第10話憂さ晴らしの斬伐 Ⅱ
道中の敵を適当に斬りつけながら、話始める。
「何から話そうかな……。ああ、そうだ。先ず私は2年前に諸事情で剣術を辞めることになるんだけど、その更に1年前くらいに、とんでもない人に出会ったの」
同い年
でも、
「塾が同じだったんだけど、凄いの。何食わぬ顔で全国模試で1位を取ってね。それも連続で」
『何その化け物』
『住む世界が違い過ぎる』
『エグいww』
「本当にね。……いやごめん。話逸れてたね。それでちょっとした切っ掛けでその人が剣を扱えることを知って、木刀で打ち合ったのは良いんだけど……」
『どうなったん?』
『まさか負けた?』
『それか余裕でボコした?』
割と食いつきが良いね。口が軽くなるのを自覚しながらも、話を止める気はさらさら無かった。
「それはもうボッコボコにされまして。しかもだよ、その人刀みたいな曲剣とかよりも直剣の方が得意らしくて。……いや、直剣が得意というよりも直線のものを武器にするのが得意というか…………」
『んん……?』
『良く分からん』
私的にも説明が下手だとは思うけど、彼のあれは本当に伝えにくいんだよな。
…………あ、一個いい例があった。
「その後、その人は当初よりも実力のついた私の攻撃を30cm物差しで捌き切ってたのよね。だから、剣とかうんぬんじゃなくて、真っ直ぐなものなら何でも武器にできる……みたいな?」
『それはない』
『というか、何回か打ち合いしたんだ』
いや、うん。自分でも何言ってるのとか思うけど、事実なんだからしょうがない。
「私も未だに理解できないけど実際にやられたんだよね。あと、一度目に負けたあとにあんまりにも悔しくて一週間置きくらいに喧嘩売ってた」
何度も負けて漸く勝負になるようになってきたのは、彼と打ち合い始めて半年くらい経ったあとだっけな。
そんな昔を懐かしむような私の発言に、予想打にしなかったコメントが返ってきた。
『ラピス、元ヤン説』
『それだ!』
『今の発言を鑑みると否定できんww』
も、元ヤン?!
そんな馬鹿なっ。私程お淑やかに過ごしている人も少ないだろうに。
「元ヤンではありませんっ。これでも学校とかだと基本的に先生達からの評価高かったんだから!」
本当に失礼な。まあ、先生達からの評価の理由は宿題をやってこない癖にテストでいい点取る
そんな私の抗議はまさに柳に風といった感じ。
解せぬ。
_______________
「お、ボス部屋だね。……あ、でも、先客がいるみたいだね」
あれから十数分が経って、遂に私はボス部屋に辿り着いた。一応レベルは8に上がったけど、敵の数は少ないし、強くはなかったからあまり苦労はしていない。そもそも、私より前にダンジョンに入った人達が倒しちゃったんだと思う。このダンジョン、数で攻めるタイプだろうし。
今、ボス部屋には件の人達がいるみたいで私は暫く部屋の前で待つ事になった。
その間に
「今回のボス戦ではカメラは普段より離れる形にします。今は最大でもプレイヤーから3m位までしか離れないけど、遠距離撮影モードというのを使うことでより遠くまで離れるようにするよっていうことですね」
『理由が分からん』
『ボスがデカいから?』
『通常時でもボス戦もきちんと映せるぞ?』
皆やっぱり不思議に思うよね。えっと、どこから話したものかな。
「ええっとさ、突然だけど、配信用のカメラ、この私の周りに浮いてる球体の動く速さって何で決まるか知ってる?」
『突然どした?』
『いや、全く』
私の唐突な入りに困惑気味の視聴者さん達。いや、説明するためとは言え急すぎたね。でも、これは必要な話なんだよね。
「簡単に言うとさ、配信をしているプレイヤーアバターのAGIによって移動速度が変わるみたいなの。私の今のAGIは25だから。配信用のカメラもAGI25分の速さで動くってわけだね」
レベルアップの基礎ステータスとボーナスと『敏捷強化』の1レベル上昇の各一点ずつで、AGIは25になった。ただ、問題なのはVRにおけるアバターの速度とはステータスだけでは決まらないことにある。
VRでのアバターの動作速度はアバターのAGI(またはそれに該当する数値)とプレイヤーの反応速度――もっと言えば、アバターからだへの運動命令と運動命令の間の時間的感覚の短さ――の2つによる。
「私は自分で言うのも何なんだけど、人より反応速度とか思考速度が早くてね。平均的な人の1.6倍はあるんじゃないっけな。……それで、カメラの話に戻るんだけど、カメラはアバターのAGI値に平均的な反応速度で出せる速度の二倍までの速さで動くように出来てるみたい」
ようは同AGI値の複数のプレイヤーの平均最高速度を10とした時、カメラの速度の限界は20になる。
そして、私の場合は更に厄介。
「今回のボス戦で
使わないで済むなら、それはそれで良いんだけどね。今の私の実力だと倒すには必要になる可能性のほうが高いだろう。まあ、そっちの方が動画としての撮れ高は良いけど。
まだ、前の人の挑戦は終わっていない。
戦えるようになるまで視聴者さんとの会話に講じる。
『ラピスって、刀以外何使えるの?』
「サニーとの戦いで見せたように格闘に、投擲とか、小太刀とかも使おうと思えばいけるね」
『割と多いな』
『逆に苦手なのは?』
「大きくて、重いのとかは無理だね、太刀とか。……あと楽器」
『楽器ww』
『大きくて重いの……、ハッ』
『はい、通報。楽器は武器枠なのか?』
『ラピスの技量だと、十分武器説』
「うるさいよ。――あ、空いたね」
ボス専用のフィールドとの境界に立つ。
前の人(達)が勝ったにせよ、負けたにせよ、私のやることは変わらない。
さあ――
「――行こうか」
私は一歩、ボスの下へと踏み込んだ。
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