大賢者の学園

剣を携え、お互いの殺気をぶつけ合いながら相対する二人がいた。

  木と木がぶつかり合あう甲高い音、斬り、突き、そして避ける度に土を踏み、擦れる足の音、鼓舞するか

 のように上げる覇気の籠った声。

 二人にとってその喧騒は相対した時から聴覚からシャットアウトされている。

 今は目の前にいる相手のことしか頭にはない。

 極限まで高まりつつある集中に体が熱く、滾ってくる。

 基礎体術とは体のいい、名ばかりの殺し合い演習にノルドは高揚していた。

 自分でも不思議で仕方がなかった。

 これほど自分が戦闘に楽しさを見出せるのものなのかと。

  確かに現在に至るまでノルドの対人経験は父しかなく、その父も戦闘というより授業だった。

 初めての戦闘。

 そして相手はあのヴィースと共に冒険をしていた仲間。

  極上の対戦相手だ。

 経験は言うまでもなく上。技術はハンデとして片手剣を選んでいるものの同等と考えても差し支えないだろう。

 差は歴然である格上の相手にノルドはどこまで自分の剣術が通用するのか試したい。

 その気持ちが気分をハイにさせ、鼓動を高鳴らせる。

 ノルドはその高揚とは反対に脳は冷静に保とうとする。

 身体は熱く、脳は冷たく。

 冷静さを欠けば、一瞬で決着が着く。

 一息吐き、木剣を構える。

 剣先を相手に向け、腰を落とす。


「ほう?その構え......。面白い。では始めよう。」


 レーナはノルドの構えを見て口角を上げる。

 存外にも楽しそうに笑っている。

 いつもの鉄仮面とは違う。そして悪戯なあの笑みとも違う。

 戦闘の楽しさから来る笑み。

 ノルドもそれに当てられ、口角が上がってしまう。

 レーナは半身のまま木剣をこちらに向ける。

 二人に最早開始の合図は要らない。

 両者が剣を構えた時から始まっている。

 中庭の中で一際異彩を放つ一組に周囲は戦闘を止め、気づけば見入っていた。

 両者の殺気が周囲にも伝染し、視線が惹き付けられる。

 ノルド、レーナは動かない。動けないが正しい。

 互いに隙がなく、下手に動けば負ける。実戦であれば死だ。

 達人の間合いと言うやつだろうか。

 特にノルドは先の発言からしてレーナがこの剣技に対して既知であると察している。

 弱点も剣筋も割れている中で特攻はカウンターの的である。

 生徒達は二人の並々ならぬ気迫に息を呑む。

 演習であるはずなのにどちらかが死ぬのではないかと思わせる程の殺気にただ呆気に取られている。

 フヴィルもへーラルもノルドの今までに見たことのない表情にまるで別人だと思わされた。

 いつもの情けないアホ面ではない。

 目には闘志を宿し、構えから隙が伺えない。

 何より鳥肌立つ程の殺気を放っていることに本当にノルドなのかと疑ってしまう。

 フヴィル、へーラルを含めた生徒達が見守る中、遂に動き出す。

 二人同時に地を駆け、一気に間合いを詰める。

 レーナは分かりきっていたが、ノルドも負けず劣らずのスピードだ。

 先手はレーナである。

 そのスピードを利用し、突きを繰り出す。

 対するノルドは姿勢を低くし、下からレーナの突きを跳ね除ける。

 そして跳ね除けた直後、右脇腹に目掛けて横薙ぎに剣を振る。

 レーナは先の突きを跳ね除けられ、胴体ががら空きである。

