2 魔法への憧れと現実
世界征服を企む13人の魔女討伐に向かうはシルバークラウン
魔女たちの拠点と目される地点に進む道中において、1万5千の兵の前に立ち塞がったのは、最強の呼び声高い"すみれ色
小高い丘の上に立ち、単騎で軍勢を待ち受ける。
「ネギ
イオナが呪文の詠唱を終えた直後、太陽よりも眩しい閃光が辺りを包み、1万5千の精鋭兵たちは影と化した。
ディア姫は、パタンと絵本を閉じた。
何十回と繰り返し読んで、イオナのセリフまでそらで言えるようになっていたけれど、このシーンが一番ワクワクドキドキ興奮する。
魔法って凄い! 魔女がその気になれば、誰も敵わない。私もそんな魔法を使ってみたい。
幼心にそう思っていた。
『13人の魔女』は、幼い子ども向けの絵本としては、かなり難解な内容であったが、高い人気を誇っていた。
紀元前において、人類の敵であったにも関わらず、時を超えて読みつがれてきた古典中の古典ともいうべき絵本。
このシーンは、人類史上最強最悪の呪文が使われた場面として、つとに有名であった。
単なる創作ではなく、歴史上の一場面、史実である。
兵たちは、一人残らず死亡したため、イオナのセリフはもちろん創作であるが、この呪文自体は実在し、近年になって再現されている。
古代魔法といわれる魔法の呪文で、街一つを壊滅させる程の威力を持ち、ニュークリア・デビジョン・エキスプローションと名付けられた。
古代魔法の書物に関しては、厳重な管理がなされており、一部の研究者を除いては、それに触れることは出来ない。
とはいえ、幼いディア姫が、そのような事情を知るはずもなく、彼女は魔法への憧れを
時は流れて、ディア姫が18歳の春。
ミノー大学の構内において、彼女は失意のどん底にいた。
ミノー大学の入学試験の合格発表の当日である。
筆記試験の出来に関しては、ディア姫は絶対の自信を持っていた。
魔法学の座学に関しては、ミノー学園の小等部、中等部、高等部を通じて、ほぼトップクラスの成績を収めていた。
しかし、問題は実技試験の方である。
ディア姫は何故か、魔法の実技が壊滅的に酷かった。
簡単な魔法ですら、発動しない、安定しない、暴走するなど、思うように使いこなせない。
それでも魔法への憧れから、必死の思いで努力を重ね、なんとか人並みに近い程度には使えるようになってきてはいた。
とはいえ、ミノー大学の魔法学部は、ミノー大陸のみならず、
優れた魔法使いや研究者を数多く排出し、魔法学研究においても優れた成果をあげ、現代魔法への進化、発展にも多大な影響を与えていた。
『人並み程度に魔法が使える』では、到底目指せる大学ではなかったのである。
それでも、父である国王に必死に頼み込んで、『再受験は許さない』『ミノー大学の別の学部を併願する』等の条件のもと、渋々受験を許されていたのであった。
それなのに……。
「グングニールぅ〜っ」
蚊の鳴くような声でディア姫が声を掛けた。
グングニールと呼ばれた青年は、その一言でディア姫の言いたいことをあらかた察した。
というよりも、もう30分以上も受験番号を探して、ここにいるのである。
ディア姫の受験番号は『5963番』、その辺りの合格者の番号は、5911、5974であって、ディア姫の受験番号がないのは、すぐに判明していた。
それでも、どこかに間違って混ざってないかと、受験番号1から最後の番号までを、目を皿のようにして探しているディア姫を諭すなど、グングニールには出来なかったのである。
ディア姫がどれだけの努力を重ねてきたかを知っているだけに。
「姫様、結果は残念でしたが、併願していた帝王学部は合格しています。ミノー大陸最高学府であるミノー大学の学生になられることに変わりはない訳で……」
「嫌ですわ! 帝王学部なんて、なんの役にも立たないじゃないですの!
「もう諦めましょう。姫様の学力は確かに高いですが、魔法実技への適性は、正直言って壊滅的です。適性が無い学部へ入学出来なかったのは、もう仕方のないことなのです」
「ぐううぅぅぅぅっ……」
悔しさに唇を噛みしめるディア姫を見て、グングニールは思った。
可哀想ではあるけれど、これが姫のためなのだ、と。
適性がない学部に進学しても苦労するばかりで、得るものは少ないだろう。それならば、魔法学への道を
姫は学力自体は高いし、運動神経だって良い。魔法にさえ関わらなければ、優秀な学生になるに違いない。
「さあ、もう帰りま……」
……しょう、と声を掛けようとしたところで、グングニールはディア姫の両の瞳から大粒の涙が
誇り高く、負けず嫌いなディア姫が涙を流すとは。グングニールは、そのことに驚きつつも、それも当然かと、すぐに思い直した。
幼い頃から、ディア姫は魔法使いに憧れていた。
魔法実技への適性が、壊滅的に低いにも関わらず、人一倍の努力を重ねてきたことを知っている。
これで魔法使いへの道を絶たれることになるのだから、むしろ、泣かない方がおかしいのかもしれない。
グングニールは、ディア姫に無言でハンカチを手渡して、彼女の背中を擦りながらも、軽く前に押し、帰りを促した。
ディア姫も無言のまま、ゆっくりと歩き始めた。
グングニールは、ディア姫の後ろについて歩きながら、考えていた。
ディア姫の魔法実技が何故、ここまで壊滅的に酷いのか、についてを。
本来あり得ないことなのだ。魔法の座学に優れているにも関わらず、実技がそれに伴わないということなど。
それこそ、何らかの呪いが姫の身に降り掛かっているとしか思えない程である。
グングニールの考えは、あながち間違ってはいなかった。
けれども、その真相が明らかになるのは、もう少し先のことである。
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