懐かしの FRUITS ✕ D'OLCE
フルーチェ(FRUICHE)は、フルーツ(FRUITS)とドルチェ(D'OLCE)の造語です。 フルーツ(FRUITS)という言葉に、イタリア語のお菓子という意味のドルチェ(D'OLCE)をつけたもので、かわいい感じを強調しました。
(ハウス食品の質問ページより抜粋)
◆◆◆
母が、「フルーチェを食べたい。」と唐突に言い出した。
いや急にどうしたwww、と小馬鹿にしたような調子で(すまねぇ)その時の私が尋ねると、先日、弟の学校の懇親会に出かけた際、いつも仲良くしているママ友が、フルーチェを久しぶりに食べた事を自慢げ(?)に報告してきたのだという。それで自分も久々に味わってみたくなってみたのだと。
更に詳しく訊いてみると、どうやらそのママ友には三人の子供(一番上が弟の同級生)がいて、一番下はまだ幼稚園の年少らしい。その子に強くせがまれて、ママ友は久しぶりにそれを作ってみたという事だった。
フルーチェ、というと確かに低年齢層向けな響きがある。少なくとも中高生や子供のいない社会人が好んで食うものではないだろう……というのは私の偏見だろうか。
とはいえ、別に強く拒否する理由もなければ、昔何度か食べた味をもう一度味わいたいという思いもあったので、すぐ次の日に家族みんなで食べようという事に決めた。母がそう言い出したのは、もうとっくに日が暮れてしまっていた頃だったからである。
寝る前に少し調べてみたのだが、どうやら今のフルーチェには「パンプキンアップル味」だの「フルーチェSweets」だの更には、「わふーちぇ」なる奇怪なものまで存在しているらしい。まぁ、ガリガリ君の例のレパートリーに比べれば非常にまともな感はあるが()
そして迎えた当日。私はいつも通り朝に三時間程の勉強を終わらせてから、昼前に家からすぐそこのスーパーマーケットに買いに行く事に決めた。三時のおやつに皆で食べよう、というのが私の計画だった。ついでに母から晩御飯のお使いも頼まれた。
スーパーマーケットは、ダッシュで向かえば家から僅か2分ほどの位置にある。
当然と言うべきか、この店に来るのはこれが初めてではない。今までに親から何回もお使いを頼まれ、一週間に一回は必ずスーパーマーケットのお世話になっているので、どの物品がどの棚に置いてあるかなどは大体把握している。
「フルーチェ」なら、直接気に留めたことはないけれどもお菓子コーナーのすぐ近くだという事は間違いない。だったら12番前方の列にはあるだろう、と言った具合に。
――さぁ、準備は整った。金属製のカートを両手にいざ参らん。こうしてカートの取っ手を両手に強く握ると、何だかドキワクするのは私だけだろうか(幼稚)。
はやる気持ちと、この年に相応しい常識と節度を胸に、私は
――二十分後、私は必要な材料を手に、台所の前に一人で立っていた。
そう、「一人で」である。台所には私の家族の影も形もない。母はまた弟の学校の地区の集まりに出ていった。父は普段リモートワークで家にいるのに、つい先程急用とやらで家を後にした。弟は当然まだ学校から帰ってきていない。今の時刻ではまだ5時限目のチャイムさえも鳴り出していないだろう。
父は『遅くとも4時くらいまでには帰って来る。』とのこと。母も弟も、過去の事例からして恐らく夕方までには帰って来る。その時になって皆で一緒にフルーチェを作れば良い、、、などと、家に帰って来るまではそう思っていた。
「イチゴ」と書かれたパッケージの裏側、フルーチェの作り方を見た時に気付いた。
簡単すぎる。しかし若干の時間がかかる。
フルーチェ(の素)に牛乳とクリームを適量流し込み、混ぜる。以上。しかし買ってきたフルーチェは冷蔵されていた訳ではなく当然常温で店頭に並べられていたものなので、冷たいものを食べるには、作った後に冷蔵庫の中に入れてやる必要がある。
