神々に嫌われし者 Ⅲ

「はああああああああ!?!?」


 保健室どころか校舎中に響き渡るのではないかという大きな声を上げたのはフヴィルであった。

 ノルド達が保健室に帰ってきたと同時くらいに目を覚ましたらしく、ノルドはフヴィルが眠っている間の経緯いきさつを話した途端この反応である。

 当然と言えば当然。

 最下位。しかも魔力値がマイナスの男が、実力だけなら学年トップのフヴィルがレギュレーション違反とは言え負けた相手に挑むと言うのだ。

 普通であれば正気の沙汰ではないと思うだろう。


「アンタ、ホントに決闘するわけ?」


 包み隠さず正気かと問いかける言葉と瞳にノルドは気にすることなく答える。


「まあな......勢いで言ったとは言え、ムカついてたのは本当だしな」

「まさか私の為......じゃないわよね?それなら」

「いいや、それだけじゃない......アイツは俺の......いや、いい。とりあえず、お前の為だけじゃないから気にすんな」


 遮るように答えたノルドの眼はいつものおどけたような雰囲気ではなく、冷たく怒りを奥に灯していた。

 正直フヴィルはそのノルドの眼に寒気すら覚える程であった。

 しかしそれも一瞬のことで次の瞬間にはいつものノルドに戻っていた。

 フヴィルも回復したということもあり、三人とも帰宅に歩を進める。


「悪い。ちょっと用事があるから、二人とも先に帰っててくれ」

「そうなの?フヴィルちゃんと二人で待ってるけど」

「いや、長くなるかもしれないから大丈夫だ。ありがとう」


 珍しく用事があるというノルドは一人昇降口とは逆の方へ歩いていった。

 取り残された二人はすっかり日が落ち、夜の顔が覗かせる外の暗さを見て、帰ることにした。




 そして翌日ホームルーム。

 レーナの連絡事項を伝える声が教室に響き、生徒達は昨日の試合などなかったかのように日常に戻る。

 当のフヴィルも脇腹に傷は負ったものの本人の意思というか強行突破で普通に学校生活を送っている。

 唯一違うとすれば、フヴィルとへーラルからノルドへ向けられた視線。

 やはり二人とも心配なのか口に出さずとも態度や行動には出ている。


「以上で本日の連絡事項は......忘れるところだった」


 レーナがニヤリと口の端が上がるのをノルドは見逃さなかった。


「そういえば昨日決闘の話があったそうだ」

(なっ......!)


 嫌な予感はしていたが、まさかレーナが決闘の話を知っているとはノルドも予想外である。

 表情に思いっきり出ているノルドを楽しむようにレーナは続ける。


「まあ、校則には生徒間の決闘は禁止されてはいないが、トラブルがあっても厄介だ。今後授業外での決闘及び練習試合をする場合は私に報告するように。わかったか?ノルド」

(誰だか言うてますやん)


 一斉にノルドへ生徒達の視線が集まる。

 罰が悪そうにするノルドであるが、知られているなら仕方ない。

 レーナ含めたクラスの人達には決闘の見届け人になってもらおうと。

 その方が下手にオリバーもイカサマやズルは出来まい。

 貴族というのは体裁や外聞が大事だと前にへーラルも言っていたことを思い出す。




 意外にもフヴィルは放課後までノルドの決闘について口を出さなかった。

 へーラルが何も言ってこないのはわかっていたことだが、フヴィルはやめとけとか言ってきそうなものだが。

 授業を全て終え、今は放課後。

 ノルド達三人は約束の演習場へ足を運ぶ。

 幸いにも今日の授業は一コマ少なく、まだ日が高い。

 天候にも恵まれ、良い決闘日和だ。


「ねえ......本当に大丈夫なの......?」


 この土壇場で遂にフヴィルが心配の声を漏らす。

 背中に声を掛けられたノルドは振り向き、フヴィルの眼を真っ直ぐ見つめる。


「ああ。大丈夫だ。秘策があるしな」


 満点の笑みでフヴィルの心配にノルドは応える。

 フヴィルはノルドの応えに反応はしなかった。

 自分が同じ立場ならと考えた結果だろうか。

 それとも笑顔がブサイク過ぎたか......

 笑顔の練習はしておこうと思える程にはノルドの心に余裕があった。

 そして約束の演習場。

 既にオリバーは待っており、ノルド達が来るなり鼻で笑う。


「来ないから逃げたかと思ったが、その勇気......いや蛮勇は褒めてやる」

「へいへい。蛮勇ってのは自己紹介か?自己紹介ならもういらないぞ。知りたくもないしな」


 目には目を、皮肉には皮肉をとノルドはオリバーに正面切って挑発をする。

 それに対し、オリバーは怒るどころか反論すらしなかったのは意外だった。

 それと予想はしていたが......


(観客が多くないか!?)


 演習場のみならず、1階、2階、3階の廊下と本物のコロシアムのように今か今かと生徒が覗き込んでいる。

 そして最も予想外なのは生徒だけでなく、レーナを含めた教師陣が演習場で見物しようとしていること。


「そんなに決闘が珍しいものかね......」


 ノルドとオリバーは相対し、観客は今か今かと決闘を楽しみにしている。

 フヴィルとへーラルは教師陣が並ぶ横で今回の決闘を見届けるつもりだ。


「オリバー、ルールはどうする?」

「貴様に任せよう。強者としての施しというやつだ」

「いちいち癇に障るというか......ウゼェな」


 ノルドは長考するまでもなく、至ってシンプルなルールにする。


「レーナ先生の合図で開始。勝敗はどっちかが降参するか戦闘不能になるまで。特に威力の制限とかはなし。どうだ?」

「良いだろう。死なないよう精々頑張れ」

「てことでレーナ先生!合図お願いしまーす」


 オリバーの皮肉はフル無視でレーナに審判兼スターターをお願いする。

 それを聞いたレーナはその場で右腕を上げる。


「ではこれよりノルド対オリバーの決闘を始める!」


 レーナの響き渡る声に生徒達含めた観客に緊張が走る。

 オリバーは自慢の杖を、ノルドは愛剣を相互に構え、レーナが腕を振り下ろしたと同時。


「始め!!!」


 二人の決闘の火蓋は切って落とされた。

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神々は愚者を嫌った 須野津 莉斗 @Sunotsu_Lito

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