと呼ばれた戦士の男が無言で頷く。右手の剣が霧状に変化したかと思うと、巨大なハンマーへとカタチを変えた。

 グフィンの装備する武器や防具は、『ミレニアムヘヴィメタル・聖姫魔IIせいきまつ』という気体状の魔法金属である。

 いや、正確にいうと、常温域では液体金属なのだが、魔力を込めると気体状に変化し、持ち主の意思に応じて、如何ようにも姿かたちを変える。仲間の魔女が研究・開発した新しい魔法金属である。

 イオナが呪文の詠唱を始めたかと思うと、次の瞬間、高エネルギーを秘めた魔力球が発生した。

「これでも食らいな!」

 魔力球がインフェルノアメーバへと突っ込んで行く。

 まばゆい光。迷宮内は極低温の大爆発に包み込まれる。魔女達は、魔法障壁によって、かろうじて難を逃れるも、それでも凍てつくような冷気に襲われる。

 イオナの凍結爆撃呪文は、絶対零度に到達する。物質が運動を停止する温度である。

 むろん、生命活動など出来ようはずもない。

「今だ、グフィン!」

の声に、戦士が瞬く間に、インフェルノアメーバへと距離を詰めると、巨大なハンマーを振り上げる。と!

 凍りついて動けないはずのインフェルノアメーバが攻撃してきた。

 別の魔女、リーベディッヒが、火球を撃ち込み、なんとか、グフィンへの攻撃を回避させた。しかし……。

『くそっ! パワーが足りなかったか……。もう一度……』

 イオナが再びの攻撃を試みようとするが、その場に膝をついてしまう。もはや魔力はおろか、立っている体力すらもない状態である。

 古代魔法でも最強クラスの呪文を唱えれば、最強の魔女ですら、こうなってしまう。並の魔法使いであれば、唱えるだけで生命いのちを失ってしまう程のシロモノである(しかも呪文は発動しない)。

 ただ、それすらも、目の前の最強最凶スライムは耐えてしまったのである。

「どうやら、絶対零度ですら、凍って下さらないようですわね? 困りましたわね。ここはわたくしにお任せ下さるかしら?」

 そう言いつつ、インフェルノアメーバの方へと歩みを進めるのは。

「ディア姫!」

 『困りましたわね』などと言う割には、さほど困っている風もなく、瑠璃色の髪を手櫛で梳きながら一歩、また一歩と歩を進めていく。

 むろん、それを優雅に眺めているようなインフェルノアメーバではない。

 近付いてくる獲物を食さんとばかりに襲い掛かってくる。

 と。まばゆい閃光。くらんだ目が情景を映すようになったのは、完全に凍りついたインフェルノアメーバの姿であった。

「あら? 意外と上手くいきましたわね? それではとどめを刺して差し上げますわ」

 ディア姫の右手が、凍りついたインフェルノアメーバに触れるや否や、粉々に砕け、塵と化した。流石のインフェルノアメーバも、こうなってしまっては生存出来ない。

「絶対零度でも凍らなかったインフェルノアメーバが何故?」

「短期間での二連発に耐えられなかったのか?」

 口々に疑問を口にする魔女達。

 ディア姫は笑みをたたえながら、穏やかに首を左右に振った。

「違いますわ。液体ヘリウムという物質をご存じかしら? 絶対零度でも液体のままで凍らないんですの。ヘリウムを凍らせようとするならば、絶対零度に加えて圧縮させる必要があるのですわ。なので、圧縮凍結爆発呪文、即席で作っちゃいましたわ。うふふ」

 最強クラスの古代魔法すら寄せ付けないインフェルノアメーバを一蹴する即席呪文。

 もちろん、そんなモノが、なんの裏付けも無く作れるはずもなく。

 最強の13人の魔女達ですら、使用が困難な次世代型未来魔法。使いこなすには高度な魔法学の知識及び科学知識、更には新型魔法への適性が必要という。

 最強の魔女達が、なんとかモノにしようと努力はしているのであるが、その威力は古代魔法に遠く及ばない。

 古代魔法より威力が格段に落ちるのであれば、新型魔法を使う必要性がほとんどないのである。

 そんな中で、ディア姫は古代魔法を遥かに凌駕する新型魔法を苦もなく、使用してみせる。

 そう、詠唱する呪文すらない未知の魔法を、即席で作り出してしまうのである。

 これは、そんな次世代型未来魔法、『量子重力魔法』の誕生と、その最大の使い手となったお姫様の物語である。

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