神々は愚者を嫌った
須野津 莉斗
大賢者の学園 Ⅰ
―――大賢者。通称グランドセージ。魔道の深淵を覗き、魔法において右に出る者はおらず、一人で一国の兵力と変わらないとまで称された者に与えられた最強たる証。言わば称号である。彼は人々から羨望され、嫉妬され、畏怖され、尊敬された。紛れもなく、魔道の頂点である。
現代の戦闘では魔法なくして戦うなど、児戯に等しい。それだけ魔法という能力が戦場を大きく揺るがす要素となったのである。故に大賢者...グランドセージという称号は栄誉あるものであり、魔法の優劣が強者弱者を決めるようにもなった時代である。
では仮に魔力も属性もない人間がいるとしたら、その人間にはどのような称号が与えられるのだろうか...非魔法師?そんな生温いものではない魔道を極めた者が大賢者であるなら、魔法が扱えず、魔力も無く、属性も無い者に与えられる称号
それはきっと......
「賢者か......」
季節は春。溜息をついた青髪青眼の青年は馬に引かれた荷車に揺られながら、目的地へと向かっていた。
荷台には剣や盾、防具等々が積まれており、ランタンの灯りだけを頼りに仄暗い中、家から持ち出した本を読んでいる。
暇潰しに読み始めたのであったが存外面白い。
景色を見ていない所為か、どれくらい時間が経ったか感覚がない。
「ボウズ、もうすぐ着くぞ!」
荷台に向かって叫ぶ男性の声が聞こえる。
青年は本を閉じ、カーテンを開けると、朝日が顔を出しているのが見えた。
手網を握る短髪に髭の生えた男性はこちらを一瞥する。
ただそれ以上に遠くに聳える人工物の群生地帯に視線が惹き付けられる。まだ数キロは先だというのに、存在感を主張している。
「あれが王都ハティヘイムか!」
「ボウズ、王都は初めてか?」
青年は気付けば、声が漏れていた。
目を輝かせ、王都に惹かれている青年に男性は語りかける。
青年は意識を引き戻され、男性の方へ視線を戻す。
「ああ。父さんの話でしか知らないからな」
その男性はカカと笑った。とても気の良い男性であると青年も感じ取っていた。
ただ今は眼前に広がる光景に目を輝かせ、これから始まる生活に胸を膨らませていた。
辺境育ちの所為か自分の背丈の何倍もの建物が密集し並んでいる光景など今の一度もなかった。
青年は先程の溜息を忘れたかの様に目の前に広がる光景に夢中になっている。
そこから更に小一時間移動し、王都の門へと到着した。
そこには列ができており、門兵が入門許可証の確認をしている。
「ここでお別れだな」
荷台から降りた青年に対し、男性は別れの挨拶を告げる。
そう。この青年にも目的があるように、この男性にも王都では目的があって来ているのだ。
この男性は青年にとって恩人と言っても過言ではない。それくらいのことをしてくれたのだ。
「おっちゃん、ありがとう!あの時乗っけてくれなきゃ間に合ってなかったわ」
「おうよ!ボウズも達者でな。もし王都でまた会うことがあったら、そん時はウチの商品をよろしく!」
そう言い残して、その男性は馬を走らせ、商人用のゲートへ向かった。本当に気の良い男性だ。
落ち着いたら店でも探して見ようと恩返しを密かに誓った。
(ここから始まるんだな......)
腰に下げた剣をぎゅっと握り、期待と緊張を胸に青年は一般ゲートへと向かう。
ゲート前は長蛇の列となっている。同世代と思われる男女が並んでいることから、彼らも目的は同じなのだろう。
だが、これくらいの列慣れていると言わんばかりの手際で、その列はところてんのように押し出され、もうすぐ自分の番である。流石王都の門兵。しごできだ。
(何とか間に合いそうだ。あのおっちゃんには感謝だな)
そう感謝と安堵した矢先、あれほど捌けていた列がピタリと止まる。何やら一人の少女でトラブっているらしい。
「だーかーら!許可証をなくしたの!」
そう叫ぶ少女の声が聞こえてくる。何故そんなに強気なのかはさておき、青年は列から頭を出し、現場を覗き見る。
「そう言われても許可証が無いと通せない決まりなんだよ」
「今日は学園の入学式なの!」
最早ごり押しである。門兵も呆れた表情をしている。確かに彼女が嘘をついているようには見えないが、もしそれで事件が起きたら規則を破った門兵に責任を負わされることになってしまう。
だからと言って、このままでは青年も遅刻になってしまう。入学式当日から遅刻は避けたいところだ。
周囲もあの強気な少女に気圧され、何もできずにいる。
青年は列から抜け、問題の現場へ歩を進めていた。
(仕方ないか......)
