7 ロリっ子魔女っ子スモーリン・ドスコーイ

「ほらっ、グラビちゃ飲みなさい! グングン二エール君も!」

 透明のプラスチーク製ボトルに入った500ml入りのグラビ茶を手渡してくるスモーリン。

「ありがとう。それは、そうと、俺の名はグングニール……」

「ライスボールも食べるでしょ? はい、シャケと梅とツナマヨとおかか!」

 グングニールの手に、握りこぶし大のライスボールが4つ、ドスドスドスドスッと置かれる。

「こんなこともあろうかと、多めに持ってきて良かったわ」

と、満足顔のスモーリン。中学生、いや、下手すれば小学生と見紛うような小柄な身体に、ぴったりなロリータフェイス。

 その辺をひとりで歩いていれば変質者に拐われてしまいそうなロリっ子魔女っ子である。

 もちろん、高校を卒業している訳だから、18歳、もし誕生日が来ていれば19歳のはずである。

 ワカヅマ・サカエゼミ選抜試験メンバーの中では群を抜いて小さい135cmの身長に、強風が吹けば飛んでいってしまいそうな線の細さ。

 しかし、その外見に反して中身は超絶パワフルである。

 一国の王女を前にしてまったく物怖じしない胆力。

 思ったことをズケズケという性分。

 M1(魔術師ナンバーワン)グランプリ王者も納得のバイタリティである。

 このミニマム女子大生は、ディア姫のことを勝手にライバル視していた。それはそうだ。高校時代、目の上のたんこぶだった訳だから。

 けれども、敵視していた訳ではないらしい。むしろ好敵手として、良い関係を築きたいと思っていたようなのである。

 だからなのであろう。

「それにしても驚いたわ。『魔法学共通模試』1位常連のディシェーネン・デアナハトさんが、実技が壊滅的にダメだったなんてね」

 しかし、それに失望し、離れていくスモーリンではなかった。

 むしろ、それを聞いて、目の輝きが変わった。

「これからはワカヅマゼミの仲間になるんだし、自主トレをしましょう! ディシェーネンさんが、ゼミで足手まといにならないよう、私が立派な魔法使いに育て上げてあげる」

 と、のたまったのである。完全な上から目線での発言。けれども、実際に魔法実技では、全くレベルが違うのだ。

 この押しの強いちびっ子魔女っ子に、ディア姫は少々困惑気味だったのであるが、結局はその申し出を受け入れることにしたようだった。

「今日の放課後、近くの魔法ジムに行くわよ! まずは中学生レベルの基礎魔法から、きっちりおさらいね。グングン二エール君も来るのよ? 良いわね!」

 半ば強制的に、自らの決定を押し付けてくるスモーリン。

 この間も、持参のライスボールを7つも食べている。

 大柄なグングニールが4つでお腹一杯だというのに、このロリっ子魔女っ子の身体の中はどうなっているのであろう?

 食べた物を魔力に変える、特殊な臓器が備わっているのかもしれない。


「すもりん、凄かったわね?」

 スモーリンと別れて、講義室へと向かうディア姫が話し掛けてきた。

「そうですね。あそこまでパワフルな人物は、騎士仲間でも見たことないですね」

「でも、ああいう熱い子は好きだわ。一生懸命感があって好感が持てるもの」

「自主トレで効果が出ると良いですね。昨年のM1王者のスモーリンさんですから、ディア姫にとっても有意義なアドバイスなどがもらえるかもしれませんね」

「そうだと良いのだけれど……」

 途端にディア姫の表情が陰りを見せる。

 そうなのだ。ディア姫は幼い頃から、多くの先生やクラスメイト達からアドバイスを受け続けてきた。

 けれども、それが全くと言ってよいほど、身になっていないのだ。

 ディア姫は、宮廷魔術師長のオカイモ氏からも魔法を習っている。

 ミノー城の宮廷魔術師長といえば、どう低く見積もってもミノー大陸内で5本の指に入る程の魔法の達人である。

 それ程の人物に教わってなお、ディアの魔法の実力は、良いとこ中学生レベルなのである。

 補欠合格とはいえ、よくぞ難関のミノー大学に合格したな、と今更ながらに思うグングニール。

 ディア姫が、憂いているのは、おそらく、自身の魔法の実力が上がらないことではない。

 スモーリンが一生懸命に教えてくれても、その期待に答えられず、彼女をがっかりさせてしまうことを憂いているのであろう。

「大丈夫ですよ、ディア姫。それに、さっきの冷気系呪文は凄かったじゃないですか?」

 そうなのだ。ディア姫は普通の魔法は、中学生レベルな一方で、時折、とんでもない呪文をさらっと使って見せるのである。

 自分の身体に纏わりついたスライムに対して、そのスライムだけを攻撃する呪文など正直、高度過ぎて使える気がしない。

 天下のM1王者ですら、そう言うのであるから、本当に難しい魔法のはずである。

 まあ、威力自体は大したことなかったのだけれども……。

 おそらくディア姫が、ゼミ入り出来たのも、その高度な呪文を見せたからであろう。

 最初のショボいファイヤーボールだけならば、失格の烙印を押されていたに違いない。

「まあ、頑張るしかないわね! いつものことだけれど」

 そう言ってディア姫は、グングニールの方を見て笑顔を見せた。

 ディシェーネン・デアナハトはへこたれない。百折不撓ひゃくせつふとうの姫である。

 幼い頃は、『上手くいかない』とよく泣いていた。

 今は上手く行かなくても笑っている。

 けれどもそれは、"諦め"を孕んだものではない。

 悔しい気持ちを総て飲み込んで、周りには笑顔を見せるのだ。

 ミノー大学での学生生活において、魔法の実力が飛躍的に伸びてもらいたい、とグングニールは思った。

 ホルベア大学名誉教授ワカヅマ・サカエと昨年の魔術師ナンバーワングランプリ王者のスモーリン・ドスコーイ、及び他のゼミや学内の仲間達との交流がディア姫に良い影響を与えてくれるのを、グングニールは祈るばかりであった。

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