試し書き


(二人の人物が部屋の中で会話している。一人は小柄な金髪の男性。大きなサイバーゴーグルを装着している。もう一方は顔面が黒い液晶ヘルメットで構成されたアンドロイドだ)



「えー、では最後に、歴史のおさらい問題を出しておこう。君の脳回路が正常に働いているかテストの意味合いもあるから、アタマをフル回転させて真面目に答えるように。返事は?」

「はい」

「まぁ全部出したら余りにも長くなっちゃうからね……掻い摘んで話していくとしよう。テーマは『世界の超常史』」


 隊長はわざとらしく咳払いをした。そして語り始めた。


「むかーし、むかし、大昔。今から2000年以上前のこと。現在の西アジアであとあと後世にデカい影響を与える、ある戦争が起きました。他の大戦には見られない特徴として、人類が殆ど関与していないことで知られるこの戦争の名称を……はいシータ君!」


 隊長はいきなり私を指さした。


「あー…『第三次逸脱世界大戦Deviated World War Ⅲ』…です。」

「正解!!」


 パチン、と隊長は指を鳴らす


「この戦争の結果、当時の周辺国家は『魔術』または 『奇跡』と呼ばれるものを極度に警戒するようになりました。何しろ、強力な術者たった一人の存在によって国家の存在自体が揺るぎかねないなどというフザけた事実が証明されてしまったからです。戦地からほど近かった国々……具体的にはローマ帝国とパルティア、それに属国のいくつかは永きに渡る政治的不和をさておき、ある一つの条約を結びました。この条約の意義、そして基本概念のことを?」

「『超常監視条約』」

「正解!物理則から逸脱した魔術や奇跡などの『超常現象』を監視し、場合によっては武力を用いてこれを抑え込もう、或いは利用しよう、という条約のことだね」


 隊長はバラエティ番組の司会進行役のような口調で続ける。過去二回の接見で得たデータ通りの展開だ。


「ある時は正常に履行され、またある時には完全に無視され……、この条約は何らかの形で後世に継承され続けていきました。その後、時代は飛びも飛び、今から400年くらい前、すなわち19世紀前夜。ヨーロッパで第八次逸脱大戦DWWⅧという比較的小規模な戦争が起きました。…あっ」


 隊長はくるりとこちらの方に向き直る。


「ここ、問題にした方が良かった?」

「いいえ」


 私は即答した。この調子で喋り続けていれば無意味なタイムロスを増やすことに繋がるのは明白だ。私が出発する予定の時刻から既に二分ほど遅れている。だがこの人の性格的に、隊長はそんな事など意に介していないだろう。


「ちょっと待ってね。すぐに次の問題だすから」


 隊長はその通りにした。


「この戦争の結果、ある組織が誕生しました。その名も?」

「『国際超常統制機構』」

「当たり!!」


 再び私は即答する。どうにも隊長のペースに巻き込まれてしまう。演算が狂う。


国際超常統制機構International Paranormality Control Organization…もとい、IPCOはその後100年以上に渡って世界を裏から支え続けました。今ある超常技術と銘打たれたものは全て20世紀初頭から21世紀の前半までに形作られたと言われています。その技術力たるや、当時の世界の最先端技術から30年以上先に行っていると評されるほどでした。」


 一息で言い終わると同時に、一転、隊長は低い調子になった。


「……しかし、この世界史史上類を見ないほど強大な組織も、ある出来事がキッカケで瓦解してしまいます。その出来事の名は?」

「『インシデント:ニッポン・ナイトメア』」


 私は三度即答した。


「またの名を……極東の悪夢。」

「うんうん」


 隊長は殊勝そうに頷く。


「極東の悪夢のち、世界は狂乱の六年と呼ばれる期間を経て、第三次世界大戦WWⅢおよび第十次逸脱大戦DWWⅩに突入してしまいました。IPCOの遺児である開発機構にはもはや戦争を止める程の力は無く、それどころか戦争を煽り、自身の隠し持っていた技術を国家に提供しては私腹を肥やすばかり。正常性の守り手であった頃の面影はどこにもありません。民衆もそれに乗じて戦争を囃し立てていいる有り様です。天罰が下ったのでしょう。戦争の最後の一日、太平洋に放たれたたった一発の核ミサイルが、各国防衛設備の過剰反応を引き起こし、さながらねずみ算のように核の応酬に次ぐ応酬を始めてしまいました。僅か数時間の内に核が数百数千と世界中にばら撒かれたらどうなるか……そんなことは火を見るより明らかでしょう。こうして、世界は完全に『沈黙』してしまったのです。」


 同時に隊長も沈黙した。がっくりと項垂れた。私の脳内で知識アーカイブと視覚データとの類似例が勝手に検索され、「糸の切れた人形劇のパペット」を提示する。両手だけ不自然に吊り上げているようだが、これは「演奏を終えた直後の指揮者」を意識しているのだろう。


 数秒、場を奇妙な沈黙が支配する。ここまで来るともはや私は呆れを通り越してその場の空気に従わざるを得なくなっていた。その「呆れ」というのもCPUが指定した感情のまがい物に過ぎないが。


 ……そして、四秒後。


「……が、しかし!!しかぁし、しかし!人類は死に絶えていたのか?否!そんなことはない!」


 おお、見よ!隊長はその両手を勇ましく振り上げた!その姿は正に稀代のマエストロの如く!人類が奏でる楽章はまだ終わっていない。本当の主題テーマはここからなのだと、天に向かって叫びを轟かせるように!