「ちょっといいか?」
そう言い、青年は門兵と少女の間に割って入る。
「君は誰だい?もしかしてこの子の連れかな?」
「いいや。残念だが、初対面だ。」
門兵もその少女もはてなが頭に浮かんでいる。当然の反応だ。
その青年は許可証を鞄から取り出すと同時に“ある物”を取り出した。
「これは許可証。名はノルド......いや、そんなことより、この子は学園の入学式なんじゃないか?ならこれがあれば、本当かどうかわかるんじゃないか?」
一枚目に許可証、二枚目に入学式の招待状を見せる。正直それで通るかどうかは分からないが只々あの場で待っているよりはマシだ。
この青年が王都に来た目的、即ち学園への入学。同年代であれば、この季節に王都に来るなぞ大方が入学だろう。
門兵も少女も招待状の方に視線が動く。
「刮目しなさい!」
合点がいった少女はゴソゴソと鞄から同じ招待状を出した。
そして何故か得意げに招待状を見せている。
てか列が詰まっているのアンタの所為なんだがと青年はツッコミを入れたくなる気持ちを抑え、招待状があったことに安堵する。
門兵も二つの招待状を見比べ、本物だと納得がいったらしく、彼女の通行を許可してくれた。ついでにその青年“ノルド”も先程の許可証で通行許可が出た。
まさか自分が通行許可が出るとは思わぬ副産物であるが、門を潜り、遂に王都ハティヘイムに入る。
(よし!これで入学式には間に合いそうだ)
「ねえ」
振り向くとそこには件の彼女がいた。先程は全然気にしていなかったが、長い耳に絹のようにきめ細かい白い肌。そしてその白さが際立たせる長い金色の髪。この特徴、人類の中でも妖精種に属する“エルフ”だ。
何故引き止められたか分からないと言った表情をしているノルド。
「さっきはありがとう」
彼女は少し恥ずかしそうに一言だけ言い残し、その綺麗な金髪を靡かせ、足早に去っていった。
人から感謝されるのは悪くない。それにノルド自身も許可が降りたのだ。むしろラッキーである。
だが、よく考えれば先程の問答の時間が無ければさして時間は変わらなかったのではと考えたが、あくまで仮定なのでやめておく。
それからは石畳で出来た大通りをひたすらに真っ直ぐ歩いた。流石王都。人口の密度が高く、活気に溢れている。
すれ違う人間も服装から何から小綺麗である。
出店を開き、商いをする者。三神の良さだとかを説く宗教の宣教師。観客から拍手を浴びる大道芸人等、ノルドが暮らしていた場所とは文字通り住む世界が違う。
山の中で幼少期は父に鍛え上げられ、少年期は一人で過ごしていた。そもそも人と会うのだって久しい。ましてや商店など麓の村にあるこじんまりとした商店しか知らない。
父から常識や教養など色々と教わっていたが、百聞は一見に如かずだ。ノルドにとって目に映る全てが新鮮で驚きだった。
しかし今は入学式までの時間もそんなに余裕があるわけではない。色々見学して行きたい気持ちをぐっと堪え、少し駆け足気味に学校へと向かった。
幸いなことに学園自体はすぐに見つかった。一言で言うなら城。王都の丁度ど真ん中に構える一際大きい建物。
(あれが学園か。思ったより大きいな......まあ、目立ってくれてるから迷わなくていいか)
それに同世代の青少年達が、その城、もとい学園に向かって歩を進めている。ノルドもその中に混じり、学園の中に入る。まるで鴨の親子だ。
門を潜ると、正面には噴水があり、整えられた芝に、整列された樹。話に聞いた貴族の屋敷のようだ。
一言で言うなら豪華絢爛。学園と言われなければ、屋敷だと勘違いしてしまいそうだ。
