10 スペック高過ぎ新作じゃない!
湿っぽい空気の中、おずおずとスモーリンが口を開く。
「私としては、何も言えないわ。けれども、ディシェーネン姫は魔法を使えるじゃない? その呪文の文言は自分で?」
無言で頷くディア姫。
何ということだろう、とスモーリンは思った。
『詠唱呪文学』は大学に入ってから習う学問だ。スモーリン自身も、独学で学んでみようと、書を開いたことはあったが、すぐに挫折した。
ほぼ総ての魔法使いは、魔法の呪文を丸暗記するような形で記憶している。
詠唱呪文学は、詠唱する呪文を作る職業以外では不要の学問だ。魔法の仕組みについて学ぼうとする者もいないではないが、大抵が挫折する。端的に難しいのである。
概念としては、詠唱用呪文の文言というのは、『自然界に働き掛けて"魔法"という効果を生み出すための言葉』とされており、それ程難しいものではないのであるが。
「ディシェーネン姫、私に詠唱用呪文を教えて下さらない? 私も、自己魔力を消費しない魔法を試してみたいの」
自己魔力を消費しない魔法。そんなものが使えれば、どれ程凄い魔法使いになれるのか?
これまで考えたことすらなかった、魔法を使い放題の夢のような状態。
その一方で、ディシェーネンが苦労しているようでもあり、容易い道ではないことも容易に想像出来た。
ディシェーネンは快く了承すると、メモ用紙を一枚破り取って、現代魔法語で記入を始めた。
(へぇ~、現代魔法語で表現出来るんだ)
スモーリンの中に驚きと、それも当然か、という想いが続けざまに湧き上がる。
待っている間、未知の魔法へのわくわくするような期待感と、ドキドキする緊張感が、胸中で膨らんだ。
「お待たせ致しました。
手渡されたメモを見ると。
「な、長い……」
相当な長さだった。自らが先程使った対ドラゴンクラスの
ディア姫のアドバイスを胸に、集中力を高めてから呪文の詠唱を始めた。
その途端に、全身が鉛のように重くなった。
何か自分の身体に悪影響を及ぼす呪文を唱えさせられているのでは? と、一瞬不安がよぎったが、それを振り払い、最後まで詠唱しきった。
が、魔法は不発に終わった。全身に重くのしかかる極度の疲労感。
2時間ぶっ続けで上級魔法の特訓を続けても、ここまで消耗したことはなかった。
「惜しかったですわね。ただ、集中力を欠いてしまったように見えましたわ。
スモーリンに代わって、発動地点に立ち、標的を見据えるディア姫。
スモーリンは、固唾を飲んで見守る。自分と何が違うのか? それを見極めたい。
ディア姫が詠唱を始めた。速いっ!
周囲のマナが、ディア姫の身体へと集っているのを感じる。
と、発動。見事に数メートル先の的に命中。しかし、その威力は、初めて呪文の発動に成功した中学生のそれと選ぶところがなかった。
(そうか。自己魔力を用いずに直接周囲のマナに働き掛けるから、ロスが大きいんだ……。もしディシェーネン姫に相当の体内魔力があったなら、私以上の強力な魔法を容易に使いこなしていただろう。けれども、あまりにもロスが大きい呪文を使うことを余儀なくされ、結果、中学生レベルの魔法しか使うことが出来なくなっている。なんとかしてあげたくとも、呪文詠唱学の知識がない私では、どうすることも出来ない……)
「少しは参考になりましたでしょうか?」
笑顔で語り掛けてくるディア姫に、
「そうね、何か掴めたような気がする。もういっぺんやってみるわ」
と、呪文発動地点に向かおうとするも、身体がバランスを崩して倒れ込みそうになる。
「危ない!」
ディア姫が咄嗟に支えてくれて、転倒は免れたものの、再度のチャレンジは出来なさそうだった
それに気が付いたディア姫。
「ごめんなさい。この魔法は体力の消耗が激しいというのを失念していましたわ。普通の魔法使いの体力では、使いこなせそうにありませんですの」
申し訳なさそうに言う。
「ディア姫は、そこらの女戦士に負けないくらい鍛えていますからね。高校時代、格闘でも武器格闘でも、同性相手では無敵でしたしね」
グングニールの言葉に改めて驚くスモーリン。優秀であるとは聞いていたが、そこまで万能であるとは思わなかった。
スペック高過ぎ《タカスギ》
タカスギというのは、ミノー大陸一の武器・防具メーカーで定期的に限定モデルを発売している。
限定モデルは、通常の商品よりも遥かに高性能で、特別な魔力がこめられていたりする反面、値段が跳ね上がる。
そのため、メーカー名と値段の『高過ぎ』を掛け合わせて、『
戦士並みの体力? 魔法使いがそんなもの身に付く訳ないじゃん! ディシェーネン姫の使っている魔法、どんだけとんちんかんな偏屈魔法なのよ!
スモーリンはそう思わずにはいられなかった。
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