わざとじゃないけどおねしょしちゃう少年の話 第2話

「どうした!?あー、吐いちゃったか」

「ごめ、なさい…」

「熱は…ないな…まだ気持ち悪い?」

「ううん…」

「お腹いたい?頭は?」

「どこも痛くない…しんどくない…」

「そうか。とりあえずもう一回お風呂入るか。ここで脱いでしまえ」

「うん…」


「ほら、お水。びっくりしただろ」

「うん…ごめんなさい…」

また新しい服を身につけて、手渡されたお水を飲む。

「本当にどうしたんだろな。今日は暑かったからかな?」

「暑かった…かもしれない…」

「ユウタ、今日お菓子何を食べた?」

「ゼリー…」

「え、それだけ?」

「うん…でもご飯の前に食べたから。食べられなくなったかもって…」

「うーん…それってもしかしたら夏バテかもしれない」

「なつばて?なにそれ」

「ほら最近暑くなってきただろ?体が疲れてたりすると、食欲も落ち気味になるんだ」

「僕、元気だけど」

「知らず知らずのうちに疲れが溜まってた、何てことはよくある。今日はもう寝てしまえ」

「でも宿題…」

「明日は土曜日だろ?」

「あ、そっか」

「じゃあ少し早いけど寝るか」

まだ全然眠くない、そう思っていたけれど、お布団に入った瞬間、すごく眠たい。お兄ちゃんの言う通り、疲れていたのかな…

「おやすみ」

背中をトントンしてくれるお兄ちゃんの声を最後に、僕は夢の世界に旅立った。



「ふぁ…」

今は何時だろう。カーテンは閉まっているけど、光が漏れていないから、まだ夜中なんだろう。

ぐぅぅ…

「おなかすいたな…」

なるほど、お兄ちゃんはすごい。お腹の虫がくぅっと鳴る。冷蔵庫のしょうが焼き、食べちゃおうかな、そう思って体を上げた。

ぐじゅ…

「え…」

布団の中なのになぜか、湿った音がする。この感覚は覚えている。昔、わざとやっていた、あの。

(ほんとうに失敗しちゃった…)

 初めて失敗した時みたいなドキドキ感。わざとじゃないから、焦る。

 ピカッと光る時計を覗き込むと、まだ夜中の2時。お兄ちゃんは眠っている。

 ふるっ…

 おしっこしたいな…

 寝ている時には出来っていなかったみたいだ。かなり、したい。どうせお布団は濡れているんだから、ここですればいいんじゃないか?そうは思うけど、なんとなく気が引ける。

(おといれ行こう…)



 ぐしょぐしょのズボンのままトイレに向かい、用を足す。灯りをともしてみると、けっこうひどい。水色のパジャマがそこだけ色が濃くなっている。

(朝まで待って、お兄ちゃんに謝ろう…)久しぶりだから、どうやってごめんなさいすれば良いのか、分からない。

(おねしょしちゃった、ごめんなさい…かな…)

 おねしょしちゃった、ごめんなさい。おねしょしちゃった、ごめんなさい…

 ドアを開けて、布団に潜り込む。布団はおしっこで、夏なのに冷たくて気持ち悪い。

ぐぅぅぅ…

「ゆうた…おなかすいた?」

寝ぼけた声が横から聞こえる。お腹の音で起こしてしまったようだ。

「何か作るか。夜中だから…うどんはどうだ?」

 部屋が明るくなって、お兄ちゃんはお布団から出ていて。でも僕は出られない。

「あ、の、」

「ん?」

言わなきゃ。頭の中でいっぱい練習した言葉を。

「お、あ、」

口がぱくぱくするだけで、声が出ない。

「うん、どうした?」

「わざとじゃ、ないっ、」

ちがう、そうじゃない、慌てて訂正しようとするけれど、喉がひくついて、代わりに出てくるのは涙だった。

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