ただそれも強ち間違いではない。近年では王族や貴族の入学数も増え、学園に支援しているらしい。
魔法による戦闘が基本となった近年の戦闘と偉大なる魔法使い“大賢者グランドセージ”の師が学園長というのが相まっての結果だろう。どの貴族もこの学園を卒業したという事実が欲しいのだ。
(門の時から思ってたけど、色んな人種、身分の人間が多いな)
それもそのはずである。世界に三つある魔道学園の内、この『王立ウールヴ魔道学園』だけ入学試験が免除である。だから貴族や地元の生徒だけでなく、国を跨いで入学する生徒も例年数人いるらしい。
大賢者グランドセージである『ヴィース・ロプトール』が元々平民の出で、身分に関係なく等しく魔道を学ぶ機会が与えられることを願いとして創設された学園だというのだ。
校舎玄関口に到着するが、先までいたはずの生徒達の姿が見えない。
景色に見蕩れているうちに他の生徒は先に会場へ行ってしまったらしい。
招待状によると、入学式自体は大講堂で行うらしいが......
(やばい......場所が分からない......)
もっと早く来て小鴨方式で後ろをついていけば良かった。
ついつい田舎者の習性で目新しい物を物色してしまう。折角、男性に拾ってもらったのにこれではパーだ。
後悔の念と詰んでいる状況に入口で呆然と立ち止まっていると
「あんた、さっきの......迷ってんの?」
後ろから聞いたことのある声が聞こえる。振り向けば、金髪に長い耳。先程のエルフの少女だ。やはり彼女もこの学園の新入生だったみたいだ。
彼女はノルドの状況を察したらしい。
「ちょっとな......」
苦笑いを浮かべるしかなかった。ただここで知り合い(?)と呼べるか分からないが、話したことのある人間に出会えたのはラッキーだ。彼女に道を聞こう。
しかしこちらが聞くより先に彼女は何を聞かれるのか分かっていたかのように答える。
「私も分からないわよ」
終わった。夢の学園生活は入学式すらできず、文字通り始まらずして終わった。ていうかこいつはさっきと言い、何で少し誇らし気なんだよ。
謎に胸を張る少女に迷子宣言をされる。
というか少し考えれば分かることだ。先程王都の門で出会ったのだ。土地勘があるわけがないのだと。
「君もか......」
迷子二人、只々この状況に落胆するしかない。この規模で手当たり次第に探すのも日が暮れてしまう。それに時間に余裕があるわけでもない。確実に遅刻だ。初日から浮くのは勘弁したかった。
項垂れているノルドに声が掛かる。
「あの......」
顔を上げると、そこには黒髪ショートの少女が立っていた。幼い顔立ち故に同い年か疑いたくなるくらいだ。
その少女は儚げというより不安げな表情でこちらを見ている。
田舎者がこんなところに居たら不審者かと思われないかと少し不安に思ったが、次の言葉でそれは消える。
「場所が分からなければ、一緒に行きますか?」
「「まじで!」」
二人揃って即座に反応してしまった。彼女も少し困惑気味だ。というか怯えている、または引いているように見える。やっぱり不審者に思われるんじゃ...
ただここで道案内をしてくれる人に会えたのは不幸中の幸い。
ノルドは改めてその少女の方を見る。
本日二人目の恩人に、そしてこれから学園を共にする学友として挨拶をする。
「助かる。俺はノルドだ。こっちは......てか名前知らねーな」
「フヴィルよ!フヴィル・アールヴァル。見てのとおりエルフよ。」
やはり強気な態度は変わらない。腰に手を当て、これから道案内をしてくれるという恩人に対する態度とは到底思えない。もしかしてエルフの作法なのか?
続いて黒髪の彼女が口を開く。
「私はヘーラル・オルキヌス。二人とも名前で呼んでも良いかな......?ノルド君とフヴィルさん」
「いいわよ」
「おう!」
ノルドはフヴィルの変化に気づいていた。ヘーラルが自己紹介をしてから表情が堅い。素っ気ないような、警戒しているようにも見える。
先程のエルフの作法と言っていいのか、強気な態度とは一変。へーラルに対する敵意に似たものを向けている。
「あなた、オルキヌス家の者でしょ?」
フヴィルが口を開く。ノルドはオルキヌス家を知らなかった為に頭にはてなが浮かんでいる。
フヴィルに言われた途端ヘーラルも表情が堅くなる。こっちは緊張といった感じだ。二人に挟まれたノルドはわけがわからないという感じだ。
「あの......オルキヌス家って何......?」
「はあ!?あんた貴族の『オルキヌス家』を知らないの!?」
さっきの警戒はどこへやら。フヴィルは突然大声を上げる。これにはヘーラルも苦笑いだ。
何だか怒られたような感覚に陥りそうだ。
こめかみに手を当て溜息を吐くフヴィルはご丁寧に説明してくれた。
「数々の有名な魔法師を輩出してきた名門貴族よ。特に召喚術を得意としているわ。」
(おお!解説ありがたい)
そんなことをノルドが思っていると、今度はヘーラルが口を開く。
「そう......フヴィルさんの言った通り。それにフヴィルさんが警戒するのは大体の貴族が妖精種の人間を迫害や差別をするからだと思う」
俯き、弱々しく話したヘーラルは顔を上げ、フヴィルを真っ直ぐ見つめる。
先程と打って変わったへーラルの気迫にフヴィルは気圧されそうになっている。
へーラルは詰め寄り、フヴィルに対し続ける。
「でも私は違うよ......!絶対そんな事しない。」
「信用できないわ......貴族のあなたにエルフ......妖精種がどんな思いしたか分からないでしょ」
悲しそうに、そして冷たく突き放した。貴族と妖精種との亀裂は深いようだ。傍から見たノルドにもそれが分かるほどに。
フヴィルは過去を思い出したのか俯いている。
突き放されたへーラルは今にも泣きそうな声で続ける。
「分かるよ。私も家では除け者にされているから......名家だと落ちこぼれは自分の子供として見てくれないの。腫れ物のように扱われて、まともに名前すら呼ばれない」
拳をぎゅっと握る。僅かに震えている。今彼女もされてきた仕打ちがフラッシュバックして、それに耐えているのだ。更に空気が重くなる。
ノルドはこの重たい空気に何と声をかけて良いものか。持ち合わせる言葉がない。
「ごめんなさい......何も知らないで言ってしまって......」
「ううん。でも貴族が酷い仕打ちをしてきたのは本当だから......」
入学式当日とは思えない空気の重さだ。ただお互いがお互いを信じれてない。関係が浅いからこそ起きた衝突だ。時代がしてきた事は重い。それこそ一生分かり合えない人達もいるだろう。当事者でなくても敬遠してしまいそうになる。
例え、一部の貴族がやった事であっても被害者からすれば、貴族という大きい括りでしか見れなくなる。今まさにこの現状がそうなのだ。
三人に沈黙が生まれる。
「まあ、初日なんだしさ!これからお互いを知っていけば良いんじゃねーの?これから学園を共に過ごすわけだしさ、決めつけるには早いぞ」
空気の重さに耐えかねたノルドは助け舟を出す。それに折角できるかもしれない友人一号、二号が険悪なんて御免だ。
結局は偏見が招いたことなのだ。だとすれば、その偏見をへーラルが否定できれば良いだけ。
「そうね。これからゆっくり知っていけばいいわ。それに貴族がしたからと言って“この子”がしてきたわけではないし」
フヴィルも本質が理解でき、普段通りに戻そうとしている。ノルドも穏便と言えるかわからないが、一旦落ち着いたことに胸を撫で降ろす。
ただ、ヘーラルだけは不満そうにフヴィルを見つめていた。
「“この子”じゃない......」
「ごめんごめん。ヘーラルね!」
