僕たちの性格に合っていて最高だー!ってね
まだ僕とレベットはガルガ岳山頂に向けて、草をかき分けていた。
山の勾配的にはそろそろ山頂かなとは思うのだが、それでも山頂らしき何かも見えていないとなると、僕たちが少しづつそれて進んだが、本当に転移先が悪かったか。
「ちょっとストップ」
僕は草分けの用の防御魔法を解いて、レベットに止まるように呼び掛ける。僕は目の前の異変を調べるためにしゃがんで潰された草を見る。
「どうした?」
とレベットは回り込むように草をかき分けて、僕の隣にやってきた。そして彼も僕と同じようにその異変に気が付いた。
僕らの目の前には、既に何者かに踏みしめられた雑草があった。先を見ると、広場をつくるかのように木々の間の雑草が粗雑に踏まれ、潰されていた。
「うーん、何度も踏まれているから識別しずらいけど、魔物――多分ゴブリンだと思う」
「そうか、それじゃあこの雑草が踏まれている広場は……」
「うん、十中八九、罠だね」
この山の森は、木々が青く茂っている。枝の上に乗って隠れるには最適だ。多分、周りの木とまだ踏み荒らされていない草の陰に何体かのゴブリンが潜んでいると思われる。
本当にゴブリンがバカで助かる。村の周りのゴブリンの方が、もっと上質な罠を仕掛けてくる。多分、僕らがこんな遠くに倒しに行かないせいで学習ができていないのだ。
「ゴブリンは僕の領分でいいでしょ。罠にわざと引っかかってあぶりだす」
「まあいいが、俺に襲い掛かってきたら俺が潰す」
「どうぞご自由に」
これを適材適所というのだろうが、レベットにとってまさにこのことが僕に甘えるという事なのだろう。
「じゃあ行くよ」
僕はあくまで獲物。
ここの頭の悪いゴブリンには見分けられるわけも無いだろうが、一応僕は何も気がつがずに、ただ罠に引っかかるバカな人間。わざとらしく足音を出しながら、楽に進めると嬉々として踏まれた雑草地帯に飛び込む通行人。
そして僕は丁度、この広場の中央へ差し掛かると、後ろの木々の葉からササっと揺れ動き、逸ったゴブリンが草の中から足音を鳴らす。
僕は口をすぼめて息を吐きだす。
どんなに相手が間抜けだろうが、命がかかっている以上、緊張感を持つ。軽口を多く叩く僕でも、八歳から徹底していることだ。これのおかげで僕はいつも通り戦える。
「――来た」
後ろの二方向からパシッと豪快な音。弓矢。五方向から草をかき分け、石のハンマーを持つゴブリン。一拍遅れて、前の木々の四方向から矢が飛んでくる。
まあこの集団的戦術はなかなか。どんなに強くても複数体と戦う時は、うまい事一対一を繰り返したくなるもの。それをさせない意志は感じ取れる。全員で一斉に責める。何かを躱されても、何かは当てるという戦術。誰かを犠牲にしても、相手を仕留める。
しかし力なき者が集団で攻撃をしてきても、力ある者の前ではすべてが塵と化す。
「転移」
指を鳴らして、まずはこの踏まれた草の広場内で、現在地を変える。
ゴブリンは、僕がいた一点とそれを囲う小さな円を目掛けて攻撃して来ている。具体的に言えば、初撃の矢を躱されても攻撃できる範囲を狙って動いているのだ。
その範囲からいなくなってしまえば、ゴブリンの小さな脳みそで考えた罠と作戦が水の泡と消える。
そしてその作戦のデメリット二つ目。この作戦は、全員で一斉にかかるのが長所でもあり、短所でもある。結局、敵はゴブリン全員の位置が特定できてしまうのだ。
僕は魔物と戦う時、しみじみと自分が魔法使いで良かったな~と思う。それはレベットの戦い方を見ているのもそうだが、戦士はここまでの情報からどう戦うかを道筋を立てなくてはいけない。しかし魔法使いは――僕は、この情報だけで後は考え無しに魔法を撃っていれば勝てるから。
「毒」
そして僕は地面にいる五体のゴブリンと、木に隠れている六体のゴブリンに向けて、一体一体に指を鳴らす。ハンマーを持ち直す時間も、弓を構える時間も与えない。僕が魔法を放ってしまえば、それだけで彼らは自分の死を悟る。
広場にいた五体のゴブリンは自分の首を抱えながら倒れ込み、木の上にいたゴブリンたちは木の実のように地面に落ちた。何秒か苦しんだ後に、全員力が抜けて死に至る。
今のは総じて言うと弱体魔法。この魔法にかかれば、体の中から毒が湧き、体中を巡って生命を蝕む。この他にも、相手の身体を縛り付ける「麻痺」や相手の体の力を抜き取る「衰弱」がある。どちらも基本的には殺すことは無いが、相手が弱すぎたり、僕が調整を間違えたりすると、死んじゃうこともある。
「終わったよー」
僕がしゃがんで考察していた場所で立ってみていたレベットへ呼びかけた。すると彼は手を頭の位置まで上げて、お疲れ様とポーズをした。僕らはなかなかハイタッチはしない。
「ララがやると、すぐ片付くな」
「まあそういう魔法だからね。戦士よりは短絡的に戦えるんだ。ああ、別に自虐じゃない。ただ面倒臭がりの僕にはぴったりというだけさ」
「そうだな。俺にはお前のように魔法を使いこなせる気がせん」
「だろうね。レベットの武器はある意味で一つ。やることは変わらない」
僕には魔物を潰すことのできる体格も筋力もない。それを目指して努力する気概もない。彼の武器は鍛え上げた自分の身体のみ。その状況ごとに、どの魔物から倒すかなど、考えなくてはいけないが、自分の戦闘スタイルを貫く彼にとっては、やることは大して変わらない。
「バカにしていないか?」
「そんなわけない。僕は気まぐれに魔法を使い分けて、君は戦闘スタイルを貫き通して戦う。僕たちの性格に合っていて、最高だ―!ってね」
「でもたまに俺はお前の魔法が羨ましい」
おっとこれもまた珍しい。レベットがそんなことを言うなんて。草分けの時に話したことが聞いているのか?それともただ単に、村を離れるからセンチメンタルになっているだけか。
「大丈夫さ、僕も君の爽快な一撃を見て、いいな~と思ったこともある。お互い様だよ」
「そうか、お互い様か。ならいいのか」
そう言いながらもレベットはさらに考え込んだ。
僕からしたら簡単なことも、レベットからしたら難しい。僕がレベットのように筋肉をつける努力ができないようなものだ。それでもレベットは必要かもしれないと、魔法を学ぼうとしている。僕にはできないことだ。だからレベットが答えに至るまで、待とうではないか。
「ねえ、一回休憩しない?」
「しないぞ。休憩はヌシを倒してからだ」
「そんなのってないよ」
レベットは考えながらも、いつもの調子で進んでいく。何も言わずに草を分けて歩き始めていた。
まあ、これも優しさなのかなと、彼の気遣いをありがたく受け取った。
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