第8話悶死を賭けて

「ラピス、一時間ぶりぃ」


 開始から一時間が経ち、再度サニーと集まる。さきに到着していたようで、コメ返しをしていたらしい。

 さて、次はお互いの一時間での成果発表の時間だ。


「早速成果発表といこうか。とりま、私のレベルは6になった。ラピスは?」

「私は7。流石に機動力の差が出たね」


 私のスタイルは防御を捨てた高機動物理型、反対にサニーのスタイルは純魔、物理も防御も捨て去った完全後衛型。取り敢えず、HPのアドバンテージは確定したと見ていいだろう。


 最大MPの値はレベル×10+INT×2+スキルの補正。

 あのままサニーがINT極振りでいた場合、

 INT値は16。

 スキルを考慮しなければ、最大MPは96。


 あとはスキル何だけど、サニーのスキル『知力強化』は私の『敏捷強化』と同様にスキルレベルの数だけINTに補正が入る。

 更に新しいスキル・・・・・・でMPが増えている可能性を考えて、サニーの最大MPは110位とする。

 確か一番最初から使える魔法の消費MPは3。およそ40連発出来ると考えるべきか。


 お互いにキャラクターレベルが5を超えて、扱えるスキル数が増えた。

 それが決め手・・・となるのだろう。


「さあ、やろうか。成果発表という名のPVPをっ」

「いやサニー、説明が先。ええっとね、成果発表と称して今から私とサニーの二人で戦います。その勝ち負けで成果発表の勝敗が決まります」


『なる程?』

『え、今から?』


 コメ欄からは困惑したような空気を感じる。


「説明忘れてたのはごめんなさい。うん、まあ、あれだよ。これが私達クオリティーってことで一つ……」


 配信用の設備にペコペコと頭を下げていると、システムメッセージがきた。


『プレイヤー・サニーから

     決闘が申し込まれました。 

 ルール:半損決着 

  受諾しますか?       Yes/No』


 まったくもう、人が説明してる時に……。

 迷わずYesを選択する。

 サニーと私を中心にPVP用のスペースが広がり、10カウントが始まった。


「取り敢えず謝罪はまた後でっ! 楽しんでください!」

「ボコられるラピスの姿に乞うご期待」


 おいこら。



 ――3   抜刀せずに、腰を落とす。サニーは右手に緩く持った杖を掲げる。


 ――2   お互い敵の姿を視界に収め、ほんの少しの動作すら見逃すまいと眼を凝らす。


 ――1   私は脚に、サニーは口元に力を込める。お互い最速で動くため。


 ――0   悶死を賭けた何とも醜い戦いが始まった。




 ――歩法 嚆矢

 ゼロから一瞬でトップスピードまで跳ね上げる。


「『ファイアボール』」


 サニーが牽制のために放った火球――『火魔法』の最初の魔法は私の胸元を狙っている。


 ――歩法 迅雷

 体を限界まで倒すことで回避と同時に更に加速する。互いの距離約10mを一気に駆け抜ける。


「『ファイアボール』!」


 今度は下がりながらの足元を狙った攻撃。まずは私の動きを止めるつもりなのだろう。ただ――


 ――歩法 虚空

 私にはそれは効かない。躱した瞬間に再度加速する。流石に虚空から迅雷に繋げることは出来ない。でも、あと3mも無い。なら十分。


「ああもうっ、『ファイアアロー』!」


 次にサニーが使ったのは新たな魔法。即時もう一度。

 火の矢が連続して放たれる。火球よりも疾く空を翔る。

 時間差のある二回の攻撃は、虚空では避けられない。ただ、サニーが下がり続けている以上、引くことはしたくない。ならば――


 ――歩法 閃刃

 刀を抜刀し、振るうことで、刀の重量を利用して、横方向への移動をする技。そうして、避けた先で待ち受けるのは火矢の乱射。


 ――歩法 迅雷

 最速で走り抜けて、接近する。


「『ファイアボール』ッ」


 至近距離で放たれる火球。これも虚空では回避不可能。だから、


 ――太刀上流・撃法・・ 金剛

 回転運動からの肘打ちを放つ。私の4つ目のスキルは『格闘』。素手での攻撃に補正を入れるスキル。

 だが、不発に終わる。

 更に詰め寄ろうとした瞬間、サニーの声が響いた。


「『ウィンド・・・・ボール』!」

 それは、火球や火矢よりも速く彼我の距離を駆け抜けた。

 金剛の影響で満足な回避は不可能。何とか限界まで体をそらす。


「あっぶな。死ぬかと思ったじゃん」


 私のHPは6割も残っていない。危機一髪も良い所。


むしろ何で残ってんのさ……。あと肘打ちなんかやってくる人にそれは言われたくない」

「便利だよねぇ、肘打ち」

「んなバイオレンスなことで同意を求めるな」


 酷い。自分も関節技とかしてくるくせに。


 それはそうと、サニーが新たに習得したスキルは『風魔法』。

