フルート、戦争、三角関係

 フルート(楽器)と(日露)戦争と三角関係。どう考えても結びつかないこれらのワードが、本作では立派な恋愛歴史モノの構成要素になっています。
 まず構成。軍楽隊の隊員として海軍に入った主人公・祥三郎は、音楽を学ぶためドイツに留学していますが、日露関係緊迫のため祖国に呼び戻されます。本作は、過去パートである「ドイツ留学時代」「留学前後の実家の状況」と、現在パートである「日露戦争開戦後の状況」を交互に描くという構成を取っていますが、これによって祥三郎というキャラクターの性格・抱えるしがらみ・そして夢が、徐々に明らかになっていきます。
 そしてディティール。本作の作者・白里りこ氏はクラシック音楽に造詣が深く、関連する作品をいくつも書かれておられますが、本作でもその知識は存分に生かされており、作品に華を添えています。かと思うと、戦争関連の考証も腰を抜かすほどしっかりしていて、明治期の海軍軍楽隊の編成も史実に基づいています。「この時代にフルートなんて軍楽隊にあったのかよ」と思っていた私も資料を調べてびっくり、ちゃんとありました(楽水会『海軍軍楽隊―日本洋楽史の原典』より)。他にも、戦闘中の軍楽隊員は負傷者の搬送に従事することや、日露戦争序盤の黄海海戦では……これはネタバレになるので伏せますが、とにかく細部もリアル。
 構成・細部ともに凝った華やかな舞台で繰り広げられる戦火の恋。恋愛歴史モノをお探しの方、是非本作をお読みください!

その他のおすすめレビュー

倉馬 あおいさんの他のおすすめレビュー177