ちょっと 選挙に 行ってきた

 もう二週間以上が経ってしまったが、一応書いておく。


 10月27日の月曜日、夜の6時くらいだったと思う。父に伴われ、選挙会場に行った。色々と用事があり、家を出た時には既に日は落ちていた。


 選挙会場は私の出身の小学校の体育館であった。だいぶ前にも書いた通り、私の家は小学校のすぐそばにある。最寄りの門(桜門と言う)から学校に入ろうとすれば一分もかからないが、投票に来た一般人が利用できるのは学校の正式な通用口「正門」だけだ。なので、私と父は普段のルートから迂回して入場する羽目になった。それでも辿り着くまでに2分とかからなかったが。


 実を言うと、私はほんの少しこのイベントを楽しみにしていた。自らの意思で国政に介入できるとか、晴れて大人の仲間入りを果たしたとか、そんな高尚(?)な願いを抱えていたわけではない。単に、久々に小学校の内部を見れることを期待していただけである。


 色々な遊具や内装が様変わりしていると予想していた。正門から体育館までのルートはうろ覚えだが記憶していたので、私はその100メートルも無いであろう短い道のりの中にどんな過去の記憶との「誤差」があるかを楽しみにしていたのだ。


 しかし、現実はある意味非情であった。拍子抜け、期待外れだった。知っていた構造物があらかた消え、私の六年間慣れ親しんでいた景色が完全に無くなってしまったから……ではない。その逆だ。私が知っていた風景と、全く代わり映えのである。


 日がとっくに暮れていたせいで、進路上にある比較的小さなオブジェクト(花壇や掲示板、銅像など)の細かいディティールが見えづらかった、というのもある。だが、少なくとも私の視力1.6の双眸で確認した限りでは、目につきやすい建造物(飼育小屋、校舎、人工ビオトープ)の形状は全くと言っていいほど、変質していなかった。記憶の中そのまんまの景色が広がっていたのである。


 少しがっかりしたが、寧ろこの方が良かったのだ、と自分に言い聞かせた。自分と縁もゆかりも無い建造物がぽつんと建ち、自身が慣れ親しんだ原風景(※オーバーな表現)が乱されているより、知っている建造物がなくなっていることの方が、遥かに精神的にクることに気付いたからである。


 消えた青組の件でもそうだったが、私は1が0になることに対してそれなりに打たれ弱いことを自覚している。胸を撫で下ろす、は流石に言い過ぎだが、ほんの少しだけ、歩きながら父と会話している私の口調の勢いが、和らいだのを感じた。


                ◆


 しばらく歩いて、体育館に入った。自分が思っていたよりも早く着いた。


 恐らく全国に存在するすべての体育館に当てはまるだろうが、正式な玄関から入るとそこには広大な競技場が……なんて所はまずない。玄関はそのままロビーと接続しており、ロビーはトイレや器具入れと繋がっている。ロビーから少し奥に進んで競技場に辿り着くのが標準的な造りだと思われる。


 私の小学校の体育館ももちろん例外ではなかった。ロビー(と言えるかどうかも怪しい狭い空間)をほんの数秒間歩いたあとに、競技場へとエントリー出来るのだ。


 私はここに来てようやく、違和感というやつを強く感じた。


 何と言うか、部屋全体の圧迫感が強かった。上を見るまでもなく直ぐに原因に気付いた。天井が低いのだ。それも、思っていたよりもかなり。無論、こう感じられのは私の身長がこの6、7年間で伸びたためだろう。現在の私の身長は177、8cmくらい。小学校六年生当時の私は150を少し超える位の身長だった(ような気がする)為、中高の間で25cm以上も伸びたことになる。それだけ伸びれば当然見える景色も変わってくるだろう。


 もし外がまだ明るい内に小学校の敷地内へ入れていたら、私はこの気付きを正門から入った時点ですぐに得ていたのかもしれないが……。その可能性は低いと思われる。屋外で自身の身長を意識することは稀だ。私含め、大抵の人は屋内の調度品やインテリアを認識するに従い、自身の体格を無意識の内に把握するのだろう。どうでもいい事ではあるが、それに気付いた時は勝手に一人で納得してしまった。


                ◆


 体育館に入る前の僅か数秒を長々と書いてしまった(汗)。


 体育館に入り、受付に持参した投票所入場整理券を手渡す。小選挙区用の投票用紙が配られるので、記入して投票する。次に比例代表用と国民審査用の投票用紙が配られるので、これも◯を書いて投票する。入ってからやる事は以上だ。


 小選挙区の候補者は事前に少し時間をかけて吟味済みであったのだが、あろうことか比例代表と国民審査の存在を用紙が配られるまで完全に忘れてしまっていた。比例代表の方は記入場所で一分くらい悩んでしまった。国民審査に関しては……一切手を付けずに用紙を投票箱にシューッッッ!!!(寒)恐らく、選挙上に訪れたほとんどの人が、私と同じようにしている事だろう。


 尚、ここでは私が誰を選んだのかは一切記述しないことにする。こういうデリカシーな話題は、ろくに昨今の政策や情勢を理解していない浪人生が詳細に書くべきではない。人生で初めて誰に投票したかは胸の奥に仕舞っておくことにしよう。……どうせ数年経ったら忘れているとは思うが笑。


                 

 ――帰り道、父と、この小学校を久々に訪れたことや選挙について話していると、話の流れでついうっかり自身が投票した人物のことを話してしまった。投票した政党について話すことがタブーだと思っていたわけではないが、何となく事細かに語るのを避けるべき話題だと感じていたので、口を衝いて出てしまった瞬間は「あっ」と思わず自分でも驚いてしまった。


 父は私が入れた投票者とは別の方に入れたという。理由を語ってくれたのだが、(やべっ、自分ぜんぜんよく考えてなかったな……)と自省する位には論理的に、色々と深い所まで考えていたようだった。


「まぁ最初はそんなんでええんや(意訳)」と父は言った。ついでに「将来どうしても面倒くさくなった時があったら行かんでも良いが、なるべく行った方が良い」とも言っていた。個人的にもこれからこういう機会(即ち選挙)があったらなるべく行こうと思っているが、まぁ、その時その時の事情によるだろう。無理して行かなくて良いときもあるに違いない。……こじつけみたいなもんだが。


 ただ、何らかの事情で選挙に行かない時がこれから来るにせよ、少なくとも政治に対しての関心はいついかなる時でも絶対に保っておきたいと、今の私は思う。なぜ政治に関心を持っていた方がいいのかといえば……そんな事は自明の理なのでここでは割愛する。ネット上や数多の界隈でこれまでに散々議論されてきたことだ。


 実を言うと、国内の政治そのものについてはあまり興味がない。地政学は好きなので各国の動向や世界レベルでの情勢の変化などは気苦労なしに把握できるのだが、国内の政治政党があーだこーだは煩雑としていて余り興味を持てないのである。今の私が保持している国政に関しての知識の8割方は、飯を食っている最中にいつも点けているニュース番組によって成り立っている。


 大多数の若者の選挙に行かない理由として、「選挙に関心がないから」が挙げられるという。言い換えれば、「政治に関心がないから」なのだろう。そういう人たちは何か勘違いしているように思える。政治は関心があるないに関わらず、賢く生きる為にはどうしても触れなくてはならないものなのである。勿論、何かの政治活動に積極的に参加する必要などはない。しかしながら、知識だけは毎回補充しなければならないものなのだ。丁度生きるために飯を喰らうように……過剰にのめり込むと、新興宗教や過激な学生運動に結びつくので注意が必要だが。

 

 ――かくして私は、人生初の選挙に一回行って様々な(下らない)気づきを得た。ここで行った思考そのものが、後々巡り巡って私の人生に微々たる好影響をもたらしてくれることを祈る。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



地方に行った友人3名に選挙行ったかどうか訊いてみたら、全員行ったとの回答が帰ってきました。みんなまじめだなぁ(遠い目)


ただ、住民票を実家から寮に置き忘れて選挙に行けなかったという事例が、身の回りで多発したそうです。(不在者投票制度という救済システムが備わっている大学もあるにはあるらしい)


大学生の投票率が少ないのはこういった面倒もあるからかもしれないですね〜


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る