『法照寺怪談会』 法照寺の咒 天


皆様、本日は遠い所またお忙しいところ

当寺の『怪談会』にお集まり下さって

本当に有難う御座います。正式には

『宗教法人 真言宗豊嶺山法照寺』と

申します当寺の住職、この麻川了然が

今回  としてトリの語りを

務めさせて頂きます。

 勿論、後で読経も致しますので、

皆様どうぞ安心してお楽しみ下さい。


さて、当寺ですが。建立されたのは

西暦五四八年、仏教の伝来から遅れる

こと十年ほど。ここ【櫻岾】一帯の

地政者、護摩御堂家により建立され

寄進された最大の理由は、彼らの先祖が

海の向こうから追って来た『魔物』を

封印管理する為。皆様の通り

この【櫻岾】は護摩御堂家の咒による

として、戦後の交通インフラを

基に再開発されたもので御座います。

但し、それも我々が勝手にそう思って

安心しているだけで、実際のところは

よく分かっておりません。


さて、皆様にお伺いいたしますが、

もし心霊現象に悩まされたとしたら

一体、何処を頼りにされますかな?

お寺でしょうか。それとも神社ですか。

教会というのもあるかも知れない。


これからお話しするのは、私がまだ

佛教大学の学僧だった頃の話です。

当時、この寺は私の父、麻川隆元が

住職をしておりました。





私はその日、大学の友人から相談が

あるからと、学校近くの喫茶店へと

呼び出されたのです。


彼の名を、仮にAとしましょうか。


Aは私同様、寺の惣領息子でした。

彼の実家は関東圏にはありましたが

家から通うには遠い為、大学の側に

アパートを借りておった訳です。

ですがこの日は態々、大学近くの

喫茶店を指定して来ました。



「麻川、こっちだ。」私が喫茶店に

入るやAが、座席の合間から身を

乗り出しました。「どうしたんだよ?

こんな所に態々呼び出してさ。」

アパート住まいのAの自宅は仲間内の

溜まり場になっていました。

「いや…うちじゃ駄目なんだよ。」

心なしか、Aの顔はやつれていました。

「何があった?」私は単刀直入に彼に

尋ねました。何も無いという事は

ないでしょうから。


「…アレが、来るから。」


彼はそう一言いうと、店内をまるで

警戒する様に、そっと見回しました。

「アレ、って何なんだよ?」「…。」

何とも歯切れの悪い感じでした。

「包み隠さず話してくれないと対処の

しようも無いじゃないか。」


私はどうにか彼の気持ちを落ち着かせ

話を聞く事になったのですが、これが

また、何とも呆れる話だったのです。


「この前の連休に、中学時代の友達と◻️◻️◻️◻️に行ったんだよ。」彼は

そう言うと、今にも泣き出しそうな

顔で話し始めました。

 ◻️◻️◻️◻️というのは、彼の地元の

所謂、心霊スポットの呼称でした。

詳細について敢えては申しませんが

が続く様な、とても

不穏な場所です。にも関わらず、興味

半分で訪れる者が後を絶たないのです。


「…噂は本当だったんだな。一緒に

行った三人のうち一人が死んだ。全く

何の兆候もなかったのに突然死だ。」

「…え。」「俺たち、◻️◻️◻️◻️で

るんだよ。それも

人なんか通らないだろう、山道で。」

「…。」私は何と返したら良いのか

分かりませんでした。


「俺の所は禅寺だから、そもそも

心霊スポットだなんて全く信じて

なかった。」彼は言って項垂うなだれます。

「信じてないのなら、幽霊なんか

いない筈だろう?」


宗教というのは 信心 が

あって、初めて成立するものです。

曹洞宗である彼の実家の教義に則って

心霊など信じていない、と言い切る

彼が恐れる モノ とは。


止せばいいのに私はを持って

しまったのですな。


「…Aの所に来る、っていうのは、

その亡くなった友達なのかな?」

「いや、死んだBじゃない。もっと

ずっと悍ましい…アレはもう一人の

同級生、Cだ。Bが突然

死んだ後、Cの行方がわからなく

なった。でも…実はC、もう何年も

前に死んでいたらしい。」

「はッ?」一瞬、何を言っているのか

よくわかりませんでした。

「多分◻️◻️◻️◻️に呼ばれたんだ。

先ずはBが。次は俺の番だ!なあ麻川

助けてくれ。お前の実家って、相当

歴史のある古刹こさつだっただろ?」



詰まる所、A達三人は◻️◻️◻️◻️の

心霊スポットに行った。けれども

同行したBはその後に突然死し、Cに

至っては、もう既に亡くなっていたと

いうのです。

 しかも、常識では決してあり得ない

真夜中の葬列に現地で行き遭ったと。


Aは酷く怯えていました。


私の実家とて、真言宗は豊山派の

密教寺です。 となえる 事は

致しますが 魔物を祓う など。

 仮に、に対してその魔物が

何某かの感化を受けて、大人しく退いて

くれるのなら効果はある、と言える

かも知れませんが…。


「麻川、頼む!お前の実家『法照寺』に

連れて行ってくれないか。アパートには

戻りたくない。又あの悍ましいモノが

俺を訪ねて来るかと思うと!」「…。」



友人の頼みを無碍むげにするのもはばかられ

私はAをこの『法照寺』へと連れて

来たのです。






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櫻岾奇談 小野塚  @tmum28

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