――ゆえに私はこう思ったのだ。
梅雨直前の蒸し暑い気候の中、帰ってきてそれなりに疲れているであろう皆をさらに十数分待たせてフルーチェを作るより、先に作り置きしてキンキンに冷えたフルーチェを速攻で出してあげる方が良い、と。
1mLも無駄にしないように丁寧に銀のアルミパックから「フルーチェの素」を絞り出す。たまたま冷蔵庫に置いてあった牛乳(作り方を調べるまで完全に失念していた為、危うく無かったら店に買い戻る所であった)を適量量り取り、ボウルの中に注いで、混ぜる。泡だて器などといった大層なものではなく、大きめのスプーンで素早くかき混ぜる。
公式サイトには「フルーチェムース」や「ドームケーキ」などが色々とレシピ付きで紹介されていたが、今回は目を瞑っておく事にした。「君子危うきに近寄らず」と同義、「能無し危うきに近寄よるべからず」である。一人で粋がって失敗する未来が容易に目に浮かぶ。機会があるならまた日曜日にでもやればいい。(というかなんで初めからそうしなかった)
完成したフルーチェをボウルごと冷蔵庫の奥にしまおう……としたその時、パッケージの裏面にある文言が私の目についた。
「フルーチェは室温で保存して下さい(意訳)」
この文言の「フルーチェ」とは元々パック内に入っていたフルーチェの素の方を指しているのだろう。公式サイトを調べてみるに、何でも、これが冷えていると上手く牛乳と混ざらず、出来上がりがゆるくなってしまうのだという。
ではしっかりと混ぜた後に冷やしていいのかどうか、ネットで調べてみた所、どうやら短時間であれば問題ないらしいので、暫くはラップをかけて常温で放置、その後、家族の内の誰かが帰って来る直前の20分は冷蔵庫内で冷やすことにした。
冷房の効いた涼しいリビングの机にフルーチェを置くと共に、私は昼飯をすっかり忘れていた事にようやく気が付いた。
それから数時間後。
時刻は午後四時半を回った頃、母、弟、私の三人で、フルーチェを晩御飯前に頂く事にした。父は予定より遅く帰るとの連絡があったのだ。初め、「じゃあ父さんが帰って来るまで待ってるか」と皆で決めていたのだが、湿気と暑さに喘ぎ甘味に飢えていたためか、母と弟が我慢できなくなり、結局みんなで仲良く食べる事になったのである。
一口目をぱくり。
私は思わず母と顔を見合わせた。
「「甘っ!!」」
不味い、という訳ではない。だが甘すぎる。イチゴの酸味が大量のミルクで押し殺され、舌から「甘み」という味覚しか受け取れない。以前、TVのグルメリポーターが、巷で話題のお店のスムージーを「甘みの清流」とか評していたが、これはもはや「甘みの濁流」である。元々辛いものが苦手かつ甘党であった弟は平気な顔をしてバクバク食っていたが、「ケーキ嫌い」で家族に名を知られる私は、その味とは裏腹に、最後まで苦い思いをしながら食う羽目になった。
あとで知ったことだが、どうやら投入する牛乳の量を初めに少なく抑えることで味を調節できるらしい。ヤフーの知恵袋や他のブログなどに書いてあった。…いや、そんなの少し考えれば当たり前の事なのだが、なぜかその時の私には考えもしなかった。「フルーチェを作る」という目的に力が入りすぎて、それ以外の事に目が向かなかったのかもしれない。
また来週に新しいモノを買って試してみるつもりである。私はゼリーのように食べごたえのある食感の方が好みなので、知恵袋やその他のブログでの助言に従ってミルクを少なめに調整しようと思う。一度の失敗ならしてもいい。だが失敗は必ず未来へと生かさなければならない。次こそは必ず「フルーチェ」を、満面の笑みで、家族の皆と美味しく堪能したい。
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