第2話(ルート2)

「っっ!!!」

ハッと目を開けると、見慣れた天井。でも、起こされようとした体は、お兄ちゃんの腕につっかかる。

「ん゛~…」

お兄ちゃんのうめき声。まずい、起きちゃう。息を潜めて動きを小さくする。

(どうしよう…)

ズクン、といつもの感覚。今日はもう、すでに一度トイレに着いてってもらっている。流石に2回も起こすのはお兄ちゃんに悪い。時計は午前4時。我慢できる。それよりも、だ。

(お兄ちゃんの布団でみちゃった…)

 あの、嫌な嫌な夢を。思い出しちゃって、また心臓がうるさい。

(もう、見たくない…)

ギュッと目を瞑っても、開いても、考えてしまう。

(こわい、こわい、こわい…もう、やだ…もう、)

 寝たくない。



「よし、そろそろ寝るか」

 金曜日の夜は1時間だけ夜更かしをしていい、これがお兄ちゃんとの約束。11時までの金曜番組を観て寝る、これが週末の恒例行事となっていた。

(ねるの、やだな…)

最近、あまり寝れてないからか、本当は眠い。でも、寝たらあの夢を見ちゃうから、寝たくない。

「えー、ぼく、この後のやつもみたいなー」

「だめだ、1時間の約束だろ?録画して明日見なさい」

「はーい…」

やっぱりだめだった。

(そりゃそうだよね…)

 お兄ちゃんは優しいけど、ルールを破ると怒る。宿題をやらなかったり、門限を守らなかったり。

 いつものように布団に潜り込む。

「じゃあおやすみー」

お兄ちゃんが電気を消して、真っ暗。

どく、どく、どく…

とりあえず目を閉じてみるも、心臓がうるさくて、寝れない。

すぅ、すぅ…

10分くらい経っただろうか、お兄ちゃんの寝息が聞こえる。

(あ、なんか)

だめだ。落ち着かなくて、不安。この静かなところが、怖い。


『はははははっ、』

 こっそりとリビングでテレビをつける。小さい音で、部屋の電気はつけないで。

見たことのある芸能人が、喋っている。正直何が面白いのかは分からないけど、音のある空間に少し安心した。

 ソファで膝を抱えてみていると、さっきまで消えていた眠気を思い出す。うとうとと瞼が落ちかけ、笑い声でハッと現実に呼び戻される。


「何やってるんだ」

何回それを繰り返した頃だろう。後ろから、聞き覚えのある声。そして、その声は怒っている。

「あ…」

ブツン、と電源を切られ、代わりにリビングの電気がつけられる。

「今何時か分かってるのか?」

「えと…」

その顔を見られなくて、俯く。

「答えなさい」

「いちじ、はん…」

「起きてていい時間は?」

「じゅういちじ…」

「そうだな。でもユウタはそれを破った」

「…ごめんなさい」

「とりあえず今日は遅いから寝るぞ。お説教は明日」

手を無理やり引っ張られて、寝室に連れていかれようとする。だめ、寝たら、寝ちゃったら。

(また夢、みちゃう…)

じゅわあああ…

「え、ゆうた?」

突然名前を呼ばれる。でも、さっきみたいに怒ってなくて、何か、困ってる。

「どうした?おしっこしたかったのか?」

「え、…」

何を言ってるの、そう言う前にお兄ちゃんが何を言っているのかがわかった。

だって、下を見ると、僕のパジャマはびしょびしょに濡れていたから。

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