本作は物語そのものが面白いです。
ただ、楽しみの過半を占めるのは、語り口です。
同じ筋書きでも人によって語りの巧拙があります。作家を名乗るならば語りの巧さを求められます。
本作は正に語りの巧さによってカクヨムの作品群の中で屹立しています。美しい。そして妖しい。「怪しい」より「妖しい」です。読み進めるうちに心が引き込まれていきます。
そう、とある……。失敬、口が過ぎました。
安心してください。本作は語り口の巧さに心を囚われても現実世界に帰れる「小説」です。一時の夢を好きなだけ味わえます。空想世界にて戯れるのは一興です。