秘密の恋

 秘密の恋。この言葉に惹かれたのは、確か高校生の頃だった。もし先生と恋に堕ちて、それが親にバレたら…、なんて妄想ばかりしていた。


 バイトをずる休みし、花屋の近くにある広場であの人が来るのを待った。でも、いつになってもあの人は来なかった。諦めて帰ろうとしていたとき、とあるビルから出てきたあの人の姿をこの目が確かに捉えた。


「噓でしょ」


私があの人をみた瞬間に出た声。それは驚きと嘆きが混じったものだった。なぜなら、あの人が出てきたのは父が経営する会社が入るビルだったから。何かの間違いだと思いたかった。でもこれは見間違いなんかじゃない。あのビルは父が経営する会社丸ごとが入っているのだから。私は許されない人に恋心を抱いてしまったみたいだ。


 ツユクサがデザインされたイヤリングが、青風によって小刻みに揺れていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る