恋の訪れ

 私、青田蘭が恋の訪れを感じたのは、二年前の六月だった。今思えば、あれが最初で最後の恋だったな。


当時花屋でバイトをしていた私はお店の常連客である一人の男性の存在が気になりだした。常連客といっても、年齢や名前、職業など個人に関する情報は一切知らない。


 そんなある日、転機が訪れた。


 店長が留守にしているとき、あの人がお店にやって来た。白シャツに青色のネクタイを締めて。男性は店先に並んだ花たちをゆっくりと眺めていく。まるで花と会話しているかのように。そして、その人はある花の前で足を止めた。その花は、昨日入荷したばかりのアガパンサス。男性は指を差して、私にこう伝えてきた。


「お姉ちゃん、この子たちが水換えて欲しいって言ってるよ」


と。


 花と会話できるあの人のことを、私は追いかけることにした。

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