フヴィルは即座に気づき対応した。意外と姉御肌なのかもしれない。ただ今は仲直りとまでは行かずとも、不穏な空気がなくなった。
あのまま空気が重ければ、埋まって庭の一部になっていたことだろう。
へーラルもまだ緊張しているようではあるが、先程の悲しい表情は消え、震えも収まっている。
「あ!」
安堵したのも束の間、フヴィルが何かに気づいたかのように声を出す。
今度は何だとノルドは視線をフヴィルに向ける。
「入学式!」
「あ......」
フヴィルに言われてノルドも気が付けば声が出ていた。初日から大忙しである。
それからはヘーラルに案内されながら、走って大講堂へ向かった。
門の件と言い、先程と言い、何かと入口でトラブルが発生することが多いなと感じていた。
幸いなことに大講堂までそこまで距離はなく、数分で着いた。
大講堂は演奏会でも開かれるのかと言うくらい、綺麗且つ落ち着いているが、優雅さと気品を感じられる作りであった。どれほどお金が掛けられているのだか。貴族様の援助のおかげとは言え、少々無駄がすぎるとノルドは思った。
生徒は殆どが着席しており、恐らくノルド達が最後だろう。
一番後ろの席に座り、開会式を待つ。総勢三百人といったところか。貴族や平民、妖精種等、様々な出自、人種の人間がこの空間にいる。
「これより今年度入学式を開会する」
一人の女性が舞台袖から現れる。髪を一つに纏め、きりっとした目に整った顔立ち。棒が入っているかのように姿勢も正しい。
開会を宣言され、その言葉に辺りは静まり、本当に入学式が始まるといった雰囲気だ。
静寂を確認した後、その女性は司会進行を務める。
「まず、学園長挨拶。学園長お願いします。」
そう言われ、老年の男性が登壇する。
白い髭を生やし、頭にはとんがり帽子ときた。いかにも魔道学園の学園長らしい風貌である。何か決まりでもあるのかと言いたいくらい。
学園長は一つ咳払いをし、生徒全員を見渡す。
生徒は学園長の挨拶により一層市制を正し、体全体で話を聞こうとしている。
「新入生諸君、入学おめでとう。大陸を渡ってきた生徒も中にはいることだろう。三つある魔道学園の中で我が学園を選んでくれた事を嬉しく思う。君達も知ってのとおりこの学園の卒業生には、大賢者グランドセージへと至った“ヴィース・ロプトール”もいる。君達の中から彼のように大賢者グランドセージに選ばれる者が現れることを期待している。私からの挨拶は以上だ。」
「学園長ありがとうございます」
なんと短く良い挨拶だろうか。長かったら寝てしまいそうだ。ノルドは夜中に出発した為に寝不足で疲れも眠気もピークである。
それにほどよく暗く、式ということもあり、静寂が支配しているという睡眠には最適な条件である。
欠伸が止まらないが、眠たい眼を擦り、必死に起きた。正直何回か舟を漕いでいる。
そこからは淡々と入学式は進み、入学式自体はあっという間に閉会となった。
「これにて入学式を閉会とする」
その瞬間、ノルドの目にはその女性が微かに笑ったように見えた。寝ぼけているのだろうか。
そんな疑念も束の間。女性教師はとんでもない言葉を口にする。
「では、これより試験を開始する!」
(試験!?聞いてないぞ!)
やはり気のせいではなかったようだ。
静寂は一転し、会場は騒然となる。それもそうだ。入学試験がないから来た生徒も多いだろう。かく言うノルドもその一人だ。
騙されたと勘違いを払拭するのもまた例の女性教師だった。
「安心したまえ。これで入学自体が取り消す事にはならない。ただ学園自体も君達の実力が知りたいだけだ」
不敵な笑みを浮かべる女性に、再び静けさを取り戻す会場だったが、生徒達は全員状況を吞み込めていない。
ノルドの眠気は嘘だったかのようにその発言で吹き飛んでいた。
誰も彼もが状況を飲み込めないまま、ノルド達の入学式初日は不穏な始まりを見せた。
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