 加えてノルドは払いから流れるように横薙ぎを繰り出しており、動きに無駄がなく、レーナの身体に木剣が到達するまで最短と言っても良い。

 決まったと生徒達は思っただろう。

 カンッと木剣同士がぶつかる甲高い音が反響する。

 見ると、ノルドの渾身の横薙ぎはレーナの木剣によって防がれている。

 見入る生徒達は何が起きているか理解が追いついていない。

 しかしノルドはその目でレーナの動きを捉えていた。

 上に跳ね除けられた腕であったが、攻撃を察知した瞬間木剣を逆手に持ち、そしてノルドの木剣と自身の身体の間に滑り込ませ防いだ。

 咄嗟の判断であるが、流石の戦闘センス。

 ピンチですらないというわけか。

 ノルドは後ろへ下がり、間合いを空ける。

 チャンスを防がれ、普通なら悔しいはずなのに、今はそれよりも楽しさが勝つ。

 レーナも逆手持ちから切り替え、ノルドに向き合う。

 今度はノルドが先手を取ろうと地を駆ける。

 レーナは動かない。

 敢えて動かずに真っ向からノルドと対峙するという意志だろう。

 ノルドは速度をそのまま利用し、上段から斬り掛かる。

 レーナは木剣を横にしノルドの攻撃を受け止める体勢に入る。

 が......真っ向から駆けてきた速度の乗った一撃を受け止めきれなかった。

 レーナが予想したよりも遥かに重い一撃が木剣に入り、腕に伝わり、その余波が身体に到達する。

 レーナは後退り、体勢を僅かに崩す。

 この状態では次のノルドの攻撃を流しも受けも出来ないとレーナは確信する。

 負けが濃厚となったレーナであったが、いつになってもノルドの木剣はレーナに達しない。

 何故......?

 一度目の疑問。

 レーナは視線を上げ、ノルドに目を向ける。

 答えは視線の先にある。

 ノルドがこちらに攻撃をして来ないから。

 依然殺気を放っているが、闘志の感じられないノルドが立っている。

 何故.....?

 二度目の疑問。

 その疑問の答えをレーナは持ち合わせていなかった。


「どうして攻撃してこない......?体勢を崩し、この距離なら確実に一撃を入れられた筈だ。何故好機を逃す?」


 分からないなら聞けばいい。

 レーナはノルドへ率直に疑問をぶつける。


「先生、わざと受けに行ったでしょ?自分でも不思議なんだ。こんなに戦うことが楽しいなんて......だから俺は全力の貴方と戦いたい」


 そんな勝ちは要らないと。意味はないと。

 ノルドは真っ直ぐにそう答えた。

 たかが授業。だが殺し合いの演習でもある。

 殺し合いにおいて負けとは死だ。だからこそ手を抜くなど有り得ない。

 そんなのは殺されたいと言ってるようなものだ。

 殺されたくなければ相手を殺すしかない。

 命のやり取りである以上全力で戦うのが筋だ。

 それが演習であったとしても......


「悪かった。全力で臨むべきであったな。君への、その剣への侮辱であった。だから詫びとして全力でこちらも戦わせてもらうとする」


 謝罪を口にし、レーナは武器の山に向かう。

 片手剣はやはり自分の獲物ではないようだ。

 確かに片手剣としての技術も上等なものであったが、そのレベルであればごまんといる。

 ヴィース・ロプトールと共にするには実力不足だ。

 レーナは二つの武器を持って帰ってくる。

 二本の木製ナイフ。

 

