―― 豊臣秀頼は本当は誰の子なのか?
戦国ファンの方も、そうでない方も、当時の面々を思い浮かべながら、そのミステリーに思いを巡らせた事があるのではないでしょうか。
この物語は、豊臣家にまつわる子どもたちの人生に触れながら、秀頼誕生そして豊臣家滅亡の真相に迫ります。
とにかく、人物たちの描き出し方が実に見事で、豊臣秀頼、茶々をはじめとした登場人物達の、これまでの人物像にとらわれない構成に唸らされること間違いなしです。
私は、それぞれの嫉妬、劣等感、プレッシャー、愛情が狂気に変貌するさまを、そして、彼らの見込みがはずれたりはずれなかったりで狂っていく運命を、ハラハラドキドキしながら読み進めました。
読んで頂きたい要素がたっぷり詰まった歴史ミステリーです。
登場人物たちの想いを感じながら、豊臣の子らの行く末までを、是非ご覧ください。
親から子に引き継がれる呪いってあると思いませんか? 例えば、虐待された子供は自分の子供も虐待するなんて言いますよね。あるいは一部の精神疾患は遺伝する可能性も示唆されています。親が狂ったから子も狂うのでは? これも血の、運命の呪いですね。
本作『豊臣の子』は、そんな親から子に受け継がれる呪いを物語った、歴史小説の傑作です。タイトルの通り、豊臣秀吉の子、一族の物語。
ある乳母の死をきっかけに、豊臣家の当主が発狂し……?
物語は最初、豊臣家の当主秀頼が発狂した理由を探るミステリーとして始まります。やがて中盤、この謎に決着がつくと、今度は新たな問題が発生、そして物語は大阪の陣へと移っていきます。
みんな狂っている。まさにその通り。作中のキャラクターは全員何かしらのことに執着し、皆精神を、魂を失っていきます。そうした先、まるで散りゆく花のように解けていった命の先、その血の呪い、その運命の呪いが……
おっと、熱くなりましたね。ネタバレにならないよう、ここまで。
結末はぜひ、読んで確かめてみてください。
一族の呪い、ある意味で究極の親ガチャ物語(なんて言うと格が落ちるか)。
自身に紡がれた運命に何かしらの不満、遣る瀬なさ、諦め、苦悩がある方はぜひ、読んでみてください!
ことの始まりは、乳母の死――豊臣秀勝と江の子・完子が、公家の名門・九条家の忠栄に嫁ぐ前夜に起きた、完子の乳母の突然死でした。
死体の第一発見者であり、完子の義理の兄である少年・豊臣秀頼は、そのとき遺体のそばで、完子の愛猫を目撃しています。
乳母の死の謎が解明されないまま、十年の月日がたち、完子の愛猫も死んだとき。秀頼は「人を斬りたい」という願望を口にするようになります。
完子の夫・忠栄は、秀頼の振る舞いが徳川家との関係に与える影響を憂慮し、「秀頼の乱行は、十年前の怪死事件が関わっている」と睨み、完子と共に謎の解明へ乗り出します。
しかし、一見シンプルな一人の女の死の陰には、眩暈がするほど大勢の思惑が潜んでいて……不穏な気配を色濃く纏う物語は、史実で知られる大阪冬の陣・夏の陣へと、淡々と無慈悲に舵を切り、豊臣家を破滅へと導いていきます。
一つの謎の向こう側に、多くの謎という「情念」が息づいていて、真に迫る描き方に、たびたび圧倒されました。語彙も非常に豊富で、乱世を生きる者たちの心の機微を、丁寧に描かれています。衝撃的な序章の意味を理解したときは、あまりの罪深さに鳥肌が立ちました。キャッチコピーも、これ以上ないほどにぴったりです。
紙の本で読みたいと思うような、非常に読み応えのある物語でした。ヒューマンドラマがお好きな方、重厚な物語に浸りたい方、ぜひお読みください。おすすめです!