第9話憂さ晴らしの残伐 Ⅰ
「――あっははははっ。待って、お腹捩れるっ。ふっ、ふひっ――」
この
私が
配信を切り、すぐにログアウトをした。
そのあと羞恥を誤魔化すために勉強をして、夕ご飯の準備していたんだけど、
ご飯時ということもあり部屋から出てきた琥珀は私を見て、笑いなにかを堪えるようにプルプルと震え、5秒と掛からず決壊、今に至るというわけだ。
「うるさいよ。これ以上笑うならご飯抜きにするよ?」
「――ッ?! ご、ごめんな――っく」
一応許してやろう。……琥珀の嫌いな物作るし、今日はプレート的な感じで食べざるを得ない様にしてやるが。
_______________
その後、琥珀の嫌いな茄子やピーマンメインのご飯を食べた。
お皿を占拠する紫と緑に嫌そうな顔をしながらも時々思い出したかのように肩を震わせる琥珀と、「可愛いかったわよ」と明らかに微笑ましいものを見るかのような目で頭を撫でてくるお母さんに私のストレスはマッハだ。
洗い物を琥珀に
『これから狩に行きます。時間がある人は是非』とだけ入れて、三度電脳の世界へと旅立った。
私は前にログアウトした場所――始まりの街の南側のフィールドとの境界に現れた。
配信用の球体(何か幾何学模様が入っている)を起動させる。さあ、配信の開始だ。
昼間の配信での効果か、サニー効果か、多分後者だけど、兎に角開始早々多くの人が見に来てくれている。
「えっと、……さっきぶりです」
『初見の場合、どうしたら……?』
『はい』
『何かもうちょい無かったん?』
開始早々何を言ったら良いのかいまいち分からず微妙な感じになってしまった。
しかも、視聴者さんにツッコまれる始末。何かもう自己嫌悪で鬱になりそう。
「うん、なんかごめん……。初見さんはどーも。私は全国ネットに生き恥を晒した馬鹿な女です。今後とも宜しく」
『スーパーローテンションww』
『狩りできんの? そのノリで』
「いや、うん、ね。家族にも笑われたので八つ当たりに行こうかなと……」
『何の話?』
『前の配信見てこい』
『恥が更に広まっていく』
『八つ当たりww』
お願いだから、それは言わないで……。いや、話し始めたの私だけど。
「もうっ、兎に角私はこれからダンジョンにソロで凸ろうかなと思います!」
強引に話を進める。これ以上弄られてなるものか。
『ダンジョン? 難易度の方どうなん?』
『そのフィールドのボスより、ダンジョンのボスの方が強いとか』
『正式版でまだ誰もソロ攻略したって話聞かないし、いいんじゃね?』
お、中々好意的。まあ、その前にやることがあるんだけどね。
「まず先に装備を整えてから行きます!」
そう言って、移動してきたのは街の中心部にある武器屋。の前に、沢山ある素材を換金する。
貨幣名はベルグ。何ベルグで何が買えるのか全然わかんないけど。
ていうかベルグって、金鉱の名前にそんなの無かったっけ?