「全力で行く。すぐにくたばってくれるなよ?」


 二本のナイフを逆手に持ち、構えるレーナ。

 ノルドは先程よりも殺気が重く濃く冷たくなったのを肌で感じる。

 ナイフを使うのであれば、先程より攻撃は軽くなるが、手数が増える。

 それに小回りが利く分、攻撃も流されやすく、こちらには入りやすくなる。

 ただリーチはこちらに分がある。

 間合いがより重要となってくるだろう。

 考えはまとまった。相手の利、不利は押さえた。

 あとはそれを実戦で行う。

 我ながら阿呆だと思う。

 行うは難し。頭で考えてできるのであれば、技術より戦術を学んだ方が良い。

 ノルドも先程と同様構えを取り、臨戦態勢に入る。

 それを見たレーナは姿勢を低くする。

 次の瞬間レーナは駆ける。

 速い。先程より断然速い。

 ノルドはレーナの動きを見る。

 無策に突っ込んでくるとは思えない。

 人には必ず予備動作がある。それを捉え、次の行動に移る。今のノルドにはそれしか出来ない。

 驚異的なスピードで距離が縮まる。

 さながら肉食獣が獲物を狩るように駆けるレーナ。

 ノルドの速度より上だろう。

 レーナの足が走りから変化したのをノルドは察知する。

 大地を大きく踏みしめ、バネのように解放する。

 跳躍の予備動作。

 案の定、レーナは跳んだ。

 ノルドはレーナに向かって走り出す。

 目標目掛けて飛び込んで来た場合、その目標が動けば攻撃は当てずらくなる。

 そして空中であれば、落下地点を変更するのは不可能。

 ノルドが敢えて前に走り出した理由。

 以上のことを踏まえた上でカウンターを決める。

 左右後ろに移動することも考えたが、避けたところであのスピードで来られれば厄介であるし、後手に回れば勝ちは薄くなる。

 片手剣とは違い、使い慣れた獲物。技術、そして経験でも上だと思った方が良い。

 であるなら、空中に出た今を狙うしかない。

 合理的且つ勝ち筋を考えての行動であったが、ノルドにはまだ納得できていないところがあった。

 こんなこと俺が予想して行動してくることをレーナが予想できないわけがないと。

 ただ走り出してしまった今ではもう遅い。

 それに先述の通り、後手に回れば負ける。

 ノルドにとってこれしか手がないのだ。

 空中に跳んだレーナと地を駆けるノルドの距離が縮まる。

 縮まるにつれ時の流れが遅くなったように錯覚する。

 ノルドは木剣を下に構え、左斬り上げによる攻撃を試みる。

 対するレーナはというと......


  (まさか.......っ!)

 

 レーナの予備動作から考えられる次の一手が予想通りであれば、蹴りが飛んでくる。

 まさかここのタイミングで?

 ノルドの思考が駆け巡る。

 手、腕、肩から予備動作は見られない。やはり見られるのは腰、足の付け根から伺える予備動作。

 正直面食らったと言わざるを得ない。

 武器を持った時からノルドの意識はレーナの上半身にしかいっていなかった。

 レーナはそれを読んでいた。

 確かにそうだ。

 この授業は『基礎体術』。

 武器を扱う為の授業ではない。

 あくまで武器は戦闘を有利に進ませる為の駒でしかなく、魔法を使わなければ何でもあり。

 つまり武器を使ってもいいが、武器を使わないで攻撃をしても良いということだ。

 武器しか攻撃手段を考慮していなければ、必然とナイフの類のリーチは短く見積もられる。

 それを利用した蹴り。リーチの誤算による間合いの変化。

 やはりレーナは下がれば負けると理解し、前進してくることを読んでいた。

 そしてタチの悪いことにノルドの考え通り前進以外は勝ち筋がない。

 前進しか選択肢を残さないで、その選択肢すら潰してきた。

 しかも予想していない蹴りという形で。

 流石の一言に尽きる。

 経験なのかセンスなのか......どちらにせよまんまと嵌り、この一撃を食らえばその後は隙だらけになるだろう。

 しかしノルドは足を止めなかった。

 寧ろ笑みすら零して突っ込んでいく。

 進んでしまった以上ここで下がれない。

 下手に止まれば、本当の詰み。

 レーナと目が合う。

 あちらも笑っている。

 何とかしてみせろとその笑顔が、目が言っている。

 ノルドの予想通り、レーナは空中で右脚の回し蹴りを放ってくる。

 というか軽い打ち身程度か寸止めって言ってた本人が速度の乗った回し蹴りをするのかと思ったのも束の間、その細く長い脚がノルドの顔に迫る。

 1cm。また1cmと近付いてくる。

 レーナがその右脚でノルドの顔を捉えた瞬間......

 ノルドの顔は消え、その右脚は空を切る。

 顔を蹴り飛ばした感触はない。

 明らかな空振り。

 であるならノルドは......下だ。

 ノルドは直前で姿勢を低くし、レーナの下へ潜り込んだ。

 レーナの攻撃は一撃しか来ない。

 空中で、まして魔法抜きで仕掛けられるのは誰だろうと一度しか有り得ない。

 しかしその一撃を躱すだけでは意味がない。

 着地した先にノルドがいれば、そのまま速度を活かし突っ込んでくるだろう。

 だからこそ躱すならレーナと逆方向。

 つまり下に潜り込むこと。

 ノルドはレーナの下を潜り込み、そのまま通過する。

 だけで終わらせない。

 振り返りざまに横薙ぎの一撃を入れる。

 打ち込む瞬間、足で踏ん張り腰を捻る。

 木剣を下に構えていたのが功を奏し、その腰の捻りを最大限活かした一撃をレーナに当てられる。

 カンッと明らかに肉ではない音と感触がノルドに伝わってくる。

 見るとレーナは回し蹴りにより一回転していた。

 そして肝心のノルドの木剣は両手に持った二本の木製ナイフにより止められている。


「マジですか......流石に決まったと思いましたよ」


 思わずその異様な光景、咄嗟の判断力とその技術に声が出る。

 最早笑えてくるレベルだ。

 再びノルドとレーナに距離が生まれる。

 生徒達は二人の戦闘に圧倒され、呼吸を忘れるかのように見入っていた。

 まだ勝負は喫していない。

 二人同時に駆け出し、打ち込み合う。

 緊張か、動いているからか、鼓動は速くなる。

 だけどそんなことは気にしない。

 今心臓が動いて、負けてなければそれでいい。

 一進一退の攻防戦。

 両者共に紙一重で躱し、受け、流し、自分の一手を相手に放つ。

 

「なあ、あれって本当に魔法使ってないんだよな......?」

 

 誰かが呟いた。

 片や生徒がしているとは思えない激しい戦闘で忘れていたが、この授業の中で決められたルールを思い出す。

 魔法の使用は禁止とするというルール。

 つまり今繰り広げられているあの戦闘は魔法なしの生身の体で戦っているというのだ。

 その場の誰もが戦慄した。

 魔法を使っていたらどんなことになるのだと。

 しかしフヴィルには疑問が残った。

 あの戦闘技術を持っていながら、何故ノルドは最下位でマイナスの得点なのか?

 そもそもマイナスになった要因は?