 地力では無く、手札の数を取ってきたか。


 さて、どうしようか。どうやって斬ったものかな。

 まずは、一通り歩法を試すか。


 ――歩法 滑歩かっぽ

 上半身を動かす事なく移動する事で、滑るように錯覚させ、距離感を分かりにくくさせる技だ。


「『ファイアアロー』『ウィンドボール』」


 ファイアアローを連続発動しつつ、速度の速いウィンドボールでの攻撃。一撃でも貰ったらアウトな私相手にはとても有効な手段だろう。

 けれど、魔法は尽くが滑歩の影響で位置がずれた。

 至近距離の魔法は流石にしっかりとこちらを捉えているけど、それだけなら何とかなる。

 懐に潜り込もうとした時に、サニーは獰猛な笑みを浮かべていた。


「『ファイアボール』!!」


 直後に放たれるのは自爆覚悟の一撃。

 それを咄嗟に跳んで躱す。

 そして、


「天風!」


 空中などの身動きが取り難い状態下で攻撃をする為の横薙ぎの技。

 それは退き続けるサニーのその大きな胸を浅く斬り裂く。

 大きいから当たる。何だろう、こっちにもダメージが。


「――ぐっ」


 ダメージに声を漏らすサニー。このゲームは痛みを直接的に感じることはないけれど、それでもダメージを受けると特有の不快感に襲われるのだ。

 サニーの魔法を封じた。このまま斬るっ!

 力の限り踏み込んで、一刀を放つ。


「地嵐っ!」

「『ウィンドボール』!!」


 声は全くの同時。けれども、私の刃は一寸届かず、サニーの魔法が体を打ち据える。


『Winner サニー』

 電子的な声と共に結果が出た。

 勝負は私の負けになった。



 _______________





「さーて、罰ゲームはどうしてやろうかな」


 にたりと何とも意地汚いサニー。最悪だ。もう嫌だ。今度は何を言う気なのよ……。


「ふんっ、好きなこと言えばいいでしょっ! どうせ私の痴態を晒して楽しみたいんでしょうからっ――」


『逆ギレ乙』

『子供か』

 分かってるよっ! 分かってるけどさあ!


「うん、良し。こうしよう」

「何よお」


 にまにまとした口元を隠そうともせずにサニーは私に死刑宣告をした。


「今から一曲、歌って?」


 …………………………うた? 唄、詩、歌?

 歌?!


「嫌ぁっ! それだけはっ」


 錯乱気味に逃げようとする私を関節を極めて拘束するサニー。何でか関節技だけは矢鱈と上手い。

 ……いやそうじゃなくてっ!


「暴露話じゃなかったの?! 何で歌なの?! ねえ!」

「暴露話とか・・って言ったでしょ。ほらほら、観念しろ〜」


 こんな人の多いところで、更に配信中に歌わされるとか。

 本当に嫌。往生際が悪いと言われそうだけど。

 歌だけは勘弁してください。


 逃げたいけど、関節が完璧過ぎて、ジタバタ暴れるだけで何も出来ない!


「あーと、皆さん。基本的にこのラピスちゃん、勉強は学年どころか全国トップレベル、運動は今はともかく二年前までは体力テスト満点余裕、家事万能、おまけにこの容姿とハイスペックも良いところなんですが――」

「待って、謝るから待って!」

「歌だけはとんでも無くド下手クソ。音楽のペーパーテストでは賄い切れず成績は最高評価を取れた試しが無く――」

「……………………」

「その歌声は例えるなら、幼稚園児のそれっ! この見た目で元気一杯、音程壊滅の歌声を響かせ、クラス中を爆笑の嵐に巻き込んだ中学時代、など逸話が残っていて――」

「…………………………………………」


 私の歌がいかに酷いかのトークだけで10分に上ったが、サニーの語りは、視聴者からの『もうやめてやれよ』というコメが届くまで止まることはなかった。



 _______________




「……………………」

「ごめんって」


 知りませんっ。


「まあ、兎に角罰ゲームだから、歌って?」

「うっ、」


 それを出されると逃げにくいっ! けど、こればっかりは……。


「ねえ、ラピスは約束を破るの?」

「うう……」

「大丈夫。皆笑ったりしないから、ね?」


 責めるような甘えるような何とも言えない声音で耳元で囁いたと思ったら、確認をする様に視聴者に呼び掛けるサニー。


『当たり前だろ』

『俺もそんな上手く無いし』


 ううー、………………………………………………もうっ!


「い、一回だけ、だからねっ?!!!」

「お、やったぜ。じゃあ、大きな声で、どうぞ!」


 そんなに言うならやってやるよっ!


 そうしてやけくそ気味に一曲歌う羽目になり、その結果返ってきた反応はお察しの通り。

 もう絶対やらない。

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