第2話唐突なプレゼント Ⅰ

 様々な車が行き交う横をゆっくりと進む私――太刀上たちうえ 瑠璃るりと、その幼馴染の加世かぜ 日向ひなた


 今日、無事高校初の終業式を終えた私達は揃って帰路に着いている。家は隣同士だから、一緒に帰るのは昔から当たり前だった。

 今ここには居ないけれど、私の妹と合わせて3姉妹のように育てられた。


「――でさ、明日からあのゲームがサービス開始するんだ」


 後ろからの声に耳を傾ける。

 昔から3度の飯よりゲームなゲーム大好きっ子日向は明日から新しいゲームを始めるらしい。

 前から言ってたな。ええっと、確か名前は……、


「Wisdom Joker Online……だっけ?」


 確か今話題のVRのゲームだったっけな。

 よくある剣と魔法のMMORPGだったはず。CMでやってた。なんとも日向が好きそうなジャンルである。日向の家には100本をゆうに超えるゲームがあったはずだけど、まだ増えるのね。

私も付き合って一緒にゲームしてるせいで、加世家のゲームの半分以上は経験がある。


「そうそう。それのβテストに受かってさ、それがまた凄いのなんのってっ」


 何とか名前を思い出した私に対して、日向は嬉々として話を進める。

 どうして、勉強の単語とかは覚えてられるのに日常会話はすぐにでてこないんだろ……。

 割と贅沢な悩みに首を捻っていると、唐突に日向は私のから物を手渡してきた。


「これは……、ソフト? 日向がさっきから言ってる奴のだよね」


 私の手には件の『Wisdom Joker Online』のパッケージが1つ。


「どうしたの、これ?」


 何故手元にあるのか。いや、日向が明日から始めるって話だから持っているのは分かるんだけど、何故私に?


「βテストの大会の賞品で2本貰ったのさ。……てな訳で、ゲームそれ、やろ? 一緒に」


 私の後ろから回り込むようにして目線を合わせる。

 ……強請るような、そんな感じの表情で。


 正直日向は狙ってやってるから思う所がなくは無いけど、私はそれを拒めない。昔からただの一度も出来た試しが無い。

 でも、今回に限ってはそうはならない……はず。


「日向って配信者・・・じゃん。私とそれやるとしても、配信はどうするの? そもそも、私ゲームハードなんか無いよ?」


 そう、日向はゲーム配信者、それも割と人気の。その配信に全くの一般人が出てはならないだろう。

 そして、私はVRマシンなど持ち合わせていない。あれ大きいし、高いし。

 妹は持ってるけど。


「兎も角、色々無理だからっ!」


 そう突っぱねる。現実的に問題が多すぎて、出来ないし。


マシンのこと・・・・・・なら大丈夫・・・・・だから、ね? ……それに、」


 ふざけたような雰囲気から一転、日向の表情が途端に重く真剣味を帯びた、ように思う。


「――瑠璃もこの世界の中じゃ、また走れるんだよ・・・・・・


 その瞬間、私達2人の間の時間は止まった。目線は自然とに座る自分の脚へと向く。

 そっか、そうだよね。最早動かせない・・・・・・・この脚でまた地を踏みしめることが出来る。

 何で今まで気が付かなかったんだろう?

 ……いや、気が付かないようにしていたの、かな?


 二年前、交通事故に巻き込まれた時に、腿の辺りで両足とも神経が駄目になり、もう二度と動かせなくなった。ついでに目を醒ますと直近1ヶ月の記憶が丸々無いんだから、当時は本当に身も心もボロボロも良いところだった。その時に支えてくれた家族や加世家の面々には本当に感謝しか無い。


 でも、心の痛みは緩和されても、脚が治るわけでは無い。今まで当たり前だったことがそうでは無くなり、私はアイデンティティとでも言うべきものをも同時に失った。


「――ねえ、日向」

「うん? 何? ……やっぱり、嫌?」


 悲しげに眉を下げる日向。でも、それは杞憂・・だよ。


「そのゲーム、楽しい?」


 もう私の答えは殆ど決まっているようなものなんだからさ。


「っ! 当たり前だろ、じゃなきゃ誘わんっ!」

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