武器屋は素材を売り払ったお店のすぐ近くにあった。
結構な数のプレイヤーがいて混み合っているけど、ラインナップを見たりするのに弊害は無い。
「何と店員さんがいません! このお店に来たプレイヤーは個人のシステムウインドウで商品を選ぶみたい。何かお試しも出来るって」
商品を見る前にこのゲームの武器、防具の類いには要求筋力値が存在している。勿論他のステを要求される場合もあるらしいんだけど、基本はSTRみたい。
それで、今の私のステータスはというと、
――――
ラピス Lv.7
HP:385
MP:84
ステータスポイント:0
STR:10
VIT:7
AGI:19
DEX:10
INT:7
MND:7
スキル スキルポイント:10
『刀』Lv.5
『敏捷強化』Lv.6
『識別』Lv.3
『格闘』Lv.3
――――
こんな感じでSTRは10。一応装備に困ることはない…‥はず。鎧とか着たいわけでもないしね。
私が見ているのは刀剣カテゴリの中の、打刀に当たるもの。ここで買えるのは一種類みたい。プレイヤーレベルで順次開放とかなのかな。……いや、普通に街ごとか。
「ええっと、『登竜門』だって」
武器名『登竜門』の性能は、システムウインドウに記されている。
《種別:武器・打刀》登竜門 レア度:コモン
要求筋力値:5
攻撃:10
耐久:100/100
――
耐久は紛らわしいけど、パーセントでは無く、数値表示みたい。元々持っていたものは、
《種別:武器・打刀》初心者の打刀 レア度:コモン
要求筋力値:1
攻撃:5
耐久:500/500
――
耐久だけ矢鱈と高くて、軽い。武器は要求筋力値の値だけ重量がある。武器、防具以外にはそのような表記がない代わりに、アイテム毎の重量が記載されている。表記法が違うだけで。
ついでにアイテムのレア度は、下から、コモン、レア、エピック、レジェンド、ゴッズの5種類。今の所、コモンのアイテム以外見たこと無いけどね。
それはそれとして、
性能だけなら買っても良いんだけど、まずは試しに持ってみないとな。
私はウインドウ横のお試し用の欄を押す。
すぐに控えめなエフェクトと共に、半透明な『登竜門』が現れた。
「武器のお試しは、こんな感じで重さとか持ち心地とかを確認出来ます。でも、他のものへの当たり判定は無いので、攻撃とかはできないみたい」
『ほええ、便利』
『で、その持ち心地は?』
何度か振ってみて、感触を確かめる。
「んー、うん。初期装備の方が重心とかのバランスが良いかな。重量うんぬんとかじゃなくてね」
何か振りにくいと言うか、何というか……。こう、合わない感じ。
『経験者っぽい』
『このキャラで壊滅ソングってマ?』
『証拠はもう上がっている』
『あれは……、酷かった』
「うるさいよっ。それと刀は関係ないでしょうに」
ほんとこれ以上引きずらないで欲しいな。日向が言いやがった中学時代の事思い出して、今でも偶に悶てるって言うのに。日向はそれを知っているはずなのにっ!
そして、次に防具の類いも見たんだけどいまいちぱっとしないので、これもそのまま。
「――はぁ、回復用のポーション探してから行こっか」
ゲームのお約束とも言えるHP回復用の飲料物。なんかミントみたいな味みたい。
それを適当なお店で買ってから、私は再度南側のフィールドに向かった。
_______________
「――フッ、セイッ、地嵐」
はじまりの街南側フィールド――長いからS1(南の1フィールド目ってことで)とかにしとくかな――そこのダンジョンにたどり着いた私を待ち受けていたのは、お馴染み角ウサギ(仮称)と新種のコウモリだった。
このダンジョンは洞窟型だからコウモリがいるのは納得何だけど、明らかに岩だらけのところにウサギとかがいるのは違和感。
いや、ウサギも巣穴は掘るんだけど、洞窟って。……角がそんな強いの?
『グレイバット Lv.10
属性:物理・斬撃 』
攻撃方法は薄々分かっていたけど、噛みつき、突進、のみ。
レベルは確かに高いけど、こいつは正直強くない。
このモンスターの真骨頂は群れであること。最低3匹1セットになっており、一斉攻撃を仕掛けてくる。
更にコウモリのいる天井部だけを注意していると地面からのウサギからの奇襲を喰らうこととなる。
両方に気を配らなければいけないから、ソロ向きではないね。
そんな話を視聴者さんさんにすると、『自分の状況を見ろ』と言われた。まあ、ソロですね、はい。
「コウモリは不規則に飛ぶから、ちょっと戦いづらいね」
『キルタイム3分かかってないくせに』
『ラピス程スムーズな方が珍しい』
率直な感想にも、反応が返ってくるのが何ともこそばゆい。
ダンジョン内だと言うのに、何ともまったりとした雰囲気だな。
とは言え、
「全然スムーズじゃないって。剣術辞める直前の頃ならコウモリ3匹くらい1分いらなかったよ」
やっぱり体感的に刀が下手になったなとは思っていたし、覚悟してたことではあるんだけど、こうもはっきり時間で示されると何となく堪えるね。
『んな、阿呆な。……いや、そうでもないか?』
『そのレベルと装備で、となると相当ヤバい』
『当時どんな感じだったん?』
『気になる』
「いやいや、コウモリ程度適当に武器振り回せば倒せるって」
刀でそれをやると折りそうだったからやらなかっただけだ。
「んー、でも、皆割と興味ありそうだし、ちょっと昔話、と言っても2年くらい前の話だけど、しようかな」
そうして、2年前の私――失う前の私の話を始めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます