第3話(ルート2)

「え、なんで、」

別に行きたかったわけでもないのに。頭が混乱して、ぐちゃぐちゃだ。

「顔真っ青だぞ。具合悪い?」

ぺたぺたと僕の顔を触られ、心配そうに覗き込まれる。

「わか、ない、」

「頭痛いとかは?体だるいなーとか」

なんで、どこも悪くないのに。次々にされる質問に、さらに頭がぐちゃぐちゃになって。

「わか、ない、わかん、ないっ、」

涙が次々に溢れてしまう。なんで、なんで。

「も、やだ、からだ、おかしいっ、」

「とりあえず着替えよう」


「ゆうた?」

「あ…え…」

「お着替えおわったぞ?」

「あ…」

ショックでボーッとしている間に、いつのまにか着替えさせられていた。

「眠い?」

「ううん…」

「嘘つけ。瞼落ちてる。今日はもう寝るか」

「ねむくない…」

「布団に入ったら眠くなるよ。ほらおいで」

手を引かれて、今度こそ寝室に向かう。

「おにいちゃん…」

歩いているお兄ちゃんのお腹に抱きつく。

「どーした?だっこ?」

「ねたくない…」

「どーして?」

怒っていた時とは違う、柔らかい声。もう、我慢できなかった。

「こわいのっ、なんかいも、なんかいもおじさん、出てくるっ、」

「っ、そうか。それは怖いなぁ。じゃあお兄ちゃんと寝ようか」

「だめ、みちゃう、から、もう、ねないっ、」

「そっか、寝たくないのか」

「うんっ、」

「じゃあ一緒にリビング行くか」


「テレビつけてた方がいい?」

「…ううん…」

ソファに座ったお兄ちゃんに抱きついているから、そんなのいらない。

「そっか、ごめんな?頭ごなしに怒ったりして」

「ううん…っ、」

「どんな夢なんだ?嫌なことされる?」

「いいたく、ないっ、」

「そっかそっか」

お兄ちゃんは何も言わずに僕の背中を撫でてくれる。いつもは大好きな感触。

「それ、やだ」

「どれ?」

「せなか、なでないで、眠くなっちゃう」

「そっか」

 背中を撫でられなくなってからしばらくが経った。お兄ちゃんはあったかくて気持ちよくて。いやでも目がトロンとしてしまう。お兄ちゃんは何も言わない。

「おにーちゃん、おきてる?」

「んー?起きてるよー」

「おにー、ちゃん…ねむいぃ…」

「そっかー、もう2時だもんなー」

「おに、ちゃん…」

何もしなくても落ちてくる瞼。何度も力を入れるけど、目の前が暗くなっていく。

「こわい…」

お兄ちゃんの背中側のTシャツをぐしゃぐしゃになるまで握る。閉じかけの瞼が熱くて、何度も何度も水が溢れる。

「こわいなぁー」

「っ、っひっ、…うぅー…」

やめてって言ったのに、ポンポンと叩かれる背中。

「大丈夫、お兄ちゃんが呼び戻してやるから」

最後の方は何を言っているかは分からなかった。ついに僕の体は限界を迎え、眠りの世界に落ちてしまった。

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