第3話唐突なプレゼント Ⅱ
「――ほい、到着っと」
いつも私たちが一緒に行動する時には、日向が車椅子を押してくれる。
私的には非常に申し訳ないんだけど、本人曰く、進む速度が違うと話しづらいとのこと。
今私達は太刀上家――即ち私の家の前にいる。とは言え、加世家はその右隣なんだけどね。
太刀上家の敷地には家は勿論小ぶりの道場まである。
その道場から木刀が打ち合わせられる音が響いている。
道場の銘は、「太刀上流剣術道場」。
何を隠そう太刀上家は戦国の頃発祥の古流剣術を継ぐ家なのだ。
因みに件の太刀上流は宗家が途絶えかけている。
今の師範は、なんと私の母――太刀上
元々お互いに知っていたけど、偶々街中のアクセサリーショップであったことが馴れ初めなんだとか。子供の名付けも宝石から。選出理由は石言葉からだって。
それはそれとして、子供は私と妹の二人。その子どもたちに問題があるのだ。
まず私は、件の事故のせいで脚が動かせない。よって、剣術は扱えない。事故までは続けていたんだけどね。大分強い方だったんだけどね。
妹――琥珀は体は全く問題ないんだけど、如何せん太刀上流で主に扱っている打刀の才能が壊滅している。この子は何故か重量武器の方が扱えるのだ。太刀みたいな。小柄なのにね。本当に何で?
そんな感じなので、次代への継承が難しい。
まあ、琥珀は同い年の門下生といい感じだから、なんとかなるでしょう。
私? 聞かないで。
道場の横を通り過ぎ、二階建てで割と大きい家に入る。私が車椅子を手放せなくなってから、私の入院中に両親が玄関にスロープをつけてくれたのだ。感謝はしてるけど、なんか本当に申し訳ない。
そして、
入るんだけど……、
「なにこれ……」
なんか部屋に大荷物がある。なんか電子レンジみたいなサイズ感。
何か頼んだっけ? ……いや、そんな記憶はない。
「おお、届いてたんだねえ。正体は
その日向の言葉に従う形で道場まで逆戻り。そのまま道場の中へ。
道場にいるのは殆どがお年を召した方々。多くが昔から続けている人達。流石に筋力とかは若者に負けるけど、その技巧の剣はとんでもない。技の完成度は全盛期の私の3倍を超える。
こう見ると、ここすごい空間だな。
「おお、瑠璃嬢と日向ちゃんじゃねか。なんだ師範に用か?」
私が生まれる前からの人が多いせいで、私と琥珀は最早皆の孫のような扱い。基本的に甘やかしてくれる。打ち合いのときは一刀一刀に殺気が籠もってたけどね。
「嬢は止めてって。まあ、お母さんに用事があるのはそうなんだけどさ」
なんか納得いかないのだ。ずっと言い続けても一度として直してくれた試しが無いけど。
「あら、おかえりなさい。それで、何かしら? 後、道場では師範と呼ぶように」
「うん、ただいま。
お母さんがなにか言いたげに口元を動かしているけど、瑠璃嬢呼びを止めさせてって、何回言っても伝えもしてくれない人は好きに呼びます。
「ああ、それは瑠璃への誕生日プレゼントよ」
「私の誕生日、9月だけど」
「それはそうね。でも、誕生日プレゼントなんて当日に渡す方が珍しいじゃない」
そんな事も無げに言わないで。今7月だよ? 思わずジト目になってしまう。
「兎に角プレゼントなのは本当。誕生日には一切関係ないけどね。扱いに関しては、日向ちゃんに聞きなさい。……琥珀でも良いけど、あの子まだ帰ってきてないし」
なる、ほど? 前後を交互に見ると、お母さんと日向が目で会話しているような……。
いや本当になんなの?
_______________
「これが……」
「そう、VR用の機械。これがあれば、ゲームが出来るんよ。あと、データ読み込ませれば宿題とかも出来るよ?」
件のプレゼントはVR用のゲーム機。それも割と性能良いやつ。
二人の視線の意味が分かったね。
にしても、これいくらするんだろ……?
「ああ、そうそう。瑠璃、配信やる?」
思い出したように日向が言っているけど、そんなノリ軽くていいの?
と言うか、
「配信ってそんな簡単に出来るものだっけ?」
「割と簡単に。それもやろうと思えばすぐに」
ふうん。
「ねえ、日向」
「何?」
「日向とやるとなると、配信者のほうが都合がいい、の?」
暫く返答は無かった。私も私でちょっと恥ずかしくて日向の方見れてないけど。
今までフリーズしていたらしい日向が急に動き出した。そして、私の頭を抱きかかえる。
「――うむっ?! ちょ、何?」
「いやあ、嬉しいねえ。可愛いねえ」
だらし無く頬を緩ませる日向。取り敢えず離して。
じゃないとその胸元の窒息装置、もぐぞ?
数分間の格闘の末、私は漸く自由を得る。はあ、息しやすい。
「んじゃ、まあ瑠璃の初配信で
「うん……」
その後、日向は配信上の注意やその他ゲームシステムの説明をした後、夕飯を食べて帰った。
隣だから、五秒と掛からないけど。
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