 ……大方、こんなドラマチックな寸劇が隊長の脳内では巻き起こっているのだろう。私は先程と同様冷めた眼差し(早くここを出る為だ)を隊長に送る。


「神よ照覧あれ!数多のSFに語られるような破滅的な核戦争が終結した後も、人類は全然滅んでなどいなかったのだ!ワールドワイドウェブWWWの破壊、パワーアップした異常気象、そして広範囲の核汚染……。それら全ての致命的な障害の間で、ざっと20数億の人類は苔に群がるクマムシのように生を繋ぎ、絶望と混沌の世界に必死で抗っていたのだ!!」


 隊長は俗に言う「ニカッ」とした笑みを浮かべ、こちらに勢い良く振り返った。


「どうだい、素晴らしいだろう。人類のゴキブリ並みの生命力、生への渇望というものは!」

「自業自得です。」


 最短解答で返しておく。


「そして戦争終結から二十年余り。世界中で産声を上げていた前近代文明の復興活動の一つが遂に実を結び!北アメリカの内陸部から世界へ飛び出した!」


 隊長は両手を頭上へ大きく放った。ふと、本来の語りの意義を思い出したのか、私に質問した。


「さぁ、この勢力の名を後世では何と言」

「『灰色の勢力グレイ・オーダー』」


 四度目の即答。事前のパターン予測が役に立った。


「今の世界政府ですね」

「う〜ん、正解!!」


 今の隊長の行動を分析するに、全身を揺れ動かして「喜び」を表現したのは間違いない。人間の性質はあらかた把握済みだ。何ら関わりないはずの他者の成功や失敗に対してでさえ、共感能力により自身の感情が揺れ動く。加えて隊長は全ての情動反応を大げさに行うクセがある。


 しかし。


 少なくとも今の私の思考能力では、所謂「心の底」からその情動反応を理解することができない。一応、私の疑似脳は史上最も進んだ技術レベルで制作されてはいる。一般的な成人男性を上回るパターン認識能力、再現された厖大な戦前のWWWデータアーカイブによる分析能力に、高度な事象予測能力。そして、私を「私」たらしめる疑似大脳辺縁系領域。ここにCPUが弾き出した擬似的な感情が複雑性を有した状態で蓄積され、ゆくゆくは人間並みの人格と感情を得る……というのが今回の実験の筋書きらしい。


((私はねぇ、シータ。冷酷な殺戮マシーンを作りたいわけでも、介助ロボットを作りたいわけでもないんだ。真人間を創りたいんだよ))


 私の生みの親の言葉が記憶領域に木霊する。


 故に、今私が思い浮かべている感情は、あたかも「自身の思考」として収まるよう上乗せされている紛い物に過ぎない。私が浮かべる一つ一つの思惟になんの意味もない。観察した事象に対しての結果は勝手に湧き出てくるが、それらは全て「感情」と呼べる代物ではないのだ。今の感覚としては、液晶画面に出力される文字列を遠い所から眺めている状態に等しい。


 ……尚、今の刹那的感情に見られるように、私の疑似感情は全体的にニヒルな方面に寄るよう調整されている。事前にインプットされた思考パターンの賜物の一つだ。これから行われる実験において自らの改善を促すためである。



「世界政府は戦後の二十年で創り出した技術をもとに世界中を平定し、今ある素晴らしい暗黒無機質社会を創り上げましたとさ。めでたしめでたし!」


 言い終えた隊長は満足そうだ。自らに課した訓練を乗り越え、達成感という自己報酬を得たからだろう。


「……という訳で、記憶力テストは終わりだ、シータ君。全問正解だ!おめでとう!」

「五問しかありませんでしたけどね」

「簡単な皮肉も作れるようになったのか!うーむ実に素晴らしい!!」


 隊長は軽快な足取りでこの部屋の扉を開け放った。「調整室」とプリントされた扉の表面が視界に入るのと同時に、口元の緩んだ彼の笑みが、私を射通す。鼻から額にかけてサイバーゴーグルで覆われており、口元からしか彼の表情は伺えない。表情筋モデルによれば彼は満面の笑みを浮かべている筈だが、予測は予測だ。その黒いゴーグルの向こうで、どんな目元を形作っているかは分からない。


 ――そんなアノニマス認証不能な笑顔に対して、私は……こう思った。


 フィルターを通じて、彼も私も無限に拡がる世界を見通している。私は分析能力を高めるために。そして、彼は大昔に負った怪我のために。


 そのような様々な情報が表示される視界を通じて、隊長はその古希に等しい人生のなか、一体どんなモノをその目に映してきたのだろう、と。

 そして、この世界の何を見て、何を知り、何をその度に思い浮かべてきたのだろう、と。


 コンマ3秒後、隊長はすぐさま追従した私に道を譲り、目一杯叫んだ。さながらSFテーマパークのアナウンス音声から垂れ流される、安っぽい煽り文句のように。


「さぁ、それでは行こう!絶望と希望、秩序と混沌、そして『灰色』と『青色』あふれる、驚異の2150年h」


 私は足早に部屋を出た。


 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 今回は今まで書き溜めていた、いずれ自身が書きたいと思っている作品の一節を載せてみました。いずれ投稿できるといいですね(他人事)


文章の一節の抜き出しゆえ、専門用語の濫用と設定の詰め込みでアホみたいにカロリーの高い文章になってます。投稿する時はもう少し絞ります。申し訳ない…


 自動学習機能、それも基礎原理から何まで現代のAIとは異なるオーバーテクな学習能力を備えたアンドロイドが、「実験」のため遠未来の世界を巡る……という体の物語を想定しています。あと変身します。


 世界観はSCPやニンジャスレイヤーから拝借。参考にしているストーリーの展開は一切ない上、被っている固有名称も存在しないので全くの別物になるとは思いますが………


 懸念点は山ほどありますが、まぁ今心配しても仕方ありません。取り敢えず今は勉強に集中!!!!!!!!!!!!うおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!

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宅浪時々日記 Zenak @zenaku

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