 正直戦闘技術だけ見たら生徒のレベルを超えているだろう。

 故に分からない。

 フヴィルの思考は戦闘の局面が変化したことで現実に引き戻される。

 一進一退だった二人の攻防。

 二人は肩で息をし、息も荒くなってきている。

 ここからは精神的にも辛くなり、ミスが生まれやすい。そしてそのミスは致命的になる。

 動き出したのはレーナだった。

 初手の跳躍と同様駆け出す。

 息も上がり、スタミナも大分消耗したであろうにまだあれだけ走れるのか。

 その場にいた者は思っただろう。

 先程よりスピードも落ちていない。

 ノルドはレーナの攻撃に備え、身構える。

 予備動作もない。つまりこのまま突っ込んでくる。

 そのまま距離が縮む。ノルドは依然カウンター狙いである。

 そして予備動作。それはレーナの左腕からである。

 しかしまだレーナの間合いではない。

 レーナの左腕は走る時のフォームとは違う動きをしている。気のせいではない。

 直感が危険信号を出す。

 先程の蹴りといい、自分の予測で格上は測れない。

 つまりこの間合いを埋める何かをしてくる。

 そう思った矢先である。自分の顔に何かが飛んでくる。

 ギリギリノルドの間合いの外でレーナは左手のナイフを投擲したのだ。

 幸い顔である。顔を傾け、そのナイフを避ける。

 ここでノルドはレーナの思惑を知ることになる。

 レーナの算段ではナイフの投擲は決定打ではない。それに足りえない。

 しかし決定打を打ち込む為の足掛かりとしては十分に効果を発揮する。

 唐突に視界に現れたナイフ。それは相手にとって注意を引くものになる。ただでさえ視界を少しでも遮られるのだ。

 それだけで脅威となる。

 そして避けるまでの間、レーナは止まっている筈もない。

 その間もノルドとの距離を詰め、次を打ち込む。

 そしてノルドはレーナを再び視界に捉え、その行動に対応しようとしなければならない。

 確かにそれは一瞬かもしれない。しかしノルドにとってその一瞬は命取りになる。

 完全に後手に回され、レーナは速度に乗って攻撃を畳み掛ける。

 更に言えば、レーナの間合いでの戦闘。

 長物のノルドはその間合いでは不利である。

 その状況を作り出す。それがレーナの投擲の狙いである。

 そしてそれは現実の光景となる。

 ノルドはナイフを避けるが、注意をナイフに注いだ為にレーナを捉え、備えるのに一瞬の隙が生まれる。

 レーナはその間に距離を詰め、完全にレーナの間合いにノルドが入っていた。

 後は後手に回ったノルドに攻撃を間髪入れずに仕掛けて勝負が決まる。

 そのはずだった......

 レーナの一撃目のナイフの突き。予定ではここでノルドの体勢を崩させる筈だった。

 しかし結果はノルドに右腕を掴まれている。

 そしてあろうことか、右腕の肘打ちが飛んでこようとしているのだ。

 レーナは一瞬遅れて理解する。

 ノルドはナイフの突きを繰り出される前に木剣を手から離し、この間合いにおいて剣という選択肢を捨てたのだ。

 レーナは二度目の敗北の確信。

 しかも全力で戦い、負けたと。

 レーナのセンス、経験を駆使してもノルドは対応してみせた。

 初見殺しに近い技術をも即座に対応し、レーナの予測を超えた適応能力でこの勝負を制した。

 反論の余地もない、完全な負けだ。

 レーナはノルドの左腕に掴まれ、自身の右腕は伸びきり、どうしようもない。

 ノルドの肘打ちを待つのみである。

 ノルドが肘打ちを決めようと、腕を動かした瞬間。

 キーンコーンカーンコーン。

 学園にチャイムが鳴り響く。

 既のところで決着が着かず、この基礎体術の授業は幕を下ろした。

 フヴィルもへーラルも拍手を送る。

 呆気に取られた生徒達も伝染したように拍手を送った。

 ノルドに、レーナに、そして二人の熱い戦いを称えて。

 授業を終え、帰りとなったノルドであったが、緊張も解け、戦闘による疲労感から授業の後のことは特に覚えていない。

 フヴィルがピーコラピーコラ言っていたいたような気がするが、覚えていないなら大したことではないのだろう。

 へーラルが褒めていてくれたのはしっかりと覚えている。

 帰りも寝る前も断片的にしか記憶に残っておらず、気付けば朝になっていた。

 また今日も学園が始まる。

 疲れも取れないままであるが、またあの二人が待っている。

 ノルドは今日も眠たい眼を擦り、身支度を整えるのであった。



 時は遡り、昨日放課後。

 コンコンコンとノックの音が部屋に響く。


「どうぞ」


 老年の男性が入室を促す。

 返事と共に入室してきたのは一人の女性。

 表情こそいつも通り鉄仮面であるが、髪も少し乱れ、珍しく汗もかいている。

 先の戦闘を終えたレーナ・オルソンは学園長室に来ていた。

 

「それで、どうだったかな?例の生徒は」


 レーナは先程の戦闘を思い出し、少し頬が緩む。

 

「そうですね......生徒のレベルを逸脱しているのは間違いありません。あのまま続いていれば負けていましたよ」

「君がか......」


 学園長は驚きこそすれ、少し笑っている。

 レーナ自身もノルドの予想以上の実力に驚いている。

 

「やはり彼は......」

「ええ。彼の息子で間違いないかと......」


 レーナも学園長も表情が硬くなる。

 ノルドの知らぬところで世界は動き続けている。

 それはこの学園も例外ではない。

 運命は揺らぎ、常に変化をしていく。

 まだ水面を揺らす程度であるが、次第にそれは大きな波となって世界を巻き込む。

 彼の数奇な運命はどうなっていくのか。

 神話の続きは始まったばかりである。

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神々は愚者を嫌った 須野津 莉斗 @Sunotsu_Lito

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